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ギター・バンド・小説

 3年前から作家仲間とバンドをやっている。
 メンバーは海猫沢めろん(Gt.Vo)、佐藤友哉(Gt.Vo)、滝本竜彦(Key.Vo)、Pha(Dr)、ロベス(bass)の5人。元々は2004年くらいに、海猫沢・佐藤・滝本・海猫沢弟・Kという友人で結成したが、僕が本を出したあと、投資で失敗して一文無しになって家がなくなり(ロック!)、放浪することとなったので活動を休止していたのだ。
 それが40代になって、各々時間ができた。人生のぼんやりした不安(ミドルエイジクライシス)を乗り切るために、我々は一丸となって互助会のように音楽を奏でている。まさか四〇歳を過ぎてこんなことをやっているとは夢にも思わなかった。
 そもそも十代のころ僕の夢は、小説家かロックスターになって17歳で死ぬことだった。
 80年代、尾崎豊と∨系が好きで、上條淳士『TO-Y』(85~)、

惣領冬実『3(THREE)』(88~)

などのマンガに影響を受けてた僕のなかで、ロックは「破滅と不良」のイメージが強かった。小説でいえば第16回すばる文学賞受賞作、楡井亜木子の『チューリップの誕生日』(93)。

女子高生ギタリストがバンドに入って、いきなりプロデビューしてしまうアツい展開だった……と思って読み返したら、なんと主人公がやっていたのはベースだった。記憶は曖昧である。この小説が初めて読んだバンド小説だった気がする――と書いて今思い出した。深沢美潮『バンドクエスト』(90~)のほうが先だった。

ライトノベルという言葉がない時代に、バンドをやるティーンエイジャーを描いた傑作だ。ライトノベルといえば、93年にコバルト文庫から出た若木未生のバンド小説『グラス・ハート』(94~)

も重要作。サブキャラの真崎桐哉のバンド「オーヴァークローム」の正式名称が、「オーヴァーサイト・サイバナイデッド・クローマティック・ブレイドフォース」ふつう覚えられない。

 そんなこんなで17歳をすぎたので、次は19歳で死のうと思っていた。そのうち19歳もすぎてしまったので、次はノストラダムスの予言で世界が滅びる1999年、24歳。しかし世界は滅びなかった。やはりロックスターの厄年である27歳が本命なのかと思っていたら、ロックスターにもなれないまま27歳をむかえた。焦った。このまま生き恥をさらして生きていくしかないのか。いや、俺にはまだ夢がある。そう、小説家だ。というわけでロックスターにはなれなかったけれど、なんとか本を出して生き延びた(家なくなったけど)。
 そして現在、47歳である。かろうじて生きている。普通に老衰と貧困で死にそうだ(ロック!)。年金とか払おうかな。200万くらい滞納しているし、死んだほうが安い気がしている。それはともかく、作家になってみると、ひとつ不思議なことに気づいてしまった。ミュージシャンから作家になる人は多いのに、なぜか作家からミュージシャンになる人間はいないのだ。なぜだろう。ジジイの天下り先みたいで嫌だな。ファック!そうだ、じゃあ俺たちが逆にやってやろうじゃねえかロックンロール!ノーフューチャー!作家からミュージシャンになるぞ!そんな気分でバンドをやっているわけだ。
 僕はバンドではギターと作詞作曲を担当しているが、すべて魂と気分でやっている。むしろ勉強したり理屈こねたりするやつはフェイクなので、無視していい。そう、暴力と衝動と破滅こそがロック!それを教えてくれたのが、芥川賞作家、花村萬月の『ブルース』(92)である。

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