餃子大好き!2つの「王将」の#マーケティングトレース
みんな大好き中華料理といえば餃子。餃子といえば王将。
王将という名前がつく中華料理チェーンが2つあるのをみなさんはご存知でしょうか。
・株式会社王将フードサービスが展開する「餃子の王将」
・イートアンド株式会社が展開する「大阪王将」
同じ「王将」という名前を用いているこの2社。ルーツを辿ると同じお店ですが、現在は全く異なるビジネスモデルを展開しています。
どのような違いがあるのか、#マーケティングトレース で追ってみます。
ウォーミングアップ問題
さて、いきなりですがここで #会計クイズ です。
【問題】
王将フードサービスのバランスシートはどちらでしょう?
下にスクロールすると、正解発表です。
準備はいいですか?
【解答】
正解は①が王将フードサービスでした!
この問題。ポイントは「流動資産」にあります。
両社のビジネスモデルの違いがこのような差をもたらしています。
次の章から具体的に説明していきます!
株式会社王将フードサービスの概要
王将フードサービスは「餃子の王将」のブランドで中華料理チェーンを展開しています。
餃子の王将の第1号店は、1967年に京都四条大宮に開店。以来、近畿を中心に729店舗を展開しています。
王将フードサービスの業績
王将フードサービスの業績推移を見てみると、2014年から2017年にかけて、売上高と営業利益が減少しています。特に営業利益は2013年から大きく減少しています。
2018年以降は一転、売上高、営業利益ともに増加に転じ、業績は回復傾向にあるといえます。
営業利益率ベースでは、2010年は営業利益率16%と、外食業の中でも高い利益率を誇っていましたが、そこから低迷し、ここ数年は8%程度で推移しています。
営業利益率の悪化の原因を辿ると、「売上原価率の増加」、「販管費率の増加」が大きく影響しています。特に販管費率の増加は大きく、10ポイント以上増加しています。
販管費率が増加した要因としては、「人件費の増加」があげられます。
実は改革前の王将フードサービスは、「長時間労働」、「賃金の未払い」など、従業員を大切にしない会社でした。
その結果、「労働基準監督署の指導」、「従業員による会社を相手にした訴訟」など、会社と従業員の間の信頼関係に大きなヒビが入っていました。
そこで王将フードサービスは、2013年12月の社長交代以降、「従業員の幸せ」を重視する組織への抜本的な改革を行っていきます。
具体的には、賃金アップや未払い賃金の支払い、労働環境改善として営業時間の短縮などの施策を次々と行います。
その結果、客数の減少、人件費増となり、2015年度は減収減益に転落、業績はそこから数年間の低迷期に入ってしまいます。
しかしながら王将フードサービスは、組織改革と並行して業績回復に向けた数々の施策を実行していました。
特に効果が大きかったと考えられるのが、2016年4月に稼働を開始した東松山工場です。全自動成形餃子システムの導入により、店舗で餃子を巻く作業が不要となり、主力商品の餃子の品質アップ、店舗の生産性向上を実現します。
また、2018年には店舗運営スキルを学ぶ「王将大学」、調理技術を向上させるための「王将調理道場」を新設し、人材育成に注力します。
こうした施策の結果、2018年度以降、2期連続増収増益を達成し、王将フードサービスは復活に成功します。
王将フードサービスの4P分析
王将フードサービスを4Pで分析してみます。
餃子の王将の一番の人気商品といえば、もちろん餃子です。私も行ったときは必ず注文します。(あと、焼きそばも好きです^^)
当然、王将フードサービスでは看板商品の餃子には強いこだわりを持っています。食材は全て国産、特に小麦粉は北海道産、にんにくは青森産と、産地にもこだわっています。
また、餃子の王将といえば、「ガッツリ」、「ボリュームたっぷり」が代名詞です。そのため、男性やファミリー向けというイメージがあります。
実際、男性7、女性3の比率のようです。
が、最近はそんなイメージを覆す女性をターゲットとしたオシャレな「OHSHO」の展開にもトライしています。
新コンセプト店では女性比率が6~7と、新しい顧客層の取り込みに成功しているようです。
こんなオシャレな王将、私も行ってみたいです。
イートアンド株式会社の概要
続いて「大阪王将」ブランドで中華料理チェーンを展開するイートアンド株式会社です。
「大阪王将」は1969年に大阪京橋で第1号店を開店させます。以来、近畿を中心に351店舗を展開しています。
国内だけでなく、中国、台湾、ミャンマーなどの東南アジアにも進出しています。
