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「進学希望の差 浮かぶ要因は」って問題にぶつかったので解いてみた!
なになにどうした?共通テストの答えあわせをしようと思ったら、なんか変な問題にぶつかったって?えっなんだろう?見てみよう。今日(19日)の朝日新聞の朝刊だね。…たしかに、共通テスト記事の直前だから気になるね。じゃあせっかくだからまずはこの問題を解いてみようか。大丈夫。大人のための大学受験予備校講師umisioがつきあってあげるよ。せっかくだからどこかの英語史の先生がやっているように千本ノック風にいってみよう!
なになに?次の文章と図を参考に以下の問いに答えよ、か。ラッキー!これよくメディアで見かけるやつだよ。
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まず問題に入る前に、グラフを読み解かなければならないね。図2の「世帯収入別大学進学希望率」から行ってみよう!このグラフは、表題の通り、世帯の収入によって大学進学希望率がどうなのか、を示しているね。これから何が読み取れるか?これひっかけだから注意が必要ねだよ。ついつい、「世帯収入の低い世帯の子は大学に進学したいけどお金がないから断念している。」と読み取っちゃいがちだけどそれはひっかけ。このグラフから読み取れるのは、「世帯収入の低い世帯の子は大学進学を希望する率が低い。」それだけなんだ。「大学に進学したいけどお金がないから断念」という部分は完全に憶測だね。メディアが統計データを出す時は、そうした憶測をねじ込む場合が多いから注意が必要だよ。メディアや教育機関には、「収入の低い世帯の子は、本当は進学したいのだができない。」という固定観念があるようなんだ。「進学を希望しない人って何か理由があるんだ。可哀想だね。」なんてね。大学に進学して視野が広がるどころかこんな風に視野狭窄になる人もいるのでしっかりしてね。
ごめん、ちょっと横道に外れちゃったね、まず言えることは、一般的に進路、職業の選択はその子の環境、例えば家庭や地域の影響を強く受ける、ということ。えっ?なぜ突然、職業を出したかって?なぜなら、職業と進路は切っても切れない関係にある。この問題には出ていないけど、これを読み解くにあたって職業について考えることは必須なんだ。
一般的にいって(というか現代、都会は違うかも?)子どもがまず目に触れる職業は、親や近所の人々の職業で、それをみて自分の職業を考えるものなんだよ。ボクはよく小中学校の職業講話みたいなのに駆り出されて、子どもたちと進路について話たり聞いたりする機会が多かったんだけど、田舎の小中学生って親や近所の人たちの仕事、例えば、船乗りや漁師、大工になりたいと口にする子が結構いるんだ。それってある意味家族や地域が健全である証拠でもあるし、日本全体としても否定すべき現象ではないだろう。
ここから進路につなげるね。じゃあ、漁師や大工になりたいと思ったらどんな進路選択を希望すると思う?昔なら中学校を出たらすぐに仕事についてたけど、今は大体高校を出てからが一般的だね。進学するとしても専門学校止まりだ。当然ながら、そんな子が大学進学を希望することはないよね。ここで収入などに関係なく大学進学を希望しない層が一定数いるということが言えるよね。
そして、図2に戻ると、世帯収入が直接的に大学進学希望率に反映している、という可能性ももちろん否定できないが、その間に職業が介在している可能性を忘れてはならないんだ。というのも、漁師や大工といった現場主体、肉体労働的な仕事、あるいは第一次産業的な仕事って、それほど収入は高くないんだ。(これもデータ検証が必要)私の住んでいるところはそうした現場主体の仕事が多く、その多くの世帯は、図2の一番上、最低の収入世帯に入ることは実感からして間違いない。むしろ、400万円は少し下げてもよさそうだけど。
以上のことを踏まえると、収入の低い世帯の大学進学希望が低いのは、志望している職業が大学進学を必要としないこと、並びにそれらの職業が低収入であるという可能性が高いということが言える。もちろん検証が必要だけど、少なくとも「収入の低い世帯の子は大学に進学したいけどお金がないから断念している。」というのは間違いであるのは確かだ。
以上の読み解きを踏まえて、問1を考えてみよう。次の①から④のうちから、あなたが必要だと感じるものをすべて選べ、とあるね。では、順番に考えていこう。
