バイト
めちゃくちゃ至近距離までよっても中国語話してるようにしか聞こえないトーンの客、刺青入ってるけどめちゃくちゃ物腰低い客、刺青入ってるうえにめちゃくちゃ高圧的な客、カンニング竹山みたいな顔つきの客はだいたい性格終わっとるし、話せる単語を「は?」と「あ?」しか設定されてないのかそれだけで終わる客だったり。
クソデカ泣泣声幼児、それを止めるために「泣き止まないとお父さん呼ぶよ」という謎の文言で注意する母、即泣止幼児の姿を見てその家庭の複雑さを何となく察したり。閉店間際にやってくるバカデカ声のラクビー部軍団、一言も聞き取れないバカ極小ボイスおじいだったり。
バイトに行くと頭の中がバイトになって。
うどんを持ち帰る客のうどんと天ぷらを袋に詰めて。
「お箸はお付けしましょうか?」
と聞いたら、
「そんなこと聞かなくてもわかるだろ!俺に手で食えってのか!?」
と怒鳴られて、
「申し訳ございません」
と頭を下げて謝ったあと、バイトが終わって、家に帰ってお風呂に入って、湯船に漬かりながら、
「……お箸はお付けしましょうか?」
「お箸はお付けしましょうか?」
「お、お、お箸はお付けしましょうか?」
「お、お、お、お、お箸はお付けしましょうか???」
「お箸はお付けしましょうか!」
「お箸はお付けしましょうか!お箸はお付けしましょうか!お箸はお付けしましょうか!お箸はお付けしましょうか!」
と、何度も何度も繰り返して言ってしまいます。
「失礼しました!申し訳ございません!お疲れ様でした!申し訳ございません!」
そんなときに自然と流れる涙というのは何ともサラッとしていてまるで僕のこうした気持ちすらも本当は悲劇的なこの僕を誰かに見てくれって本当は思ってるだけなんだろって思われてるみたいで、なんかすごく自分が薄っぺらく感じてしまって余計に。黒い渦のようななんかそんなものが目と鼻の中間あたりで渦巻いて、ぐるぐるとして。
今日も僕は長湯をしてしまうのです。
そんなことを思いながらバイトに今日も向かいます。