大阪王将は、餃子の王将からのれん分けする形で誕生しました。当初は「餃子の王将」を名乗っていたようですが、商標権の問題が起き、大阪王将に改名したようです。
この大阪王将を運営するイートアンドは、経営方針として「生活食文化を提案するフルライン型フードメーカー」を掲げています。
事業としては、大阪王将をはじめとする外食事業だけでなく、大阪王将の名前を冠した冷凍食品の製造・販売を行う食品事業も手がけています。
売上高の割合は、食品事業と外食事業でほぼ半々となっています。
イートアンドの業績
イートアンドの業績推移をみてみると、売上高は右肩上がりで成長しています。一方、営業利益は2015年に大きく落ち込むも、そこから回復して2019年は減少前とほぼ同程度となっています。
事業別の売上高推移をみてみると、2018年より前は外食事業が食品事業を上回っていたものの、2019年に食品事業が外食事業を逆転しています。
利益ベースでみてみると、外食事業の利益が減少しているのに対し、食品事業は9年前の約3倍に利益を伸ばしています。
利益率でみてみると、食品事業は2~3%の間で推移し、2016年以降は4%台にのせるなど年々よくなっていることが確認できます。
一方、外食事業は2015年に急激に利益率が悪化しています。
利益率が悪化した理由として、「広告宣伝費に見合った売上があげられなかった」ことがあげられます。
2015年は大阪王将45周年ということもあり、大規模な広告宣伝の投下や、新規顧客を狙って高単価商品の販売行いましたが、コア顧客である中高年男性が求めているものと合っておらず、結果、利益の悪化という結果を招いてしまいました。
それ以降、大阪王将ではコア顧客である中高年男性に原点回帰し、中高年男性にささる商品開発を行った結果、徐々に外食事業の利益を回復させていっています。
イートアンドの4P分析
こちらも王将フードサービスと同様、4P分析してみます。
大阪王将の主力商品も、もちろん餃子です。餃子の美味しさに徹底的にこだわっています。
大阪王将では、お店の営業終了後に翌日分を工場に発注、工場で夜間に製造し、お店に配送することで、味、鮮度にこだわった美味しい餃子を提供しています。
また、イートアンドの最も大きな特徴が、「店舗から冷凍食品」、「冷凍食品から店舗」への相互送客です。
「お店と同じ餃子が食べたい!」と思ったとき、簡単に家で調理できる冷凍餃子があれば、とてもうれしいです。
また、テレビや雑誌の特集で見て食べてみた冷凍餃子が美味しければ、「お店でも食べてみたい!」となりますよね。
イートアンドでは、これをうまくビジネスモデル化し、売上を着実に増やしていっています。
会計クイズ解説
さて、ここまで王将フードサービス、イートアンドのビジネスの特徴を説明してきましたが、これが財務諸表にどのように表れるのかを解説します。
両社のバランスシートを比較すると、「流動資産」にビジネスモデルの違いが表れています。
王将フードサービスの事業は「外食」のみです。
基本的に、お客は現金、もしくはクレジットカードなどのキャッシュレスで支払いをします。日本におけるキャッシュレスの割合はそれほど高くなく、また、キャッシュレスの場合でも翌月には現金化できます。
そのため、王将フードサービスには「売掛債権」がほとんどありません。
一方、イートアンドは外食と食品事業の割合がほぼ半々です。
食品事業では卸売業者に対して商品を販売し、納品した商品の代金は「売掛債権」で受け取ることになります。
次に、イートアンドの外食事業の売上の中身も詳細にみていきます。
イートアンドの直営店は、全体の2割程度しかありません。
実はイートアンドは、外食事業の売上についても、お客への料理の提供で稼いでいるのではなく、フランチャイズ加盟店への卸売で稼ぐ構造となっています。
なお、フランチャイズ加盟店からの売上は、卸売以外にも「大阪王将」などのCI(コーポレートアイデンティティ)利用に伴うロイヤリティの徴収を行っています。
しかしながら、その割合は最大でも売上高の3%と高くありません。
フランチャイズ加盟店への売上高について、イートアンドと王将フードサービスの1店舗あたりの売上高を比較してみます。
結果、フランチャイズ加盟店への売上高は両社で同程度であることがわかります。
王将フードサービスのフランチャイズ加盟店への負担金も非常に低く、王将フードサービスのフランチャイズ加盟店に対する売上高はほぼ「卸売」によるものと考えられます。
以上の結果から、イートアンドもロイヤリティの割合はあまり高くなく、外食事業の売上の大半がフランチャイズ加盟店に対する「卸売」によるものと考えられます。(さらにここに直営店の売上が含まれます)
・食品事業の販売先は卸売業者
・外食事業の売上の大半はフランチャイズ加盟店に対する卸売
