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4日目「microKORGと思い出補正」

俺が大事にするモノには、たいてい思い出が紐づいている。
ここでいう『思い出』とは『人との思い出』である。

思い出深いモノはどんなゴミでも輝いて見えるし、逆に何の思い出も無いモノはどんなに高級であっても無関心になりがちだ。
まあ俗にいう『思い出補正』ってやつか。

さて、俺は去年からシンセサイザーにハマっている。特に90年以前のシンセ。
興味を持った一台のシンセから見る時代背景や、それに伴う機能や構造を掘るのは楽しいし、特に気に入ったものがあれば中古ショップを駆け巡ったりメルカリを探したりして購入し、実際に触ってみる。俺はピアノは弾けないんだけれども、適当に弄ったり音を出してみるだけでも楽しいものだ。

ただ、シンセに関しては個人的な趣味なので、冒頭の『人との思い出』はまあ宿らない。
ギターだのベースだの、あるいはエフェクターなんかは、バンドマン時代の思い出が色々あるので、思い出補正で輝いて見えるモノが多いのだが、当時の面子にシンセ使いは1~2人だったし、その人たちも基本はギタリストでシンセの使用頻度は少なかった。

内一人、TKVさん(仮名)という人の部屋で時々触らせてもらったが、当時の俺は今以上に阿呆だったので、そもそもシンセサイザーを「なんかカッコいい音が出るピアノ」としてしか理解しておらず、電子キーボードやエレクトーンなんかとの区別すらついていなかった。

だから、当時目にしていたシンセがどこのメーカーのどんな機種だったのかも今となっては分からないのである。

あの頃もう少し俺に理解力というものがあれば、思い出のシンセや憧れのシンセなんてものもあっただろうに。

数少ないシンセの思い出
D-BEAM付いてたからきっとRoland



先程ちょこっと触れたが、俺はピアノを弾けない。何ならシンプルなアナログシンセの音作りも下手くそだ。にも拘わらずシンセの台数は地味に増えていく。
流石に勿体ないので、そろそろちゃんとシンセを扱えるようになろうと、正月実家に帰る際にmicroKORGと楽譜数点を持っていき、ちょいちょいいじって遊んでいた。

俺のmicroKORGは酷く鍵盤が黄ばんでいる

microKORG……随分と前に何となくで買った一台。
機能がどうとか、気になったからとか、そういった動機も無しに買っちまったモノだから、正直に言って大した思い入れも無ければ、誰かとの思い出もありゃしない。

練習にこれを持って行った理由は、持ち運びが一番楽なのと、俺の持っているシンセの中では一番基本に近いアナログシンセの操作ができるからである。
メインで使っているCASIOのCZはでかすぎて簡単に持ち出せないし、そもそも音作りの方法が異なる。YAMAHAのDXはもっと異なる。

とはいえ、microKORGは機能も使い勝手もいいので、一度触り始めたら時間を忘れる良い子なのだ。

そんなこんなで、俺は思い入れ無き名機をいじる年末年始を過ごしていた。

話は変わるが、1月の2日、俺は久しぶりにとある地元の友達と飲みに行く約束をしていた。名前を……仮に栗木君としておこう。
社会人になってから一度会ってはいるものの、それだってもう10年くらい経ってるのではないか。そもそも俺は中学を出てから地元の仲間の輪からは完全に外れているので、それ以降みんながどう生きてきたのかほとんど知らない。

彼とは小学生の頃馬鹿みたいに遊んでいた。栗木とばあどっつったら当時は色んな意味でキ〇ガイコンビだったと思う。

栗木君との当時の思い出や、今回飲んだ話は、詳細に書くと長くなるので別日に纏めるけれども、簡単に当日のことを書くと、色々思い出話に花を咲かせてみたり会ってなかった時に何をしてたかなんかを話しては、大いに楽しんだ。

栗木君とは同時期に楽器を始めた。学園祭でバンドをやるためだ。俺はベースで、栗木君はギターだった。
当然バンドっつーくらいのもんで、他にも楽器をやっていた友達はいたが、卒業後もバンドマンをする為に新たな学校でやっきになっていたのは結局俺と栗木君だけだった。

なので当然、バンドや音楽の話にもなる。驚いたことに、彼はその後ギターからキーボードに転向していたそうだ。
去年ちょっとシンセに詳しくなっていてよかった。話を振ったり拾ったりできる。

俺「俺も最近シンセ触っててさー」
栗「マジか!オレ明日実家に帰るんだけど、ついでに実家に置きっぱなしのシンセで遊ぼうと思っててさ」
俺「奇遇だねぇ、俺も今実家にシンセ持ってって遊んでんのよ。因みに何てシンセ?」
栗「microKORGっつーんだけど、知ってる?」
俺「……ああ、知っているさ」
栗「アレ触ってると時間忘れるのよねー」
俺「ああ……アレは、いいシンセだ。いいシンセだとも」


俺の持つmicroKORGは輝き始めた。

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