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指先の衝動

右手の親指と人差し指の爪を使って左手の指先の表皮をつまみ、ゆっくりと剥ぐ。時折、深くまで剥がれ、傷が肉に食い込む。思考を空っぽにして、そのささくれを強い力で引っ張る。傷口から溢れた血が指先に膨れて玉を作り上げる。脳が痛みに気づくまであと少し時間がかかる。

考え事をしていると、無意識に私は指の皮をめくってしまう。

その指先の衝動を抑えるために、私はブックマークを手に取った。とりあえず、手を塞ぐことを目的として。ペンタイプのブックマークを持つと、私は自然と指を動かしてしまう。ドローイングをするように宙にサッサッと架空の線を引く。何を描いている訳でもなく、私にとって馴染み深い動作を反射的に行なっているだけのことだ。

しばらくして、ある考えに辿りつく。もしかすると、私がペンを手にした途端、しばしば無益な絵 (にもならないようなもの) を描き散らす理由は、その反復動作を行わずにはいられないからなのかもしれない。

ペンを持つ。インクは指先の動作が導く軌道に沿って、紙に黒々とした線を引く。一度引かれた線はそこにとどまる。波は砂を洗わず、線は永遠の命を得る。線が立ち去らないのであれば何か形あるものを作り出さなくてはならない。線はそこに見えているのだから。私はそうせずにはいられない。このままでは何の意味も持たず、ただの線としてそこに存在し続ける。

もし、潮が満ちて波が線をさらってくれるのであれば、あえて意味を持たせる必要はない。私は、線がそこにあるが故にさらに線を重ねてしまうのだ。


ー2022年2月12日の日記から

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