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牛乳の味

最近、我が家の牛乳消費量が格段に増えた。
と言うより、私が牛乳をよく飲むようになった。

理由はよく分からない。
きっかけは二つある。

コーンフレークをネタにした某コントを見てから、やたらコーンフレークが食べたくなったこと。
小中学校に提供されるはずの牛乳が一斉休校の影響で余ってしまい、その量がやばいとのニュースを見たこと。

この二つが私の中で上手いことドッキングし、
コーンフレーク食べたい…………
牛乳を気持ち少なめにかけて前半ザックザク後半しっとりのコーンフレークが食べたい…………
という欲がぐるぐる回ってどうにも出来なくなってしまった。

虎が腕組みしているコーンフレーク、食べようじゃないか。

そうは言っても近所のスーパーまで行く元気が当時はなかったので、
私は家から徒歩3分圏内にあるコンビニで牛乳とコーンフレークを買った。
素朴なプレーン味である。
残念ながら虎が腕組みしているあれではなく、坊やがパーティ帽子を被っているパッケージだった。

まぁるいボウルをコーンフレークで満たし、
そこに牛乳を少なめにかける。

私は牛乳1.5:コーンフレーク4の比率で食べるのが好きだ。
こうして軽くかき混ぜて食べると、コーンフレークのザクザク感を残しながら牛乳とのマリアージュが口の中で味わえるのである。
そして私は食事に結構時間をかけてしまうタイプである。
時間をかけてゆっくり食べていくと、後半に牛乳を吸って柔らかくなったコーンフレークとご対面する。
ザクザク食感に疲れてしまった口に、このふにゃふにゃ食感が優しく染みるのだ。
そうしてコーンフレークを食べ切ると、器の中に味付きの牛乳が残る。
それを飲み干すのが私は好きなのである。

そんな感じで、コーンフレークを食べ続けた時期が一ヶ月は続いたと思う。
私の中でのベストオブコーンフレークは今のところチョコワが殿堂入りしている。

ところが、コーンフレーク生活がある日幕を閉じてしまった。
母による食生活改善作戦が実行されたのである。
おかげでコーンフレークを食べる日は週一に落ち着いてしまった。

それにも関わらず牛乳の消費量は右肩上がりである。

何故かと言うと、牛乳が美味しいからである。

牛乳で割るカフェオレを母が買ってきたのでそれを飲むために牛乳を買うという理由もあるが、ただ単純に牛乳が美味しいのである。

一日に一回は牛乳を飲んでいる。

とはいえ牛乳を一定量以上飲んでしまうと、
空に暗雲が差し込み、
草花は枯れ、
大地が割れ、
雷と豪雨が地上を埋め尽くす、
ということが己の腹の中で起きてしまう体質なのである。

さすがに毎日毎日体内を世紀末にする訳にはいかないので、量はちゃんと調節して飲んでいる。


牛乳を飲む度に、思い出すことがある。

国語の授業で読んだ、
「おとなになれなかった弟たちに…」
という作品に、

戦時中でひもじい思いをしていた主人公が、
乳児である弟のミルクに強く惹かれて盗み飲みをしてしまう。

というシーンがある。

甘いミルクは主人公にとってとても魅力的だったことを感じさせる一節と、
母が主人公に言った、
「ヒロユキ(弟)はそれしか食べられないのだから」
というセリフが心に焼きついている。

当時の私に深く爪痕を残した作品なのだが、
その作品の授業を受けてから、
給食に出てくる牛乳の味が変わったことがやけに記憶に残っている。

無味だと思っていた牛乳が、とてもとても甘いのである。

主人公の弟が生きるために飲んだミルク、
その甘さに惹かれて主人公が盗み飲みをしてしまったミルク、
それと私が今飲んでいる牛乳は同じものでは無いけれど。

ああ、そうか、主人公はこの甘さをご馳走として求めてしまったのか。

と、子供ながらに感じたのだった。

今私はこれを書きながら牛乳をちびちびと飲んでいる。
何の変哲もない、1リットル200円前後の牛乳である。

ただグラスに注いだだけなのに、
この牛乳は、
とても甘い。

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