ごちそうさまでした
どこの どなたなのか わからないのだけど
「ごちそうさまでした」
わたしは とても美味しい珈琲を飲んで
幸せな時間を過ごしました
✳︎
不思議な求人を見かけた
(わたしは また居場所探しをしています)
時間、勤務日、自由に決められます。
私たちが求めているのは、
雄弁な人よりもこの仕事に専念して、
気に入っている人です。
英語の翻訳なのであろう
きっと海外の方だろうと
日本語以外が めっきりダメなわたしは
もちろん通り過ぎようとしたのだけれど
いや、行ってみよう
お客さんとして楽しめばいいじゃない、と
ふらりやってきたのだ
駅から近くもなく
住宅街へと テクテク歩く
ナビは やっぱり 便利だな
ちゃんと 連れてきてくれた
全然主張しない
OPENとだけ書かれた 小さな看板
よかった 営業している
急な階段を登ると
小さな昭和のアパートの1室だった
うちに似ている
もちろん生活しているわけではないだろうから
生活感はない
余計なものはない
DIYもなんのその
襖は破れたまま
ベンチや 低い椅子
ダンボールにお盆を乗せたテーブル?
アパートの台所に
細長いテーブルをカウンターのように置き
そこでコーヒーを淹れる
ああ
珈琲を淹れて 振る舞うって
これだけのもので できるんだよな
穏やかな衝撃
やはり外国の方で
言葉でのやりとりが 明瞭にはできないので
コーヒーの種類は 詳しくはわからない
わたしは そもそも
スペシャリティコーヒーなど
豆の産地や種類に あまり詳しいわけではなく
なので シークレットのコーヒーを選ぶ
マグカップに たっぷりと
丁寧に淹れられた珈琲は
優しい味で とても美味しい
大きな窓が開け放たれている
カーテンも網戸もない窓
大きめなボリュームで
クラシック音楽が流れているのが
この空間を作っている
なんだろう
昭和の古いアパートなのに
最高の贅沢空間
そして
見せられた携帯の翻訳アプリ
後から来る人のために
お金を払っていってくれたお客さんがいたので
このコーヒーは無料だという
嬉しさよりも戸惑ったけれど
ありがたく いただくことにした
どこの どなたなのか わからない あなたから
不意に手渡されたプレゼント
こんなことも あるんだな
あたたかい気持ちになる
誰かに このバトンを 渡せる人になりたい
また来ようと思った