以上の特徴から、イートアンドでは売掛債権の割合が大きくなっていると考えられます。
また、イートアンドは食品の製造を行っており、販売前の商品や仕掛中の商品は「棚卸資産(在庫)」として計上されます。
一方の王将フードサービスはおいしい料理を提供するため、「冷凍保存なし」、「工場から店舗へ毎日配送」を売りとしています。
需要予測に基づいた生産、販売を行っていると考えられ、BSにもその結果が棚卸資産の少なさとして表れていると想定されます。
最後に、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の比較です。
一般的に飲食業では、仕入先に対しては「掛払い」で支払うのに対し、売上はほぼ即日で手に入れることができるため、CCCはマイナスとなります。(下の図で上の段にくる)
そのため、「餃子の王将」1本の王将フードサービスはCCCがマイナスとなります。(現金が手に入ってから支払いまでに17日の余裕がある)
一方、食品事業が売上高の半分を占め、外食事業もFC加盟店への卸売がメインのイートアンドは、メーカーに近い特徴を持ったCCCとなります。
4P比較
「餃子の王将」と「大阪王将」のマーケティングミックスを比較し、ポジショニングマップで両社のポジショニングを比べてみます。
餃子の王将は「つくりたての店の味」で店舗で勝負しています。
一方、大阪王将のイートアンドは「やみつきの味」で店舗から家の中までフルラインを押さえに行っているのが特徴です。
もし自分が王将フードサービスのCMOだったら?
最後に、王将フードサービスについて、分析結果をもとに自分がCMOだった場合の打ち手を考えてみました!
巣ごもり需要が高まっており、店舗への客足が激減している現状において、王将フードサービスの強化ポイントは「テイクアウト」、「デリバリー」になります。
実は王将フードサービスではテイクアウトの平均単価が最も高く、昨年からテイクアウト、デリバリーの強化を行っています。
コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの飲食店が客数が減っており、王将フードサービスも例外ではありませんが、一方、客単価は上昇しています。
推測にはなりますが、これはテイクアウトが増えたからと考えられます。
そこで、現状を踏まえたテイクアウトを伸ばす施策案を考えました。
ポイントは、「王将の料理の新しい楽しみ方を提案」です。
餃子の王将は「ボリュームたっぷり」という特徴がありますが、やはり同じ味だとどうしても飽きてしまいます。
そこで、ちょい足しなどのリメイクレシピをアプリを通じて配信することで、味変を促し、「違うリメイクにも挑戦してみよう!」と、持ち帰り需要を喚起するのがこの施策の狙いです。
王将の「店によってメニューや味が違う」という特徴を武器に店舗間対決にしたり、ファンによるレシピ投稿・ランキングなど、お店と利用者のコミュニケーションを促すような仕掛けを盛り込むことで、利用者のロイヤリティを高め、ファンも増やしていけると思います。
本施策にかかる費用は、店頭キャンペーンの予算から捻出することとします。
仮に本施策でテイクアウトの客数が10%増加した場合、売上が+14億円、2019年度3月期の売上高ベースで+1.7%の押し上げ効果が見込めます。
また、コロナウイルスが収束し、お店での営業が元に戻った際には、店舗とテイクアウト、デリバリーで更に売上アップにつなげていけるのではないかと考えました!
まとめ
・「餃子の王将」の王将フードサービス
・「大阪王将」のイートアンド
の比較、いかがだったでしょうか?
ルーツは辿れば同じお店ですが、王将フードサービスは中華料理チェーンとして、万人に「褒められる」お店を目指して経営を行っている。
一度は失いかけた従業員との信頼関係も、組織を本気で変革することで信頼関係を取り戻し、業績回復につなげている点は、企業再生ストーリーとしてとても面白いと思いました。
また、イートアンドは、「お店と食品」を組み合わせたビジネスモデルが非常に優れていると感じました。
コロナウイルスによる影響という観点でも、お店での売上は減っていると思いますが、冷凍食品の売上は大きく伸びていると考えられます。
以下のサイトによると、冷凍食品の売上は前年同期比3割増とのことです。
今の状況におけるイートアンドの強化ポイントは間違いなく「食品事業」にあると思いますので、時間がある時にこちらの施策も考え、noteを更新できればと思います。
「王将」比較は以上です。
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