まず①の「返済不要の奨学金の拡大について」。この是非の判断を問題文で示された情報だけで行うことはできないね。先ほど、図2の読み解き方の引っ掛けについて話したけど、たとえどちら側に立ったとしても、「返済不要の奨学金の拡大」が必要かどうかを答えることはできない。というのも、それを判断するためには、「今の奨学金では足りないのかどうか」、「返済不要まで拡大する必要があるのか?」といったデータが必要なのだが、見る限り一切提供されていないだろう。だから、無理に答えを出すとすれば「解なし」になる。
もっとも、これで終わるのはもったいないから、大体の感覚でOKとした上で結論を出させてもらえば、「これ以上の奨学金の拡大は不要」となる。これは図2の一番上の世帯収入の人間としての経験を踏まえてのことだ。お金の面だけでいうならば、現在の奨学金制度でも来るべき人間は間違いなく大学に来ている。もし、これ以上奨学金制度を拡充すると、「返還なしの奨学金だったらすぐ働くより大学生でしばらく過ごす方がいいかも」と学習意欲のない学生を取り込むことになって、無駄な公費が支出されることになるね。もっとも、少子化によって存続の危機にある大学を救う効果はあると思うがね。
次に選択肢②だ。「オンライン大学などの選択肢の拡大。」これも①と同じく、問題文で与えらたデータでこの是非を判断をするなどできない。従って「解なし」だ。
次に選択肢③だ。「幼少期からの学習・生活支援。」これも答えは「解なし」というか、もはや問題との関連性さえ疑わしくなってきたね。
④「家庭環境によらない学習・体験機会の提供。」ここまでくるともはや答える気力がなくなってしまう。
そうそう、一番下に「答え」が書いてあるから見てみよう。
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なんと、「不正解はありません。もっと他にやるべきことを…」とあるね。①から④まで全部正しいんだって!これは驚いたね。踊る阿呆に見る阿呆同じ阿保なら踊らにゃ損損、って歌あるけど、広告を出してる日本財団もそれを載せてる朝日新聞も一緒に踊っているみたいだね😛
なんか時間を無駄にしたようで申し訳なかったね。付き合わせてごめん。
でもこうしたポンコツ問題に付き合った時でも得られるものがあることを知ってほしい。このグラフをよく見ると、そこに社会の問題が見えてくるよ。図1と図2を合わせてみると、「大学進学率」と「居住地域」と「収入」に相関関係があることが分かるね。(因果関係ではないよ。)図1で地方では進学率が低い、図2で収入が低い世帯は進学率が低い、ということが分かる。だとすると、地方は都会に比べると収入が低い、ということが相関上言えるね。(検証が必要だけど)そこに、地方や収入が低い世帯では、旧来の仕事の選び方が残っている分、肉体労働的な仕事が多いと考えることができる。よって図1と図2だけからも、現在の日本では、職業によって収入に大きな差がありそうだということがわかるね。もちろん、それをストレートに示すデータもあるはずだ。
となると、親の職業に憧れて自由意思に基づいて職業選択を行なった場合、肉体労働的な職業の場合は、低収入まで引き継ぐことになる。一方、医師である親に憧れて医師になった場合は、高収入を引き継ぐことになる。自由な職業選択を!と言いながら、職業によってこんな格差があっていいの?
そして、この問題文から見えるのは、若者たちのチャンスとは、大学進学を要する職業へのチャレンジだけを指し、大学進学を不要とする職業へのチャレンジはチャンスと見なされていないということだ。
職業の選択が自由という社会は、医師の子が漁師を目指したり、介護の現場を目指すことだって可能な社会であろう。ところが、こうした選択は大学進学を下げかねず、問題文の趣旨からは望ましくない、となろう。また、これだけ職業による収入格差があれば、なかなか高収入の職業の子が低収入の職業を希望することは難しだろう。よって、職業選択が自由な社会を目指すのであれば、職業間の収入の格差を是正していく必要があるよね。
まあ、こんなポンコツ問題の場合は、こんなポンコツ文を出す社会ってどんな社会だろう?という意識で取り組むと何か見えてくると思うよ。
えっ?なんでこんな問題が新聞に載るのかって?うん、鋭い指摘だね。詳しいことはいつかまた話すけど、一言でいうなら、「大人の事情」ってやつだよ。