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三位一体のあなたへ


今日は母の誕生日。


〈 真夏日なので熱中症には___ 〉


なんていう文言がテレビから聞こえる午後3時。


それを背にして、喉がカラカラな私は暑さに苛立ちを覚え、水の入ったコップに氷を投げ入れる。


______


日が落ちて涼しくなってきた。

今日と同じ風景はないのだけれど、いつもと違う陽に見えた。特別な夕日。



そうだ、夜ご飯作らなきゃ。


_


「どうしてもオムライスが食べたいの!」

_


今朝、母が家を出るときに言っていた。振り返って子供のように叫んでいた。


そんなこんなでできあがり。
世界に一つだけのオムライス。

' Happy Birthday ' 

ケチャップで文字を添えて。


______


妹と母が帰ってきた。


父は単身赴任中。3人だけのパーティー。


私は手料理で、妹はバイトで貯めて購入したデパコスの化粧品をプレゼントした。


「ありがとう」


こちらこそいつもありがとう、と妹と声が重なる。母は微笑んだ。



妹にはうさぎ、自分にはねこを描いたオムライスがテーブルに並ぶ。

失敗した自分のオムライスは、バレないよう赤く塗りつぶして誤魔化した。



目を輝かせながらそれを口に入れ、嬉しさを噛み締めた母を見ると笑顔が絶えない。


幸せなひととき。


_____


ホールケーキの入った箱を開け、ロウソクを刺せばあとは食べるだけ。



母の目に火のついたロウソクが写ったと思えばそれは涙になり、ゆっくり揺れて静かに下へ落ちる。


「ありがとう」


オムライスの時とは異なる弱々しい声。





すると、突然のカミングアウト。




「あなたたちには、おねえちゃんがいたのよ」




喧嘩してぶつかり合い、それでもなんとか大人になった私たち。



生まれてこれなかった、とまた涙を流す。



母は辛い思いをしながら何年も隠し続け、いつか打ち明けようと決めていたのだろう。



予定日がちょうど母の誕生日と同じ、今日。

深くは聞かなかった。




「そうだ」


妹は言葉を残し、キッチンへ向う。

新しく持ってきたお皿にケーキを移し、それを丁寧に持てばベランダに出た。


_____


今日は満月。


「月の光でおねえちゃんに届かないかな」


声を震わせ、目を潤ませながらお皿を月に向ける妹がいた。


月の光でキラりと光る赤いイチゴと涙。


月は太陽に照らされ、イチゴは月に照らされる。



もし私にお姉ちゃんがいたら、また違う人生を歩んでいたのだろう。



' お姉ちゃんなんだから ' という言葉は今日だけ捨てて、静かに泣いた。



やがて、薄い雲がやってきて、月を隠すように優しく覆いかぶさった。



_____


その日の夜。


妹と私、そしておねえちゃんと思われる人と遊んでいる夢を見た。みんな小学生という設定なのだろうか。


その人は、おままごとを放ってお人形と遊んでいた妹に優しく叱っていた。


でも、その人の顔は見えない。

どんな顔なんだろう。



おねえちゃん



_____


目が覚め、寝ぼけまなこで時計を見ると、針は6時22分を指していた。母の誕生日と同じ数字だ。


夢と時計。偶然が重なって言葉が出ない。

安堵した私はまた深く眠りについた。








わたしへ

 たまには泣いていいんだよ



※ネットから引用したフリー画像です

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um.ゆむ
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