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猫と小鳥
今度 引っ越してきた家には 庭がなかった。
4階建アパートの最上階。
閉じ込められ
退屈で たいくつで
あと少しで
ぬいぐるみになってしまいそうだった
ボクの日常を変えたのは
・・・あの子だった。
隣のベランダの鳥かごに
今までに見たこともないほど
美しい小鳥をみつけたとき
--ーーボクは一瞬で 恋に落ちた。
黄色と青色の混じりあった美しい羽を持つ
その小鳥は とても恥ずかしがり屋のようだった。
はじめは 何かを尋ねても
うつむいて うなずくばかり。
時折 聞こえるか聞こえないかくらいの
まるで風の音だったと思えるような声で笑った。
そして外の世界のことを ほとんど知らなかった。
ボクの話に 目を輝かせて熱中した。
春の話。
公園中を彩る花々
甘い香りに誘われて
舐めてみたら やみつきになって
蜂や蝶々に にらまれた。
梅雨の話。
雨あがりの水たまりに 虹を発見!
思わず掴もうとして びしょぬれ。
かたつむりに笑われた。
夏の話。
木々のざわめきを子守唄に木陰で お昼寝。
いつもの日課。
うっかり寝過ごし 夕ごはんを食べ損った。
秋の話。
だれよりも 大きい どんぐり みつけるんだ。
木に登ってーーー落っこちた。
落ち葉のクッションに助けられたけど。
冬の話。
ボクの特等席
すべりだいの てっぺんから
あたり一面 真っ白の世界に吸い込まれて
ーーー転がり落ちた。
半分 雪だるまになりかけた。
こんなふうに
ボクは 毎日毎日 ボクの知っている限りのことを
小鳥に話して聞かせた。
小鳥は だんだん 積極的に
自分から話を せがむようになった。
ボクの好きな公園や庭は ここにはない。
あるのは 限られた空ばかり。
それでも ボクは 幸せだった。
ある朝のこと。
ボクと小鳥は
いつものように 並んで空を見上げていた。
地面が あんなに遠いのだから
ちょっとは空が近づきそうなものなのに
やっぱり空は遠くって
雲は ふわふわ笑っていた。
「きみが あの青い空を羽ばたいたら
とっても とっても きれいだろうなぁ」
ボクは ためいきをついた。
「・・・わたしは 飛べるの・・?」
不思議そうに 小鳥はたずねる。
「もちろんさ。
翼を持っているんだから。
ボクよりも ずっとずっと あの空に近づける。」
それから 小鳥は 空を見上げては
ためいきばかりついているようになった。
そして ある日。
ボクに こう 頼んだのである。
「おねがい。
ここから 出して。
わたし 空を飛びたいの。」
ーーーーボクはーーーー
ーーーーー
ーーーー迷ったーーーーーー
「・・・おねがい・・・」
ボクは 思わず うなずいた。
あの子が 小鳥が そう願うなら。
覚悟は ある程度 できていた。
それに なによりも
小鳥が 青空を羽ばたく姿を
ボク自身 見てみたかった。
✴︎
小鳥は
小さな翼を おもいっきりはばたかせて 飛び立った。
羽の黄色は 太陽と重なって輝き
青色は 空に溶けて
あっというまに 消えていった。
ボクは ぼんやりと それを見つめていた。
どんなに目をこらしても
小鳥の姿は もう どこにもなかった。
1週間が経った。
小鳥は 帰ってこない。
ボクは 毎日 空を見上げて暮らした。
2週間が経った。
小鳥は まだ 帰ってこない。
でも あの子の羽ばたく姿を思って
ボクは 少し うれしかった。
1ヶ月後。
急に 小鳥が帰ってきた。
ボロボロに傷つき やせ細って
美しかった羽は 見る影もなかった。
小鳥は また 鳥かごの中に戻ってきた。
ボクが声を掛けると
1度だけ
おそるおそる こちらを振り返った。
そして かすかに震えながら
しばらくボクをみつめていたが
なにも 言わなかった。
それ以来
小鳥は ボクを見ようともしない。
空も見ず うつむいてばかりいる。
しばらくして ボクは また引越しをした。
庭のある家だった。
小鳥には
さよなら さえ 伝えることができなかった。
それでも
青く澄みきった空を見上げるたびに
ボクは 小鳥を思い出す。
あの子は どうしているのだろう。
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