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私は幸せじゃない
夫婦して少し失敗をした時に、義母にそう言われた。かれこれ十数年前の話。
「私は生まれてこれまで、心底幸せだと思えたことがない。今もそう、あなたの、あんたたちのせいで、私は幸せじゃない」
失敗そのものは申し訳なく、謝らねばと思い夫と共に謝罪に行ったあの狭い台所で、義母は声を震わせて私たちを責めた。
というか、主に私を責めているように聞こえた。
いけ好かない嫁のせいで幸せじゃない生活を送っているという言い分は百歩譲って納得するとして、生まれてこれまで幸せだと思ったことがないというのは、実の息子の前で果たして言うのが正しいのかどうなのか、そっちの方が気になって仕方なくなったのを記憶している。
・・・
義母は、嫁の私から見ても生真面目で几帳面、毎日決まったルーティンをこなし、日々の暮らしを予定通りに推し進めていく、血液型占いしてもらったら典型的なA型の中のA型なんじゃないかと思えるような、そんな人。
少しイレギュラーなことがあると気持ちが逆立つのか、眉間にしわが寄る。立てる物音が大きくなる、部屋にこもる。あの家は義母のご機嫌で晴れたり曇ったり、それが通常、当たり前だった。
「お義母さん、なんか機嫌悪いね」
「そう?いつものことじゃない?」
義母の息子である夫にとっては、母親の機嫌の良し悪しは取るに足らないいつものこと。放っときゃ治るっしょ、程度のもの。あまりに当たり前の光景で、「幸せじゃない」発言をされたその時も、
(あー、また機嫌悪くなっちゃったな)
夫はたぶんそのくらいにしか受け止めていなかったと思う。
息子が生まれたその時も幸せを実感しなかった、そう言ってるのと同意では?私はそう思ったのだけど、それとこれとは別だったらしい。私はもうよくわからなかった。
ただ、その時のその失敗は至らない嫁のせいであって、母親の幸せを大事に大事に考えてくれていた孝行息子は、その嫁のせいで親を大事に思う気持ちも態度も失われつつある。
そう言いたいのだ、きっと。人の嫌味に2日経って気が付くような鈍い私にもそれは伝わった。
謝りはしたものの許してくれないんだろうな、というご回答。
たった今、約束を守れなかったという失敗をしたせいで、お義母さんが幸せじゃないのは申し訳ない。ごめんなさい。確かに私は至らない嫁です。
でも、
これまでの人生の幸せじゃなかった部分は、私のせい?息子のせい?
それを吐く相手は私たちではない。
でもそういうことも嫁の私のせいにする、そんな土壌が義母の中にできつつあることに、なんとなーく気が付いてしまった決定的な出来事だった。
・・・
ちなみに、
朝ごはんを家族揃って食べたいの。だから日曜日は7時に起きて食卓についてね。
その約束を2人して寝坊して守れなかった私たち夫婦。
日曜日くらい、時間を気にせず寝ていたいと思うのはそんなに罪ではないと思うのだけど、うん。
(続くかも)