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過去の僕から届いた言葉⑥

「さらっとした会話で次々に流れていく風景を僕はドラマのワンシーンのように見ている感覚だった」

「それから部活のことだったり、担当クラスの話だったり、家族の話とか、そんな他愛もない会話を3人でして30分くらい過ごしたんだ」
「『俺はそろそろクラスに戻るな。お母さんと楽しいこと美味しいものたくさんしろよ~』」
「そう言って顧問は別室を出ていった」

「そのあとは母と筆談をしたり、美術の授業でやっていた切り絵を黙々としたかな」
「いつもより平和に過ごせて心が穏やかな日だったよ」

「今日は母と二人で病院に行ってきた」
「耳のことで少しでも良くなる方法だったり、それがわからなくても診断をしてもらうことでカルテを作ってもったりすることはできるという理由で後のことを考えて母は動いてくれたみたい」
「僕は相変わらず病院が嫌いなのであまり乗り気ではないんだけど」
「まあ病院が好きな人なんていないよね、いたら話してみたいくらい」

「耳のことだけど、最初に偏頭痛のこともあったから先に脳外科だったかな…に行ってきた」
「MRIをしたんだけど、何せ僕の耳は今周りの音がかなりの爆音なので工事現場にいるみたいで苦痛でしかなかった」
「もう二度としたくないのが正直なところ」
「とりあえず原因とかいろいろ調べて分かるためにやることだから我慢するしかないよね自分のことだし」
「レントゲンとか、色々したんだけど結果として何も異状はないんだって」
「脳はものすごくきれいで何も陰りもないし、健康すぎるってさ」
「他もなんか言われたけど覚えてないや」
「耳の原因がわからなくても体が健康ってことが解ったからまあ別の意味では安心だね」
「頭痛は遺伝のものが大きいから仕方がないのと薬は合うものでないと肝臓に負担がかかるから希望があれば薬は出せるけどって言われてた気がする」
「合わないものに期待しながら飲むなんて嫌なので断った」
「母も僕が良いならって納得してくれてる」

「それからもうひとつ行った」
「何個か病院回ってたけど記憶あんまなくて印象に残ってるのが二個しかないからそれだけ書いとくね」
「多分母に聞けばどんなところ行ったか分かるから気になるなら聞いてみて」
「もう一つは耳鼻咽喉科だったかな」
「そこでは聴力検査と、喉の検査と、なんかやった」
「けど全く異常はないしけんさの数値も普通の人とあまり大差ないんだって」
「少し普通の人より聞こえがいいねってくらいらしいよ」
「けど実際に聞こえている音はずっとうるさくて、常にカナル型イヤホンをしていないと騒音過ぎて話なんてしてられないくらい音がごちゃ混ぜ」
「工事現場とゲーセン合わせたみたいな感じ」
「そんな感じのことをお医者さんに言ってみると」
「『実際にはここの医院ではあなたと同じような症状の人はまだあったことがないのは事実なんだけど、逆はかなりあるのね。だから、聴こえが悪いっていう難聴が多いけど、私としては聴こえすぎてしまうってことも難聴の一つだと思うんだ。種類としては聴覚過敏の類だとは思うんだけど、詳しく診断名をつけたり、知ったりするためには紹介状を出してまたもう一回検査を受けなきゃいけないのね。だから、希望をするのならだしてあげることはできるんだけどどうしたいかな。』」
「一つずつ丁寧に僕の目を見ながらその人は話してくれた」
「でも僕は行く病院や会う人に毎回同じ内容を何度も何度も話して、騒音の中長時間我慢しなくてはいけないことに疲れた」
「それに、どうせわからないだろうっても思ってる」
「母は、一応紹介状を出してもらうことにはしたらしい」
「行くかは後ででも決められるから行きたいのなら枠は必要だしねって」
「もう疲れたな、それしか頭に浮かばない」

「家に帰ってきて母とお話ししたんだ」
「『疲れたねー、……病院、行くのやめよっか。たくさん頑張ってくれてありがとう。けど、今は病院で原因とか診断名をもらうより海月の回復のほうが先だよね。同じ検査を何回もしてその度におっきな音で襲われて…。カルテもらったら少しは学校側にも伝えやすくなるかなって思って動いちゃったんだけど…。何度も何度もごめんね。ありがとうね。たくさん明日からはリフレッシュしないと。なにしよか?』」
「にこっと笑って母は僕を抱きしめてくれた」

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