三位一体のあなたへ
今日は母の誕生日。
〈 真夏日なので熱中症には___ 〉
なんていう文言がテレビから聞こえる午後3時。
それを背にして、喉がカラカラな私は暑さに苛立ちを覚え、水の入ったコップに氷を投げ入れる。
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日が落ちて涼しくなってきた。
今日と同じ風景はないのだけれど、いつもと違う陽に見えた。特別な夕日。
そうだ、夜ご飯作らなきゃ。
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「どうしてもオムライスが食べたいの!」
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今朝、母が家を出るときに言っていた。振り返って子供のように叫んでいた。
そんなこんなでできあがり。
世界に一つだけのオムライス。
' Happy Birthday '
ケチャップで文字を添えて。
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妹と母が帰ってきた。
父は単身赴任中。3人だけのパーティー。
私は手料理で、妹はバイトで貯めて購入したデパコスの化粧品をプレゼントした。
「ありがとう」
こちらこそいつもありがとう、と妹と声が重なる。母は微笑んだ。
妹にはうさぎ、自分にはねこを描いたオムライスがテーブルに並ぶ。
失敗した自分のオムライスは、バレないよう赤く塗りつぶして誤魔化した。
目を輝かせながらそれを口に入れ、嬉しさを噛み締めた母を見ると笑顔が絶えない。
幸せなひととき。
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ホールケーキの入った箱を開け、ロウソクを刺せばあとは食べるだけ。
母の目に火のついたロウソクが写ったと思えばそれは涙になり、ゆっくり揺れて静かに下へ落ちる。
「ありがとう」
オムライスの時とは異なる弱々しい声。
すると、突然のカミングアウト。
「あなたたちには、おねえちゃんがいたのよ」
喧嘩してぶつかり合い、それでもなんとか大人になった私たち。
生まれてこれなかった、とまた涙を流す。
母は辛い思いをしながら何年も隠し続け、いつか打ち明けようと決めていたのだろう。
予定日がちょうど母の誕生日と同じ、今日。
深くは聞かなかった。
「そうだ」
妹は言葉を残し、キッチンへ向う。
新しく持ってきたお皿にケーキを移し、それを丁寧に持てばベランダに出た。
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今日は満月。
「月の光でおねえちゃんに届かないかな」
声を震わせ、目を潤ませながらお皿を月に向ける妹がいた。
月の光でキラりと光る赤いイチゴと涙。
月は太陽に照らされ、イチゴは月に照らされる。
もし私にお姉ちゃんがいたら、また違う人生を歩んでいたのだろう。
' お姉ちゃんなんだから ' という言葉は今日だけ捨てて、静かに泣いた。
やがて、薄い雲がやってきて、月を隠すように優しく覆いかぶさった。
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その日の夜。
妹と私、そしておねえちゃんと思われる人と遊んでいる夢を見た。みんな小学生という設定なのだろうか。
その人は、おままごとを放ってお人形と遊んでいた妹に優しく叱っていた。
でも、その人の顔は見えない。
どんな顔なんだろう。
おねえちゃん
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目が覚め、寝ぼけまなこで時計を見ると、針は6時22分を指していた。母の誕生日と同じ数字だ。
夢と時計。偶然が重なって言葉が出ない。
安堵した私はまた深く眠りについた。
わたしへ
たまには泣いていいんだよ
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※ネットから引用したフリー画像です