夏の日の朝
父方の祖父が亡くなった。
夜中に大雨が降って、土をしとどに濡らした。夜通し起きていた私は、早朝の6時ごろに畑に出た。夏の匂いが充満している。青々とした葉がぽたぽたと水滴を落とし、ぬかるんだ土に少しだけスニーカーが埋まった。
以前に植えた落花生の畝に草が茂り、荒地のようになっていた。落花生の苗も雑草も生命力に溢れていた。いっそこのままでもいいような気がしたが、放置すると落花生の居場所がわからなくなってしまうから、私は薄手のビニールの手袋をはめて、青いバケツを傍に置いた。雨が降ったばかりで柔らかくなった土から、草はするすると抜けた。
トンビが何度か鳴いた。
あるとき、太くしっかりとした根が地中深く食い込んでいた。私は鎌をもって土を掘った。下に、下に。根をつかんでもびくともせず、もう一度掘ると、掘り起こした土で塚ができそうだった。
ふと顔を上げてネギを見た。ずらりと一列に並んだネギは前より背が高くなっていた。左は自生イチゴ畑の痕で、百日草と向日葵が思い思いに伸びていた。昇る朝日が神秘的に花を照らし、余った柔らかな光線で私の頬をなでた。思わず私はネギのカーテンの裏に隠れた。ネギの先端が朝日に透けてキラキラと光った。
夏の朝の畑を知らなかったら私はどうなっていただろうか。美しく静謐で一切の偽りのないこの時間に出会うことがなかったら。土を見つめて、一心に手を動かす合間に、心の蓋が僅かにずれて、底に湧く水をチラチラとだけ目にすることができる。
私はバケツを2杯山盛りにしてその作業を終えた。シャワーで軽く汗を流してエアコンの効いた部屋に入る。火照った身体を冷えた布団に投げ出し、読みかけの本を手に取る。幸福だった。ウトウトと微睡みはじめたころ、父が起きだして出掛ける音を聞いた。8時半頃だった。普段なら昼近くまで寝ているはずの父が早くから行動していることを不思議に思い、外に出て待ったが、一向に帰ってこなかった。諦めて部屋に戻り、私は意識を閉じた。底へ、底へ。
母が何かを言った。私は寝ている頭のままで聞き返した。父方のおじいちゃんが亡くなったらしい。
窓の外はバケツをひっくり返したような嵐になっていた。