性教育
各家庭で悩むことなのではないだろうか。我が家の場合、本に大きく頼った。
その昔若い教員で幼児の父であった(今では元)夫は性教育の講演を聞いた。「恥じらいや抵抗感を覚えるようになる前の幼い時期に教えるのが望ましい。親は説明をためらいがちだから良い絵本を買って置いておくとよい」と聞いて、なるほどと感心し、早速良質の性教育絵本を買い求めた。
スウェーデンで書かれたものの和訳。グラフィックに、しかし絵本らしく性交が描かれていて「純粋な子供時代に、この絵本のようにいやらしさのないかわいい絵を見ながら、赤ちゃんのでき方を教わることができたおかげで、思春期間近に行なわれる保健の授業に対しても、他の生徒のように戸惑いや恥じらいを感じることはなかったと思います。」というレビューが寄せられたりしている本である。
その通りだった。子供達はいつの間にか読み、ネガティブな印象を持たずに事実を受け入れていた。
とはいえ3人の子供の個性はそれぞれ。記憶力はよいが雰囲気を察する能力が低い脳特性を持つ二男の生み出す状況は独特だった:
1)ある時私の妹が幼い我が子を連れて遊びに来てくれた。夜になって妹が言いにくそうに「あのね、さっきK君にこのページを見せられて『おばちゃんこれやったの?』って聞かれたの。子供に嘘をついちゃいけないと思ったから『うん、そうだよ』って答えておいたけど」と言った。私は平謝り・・・
2)息子二人がそれぞれ小学校中学年、低学年くらいの頃電車に乗るといつもしりとりをしていた。その日は50音順しりとりで、あ→い、い→う、と進んでいく形式だった。「た→ち」まで進み、「ち」の当たった二男は大きい声で「チツ!」。長男「え?ずるだよ。そんなのないよね、お母さん。」私低い声で「いや、ある(何でこいつだけ覚えてないんだ?!)」長男「ねー何のこと?」電車中の耳がこっちに向いている気がした。
末っ子は娘。やはり自然に読んですんなり通過したと思ってすっかり忘れていたら、既に恥ずかしい感覚のある小学校高学年になったある日、遊びに来た友達に発見されて散々茶化された。娘は「何であんな本が私のところにおいてあるの」と激怒。撤去されるに至った。
いや、確かに面と向かってそういう話をするのは照れくさく、茶化してしまうのはよくわかる。私は、妊娠の仕組みだけでなく、身体がどう変化していくかも本を置いておくことで彼ら自身にその変化が起こり始める前に知ってもらっていた。
今は20代の社会人である娘と最近話したら「科学的医学的な知識は早くからたくさんもらったし、そういう話題全くタブーじゃなかったけど、ネットについてはものすごくがっちり管理してたよね。あれ不思議だった」と言われた。
そう。娘の世代になると早くから携帯電話も持つし、PCも使うが、どちらも年齢相応のフィルターをかけていた。少々お嬢様学校系の中高に通った娘の周囲には中学生になっても本気で「キスしたら子供ができる」と思っている子がいたりする割に、ネットアクセスはほぼ自由にできる子達が結構いたようだった。
「それでどうだった?」と聞いたら、「こんなに制限されてたら解放された時にどれだけ反動がでるかと思ったよ。でも、まぁ、メカニズムとか何が危険かとか知ってるから解禁になってから色々見てもいい加減なこと言ってると思ったらそれは真に受けなかったってのはあるね」
それなら私の狙った通りになってくれたのだ。私は怖がりだ。娘を守るにはどうしたらよいだろうと考えて取った戦略が、煽情的/売らんかな/あわよくば等々の危うい情報が入ってくる前に、身を守るために必要な知識を身につけ、当事者になった時に自分で考えられるようにしておくことだった。
娘が心身が急激に変化する不安定で危うい所謂「中2病」の時期に入ったのは、東日本大震災があり、彼女の両親である我々が離婚する2011年だった。落ち着いてほのぼのと話ができる状況ではない。
私は本で勝負に出た。
////////////////イェール大学で修士、ボストン大学で人類学博士号を取得した女性が著者。34歳のとき、同棲していた恋人が、彼女の銀行預金をすべて引き出して逃走。経済的に追い詰められているとき、エスコートサービスで働く女性を募集する広告に出会い、そこに苦境を抜け出す活路を見いだす。以後、3年間、昼はカレッジで教え、夜はコールガールとして稼ぐ、という二重生活を送ったことを自ら書いている。
目次
コールガール募集広告を見て電話して、その夜に最初の客を取る
なんとおもしろい裏稼業。女将のピーチに会って自信をつけた
「淫売」と罵られ、身体に青あざをつくって、仕事の厳しさを思い知る
痛い仕事のあとにはおいしい仕事、それが埋め合わせになるかならないか
とんでもないお客と泊まりがけでカジノへ。もうこりごり
裏と表の世界を行き来し、旅をするように男たちと寝る
コールガールであると告白するのは簡単ではない。そう思い知ったある出来事
誰にも話せなかった…客の欲望が胸に刺さった夜
そこここにドラッグの誘惑が。コールガールと送迎係の奇妙な関係
ドラッグに溺れたソフィー。彼女とわたしの運命を隔てたものはなんなのか〔ほか〕//////////////////
売春に追い込まれた事情、得られた利益、危険、その後の人生への影響、そういったあらゆることを社会学者としての「参与観察」の目を持ちながらスリル満点に書いている。読まずにはいられない本だ。
「この本すごいよ。読んでみる?」と娘に渡した。かなりの勢いで読み切ったようだった。そりゃあの本が手元にあって無視できるはずがない。そして、私が娘を一人の女性として信頼し、判断を任せているというメッセージは伝わったようだった。
大人になった娘が言う:「娘に性的な知識を与えないことは守っていることにならない」。少々大きすぎる制服を着た可愛い12歳だった頃からの元同級生たちの中に、知識がないことから辛い思いをする結果になった子達がいるようだ。
「学校でも何も教えてもらわなかったわけじゃないんだよ。自分には関係ないと思ってたのかな?」と娘は言う。ひょっとすると、親がそういう情報をできるだけ排除する/そんなことは知らなくていいと感じることになるフィルターのような役割をしてしまっているのではないかと思ったりする。保護者会などで性教育の話題になるとそっとしておいて欲しいという手のことをいう保護者には何度か出会ってきたから。大切な娘は無垢であって欲しい、それが幸せな人生につながるだろうという思いがあってのことだろうが、身を守る知識がないことが残酷な結果になるのはまれなことではない。
最近卵子凍結その他生殖医療やLGBTQ+のことも少しずつ知り始め、「知らない」「考えたこともない」ことにより、本人にとってもその周囲にいる人々にとっても、避けられる不幸が生み出されていることを痛感している。
大人も学び、知識をアップデートし、議論を重ねていかねばと思う。
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