毎回忘れて また新しく
この 喫茶店を訪れるのは 何度目だろうか。
安定の お気に入り。
おなかがぺこぺこだったので
唯一のフードメニューのクロックムッシュ。
これしかないって潔い。
選択肢の多さは 楽しさもあるけれど
やたらと迷ってしまったり
あっちのほうがよかったかもと
後に目移りしてしまったり。
ちょっと疲れてしまうことも。
潔いメニューは
変わらずに存在してくれて
無駄なパワーを使わせない。
今日は これを目指して来たんだ。
さっさとオーダーを済ませて
自分の世界へと没頭する。
濃厚なネルドリップの味は 馴染んだ味に近くて
わたしを安心させる。
✴︎
早く ドリップポットを手に入れて
自分で 自分のために 珈琲を淹れよう。
珈琲の淹れ方を忘れてしまいそうで。
身体が覚えていた感覚は
離れてしまえば薄れてしまうのだ。
急に 怖くなる。
✴︎
マスターが お冷やを注ぎにやってきて
少し会話を交わす。
実は 以前に来た何回かはカウンターに座り
同業者ならではの会話やら
本についてやら
役者をしているという話まで
けっこう しっかりと話し込んでいたのだ。
だけど。
マスターは
また 新しく出会ったかのように会話を始める。
思えば 前回も そうだったな。
拍子抜けと ほっとした気持ちと。
そして
ニヤニヤ いいなぁと思った。
もちろん頻繁に訪れていれば
自然に覚えてしまうものだし
それも嬉しいものだけど。
一度会ったら 必ず覚えている。
それは 素晴らしいことで
そんな記憶力が欲しいけれど
わたしには どうにも難しい。
だから
自分が 忘れられていても 構わない。
あまりに話過ぎてしまうと
ちょっと恥ずかしいので
忘れてしまわれるくらいが 気が楽だ。
完璧な記憶力を目指すのは
ちょっと しんどいじゃない?
お互いに 優しくいきましょうょ。
新しく 丁寧に
今日の会話を始めよう。
✴︎
新しい職場を早々に離れた。
わたしの考える「適切な距離」
適度に忙しく 身体を動かして 働けること。
それが 叶えられなかったことが
思った以上に 辛かった。
待遇も悪くなく
関わったからには 学べることもあるので
ある程度の年月はと思ったけれど。
やはり この流れになりました。
✴︎
彷徨いつつも。
自分の芯を忘れぬように。
珈琲を飲んで
言葉にする時間を。
いつか
絶対に辿り着くょ。