2009年12月27日 坂本龍一さんライブ featuring 大貫妙子さんのセットリスト

暫くの間、他所にメモっていたセットリストの掘り起こしを続けます。感想は当時のものです。今でも変わらないものもあれば、上書きされたものもあるかもしれませんが、ここでは極力その時の文章のままで。

これは2009年12月に開催された坂本龍一さんのライブ(ゲスト 大貫妙子さん)の時のメモ。これが翌年のUTAUに繋がっていた、と考えると、また新たな感慨が生まれてきますね。

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2009-12-30

 坂本龍一 featuring 大貫妙子
(27 Dec 2009 / 東京国際フォーラムホールC)

演出効果を高める為に非常灯も消え、会場がとっぷりと闇に包まれると、最小限に抑えられた柔らかい照明の中に教授のシルエットが浮かび上がる。と、のっけから赤ん坊の泣き声が... 急に暗転したのが怖かったのだろうが、曲が終わるまでロビーに出されることはなく、まるまる1曲、静かなピアノ曲に泣き声がSEとして被ることとなった。教授が集中力を乱さず最後まで弾いたのは素晴らしかったけれど、係員さんももうちょっと気が利かないものか。その子が将来的にトラウマにならなければ良いが。

ま、そんなハプニングに始まった今回のツアー千秋楽。教授は一言も話さず、ひたすらピアノを弾き続ける。春のツアーでは映像にかなりのメッセージが盛り込まれていたが今回は仄かな灯りのみ。楽曲もニューアルバム「out of noise」のミニマルな世界、そして春のツアーブックCDにも収められた代表曲のピアノバージョンを中心にした静かな展開で夢心地になる。・・・あ、寝てませんよ。

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教授がおもむろにマイクを取り出したのは11曲目が終わってから。自己紹介もせずに、今日のゲストを告げるあたりが教授らしい。拍手で登場した大貫妙子さんとまずは「夫婦漫才」(教授談)。お互いをやたらと誉めあってみたり、突然客席を無視して昔話を始めたりと和んだ時間が続く。

今回のきっかけは大貫妙子さんからのオファーだったそうで、
大貫「あと何年歌えるかわからない。これからの方が絶対短いので自分の曲ではないものを歌ってみたいと思い、坂本さんの楽曲に詞をつけて歌ってみたいとオファーを出したところ引き受けてくださって」
坂本「断れるわけ無いじゃないですか、大貫様!」
大貫「何言ってるの?」
…ということらしい。

実際のレコーディングは来年とのことで、今回はその為の肩慣らし、といったところか。長年続けてきた「ピュア・アコースティック・コンサート」をこの11月でひとまず終了した大貫妙子さんは、同月、続けざまにシュガー・ベイブのプロデューサーでもあった大滝詠一さんのトリビュートに参加。そしてソロデビュー以来、最初の10年を作ってきた教授とのデュオ。僅か2ヶ月弱の間に起こったこの3つの出来事を見ると、一つの物語として繋がっているのがわかる。

和やかな会話が途切れると一曲目はいきなりの「色彩都市」---二人が共に最高傑作と断言する名作だ。余りに優雅な素晴らしい演奏。

教授ファンならお分かりの通り、坂本龍一さんの「伴奏」は白眉である。ピーター・バラカンさんも言っていたけれど、教授の魅力が最も映えるのはこの領域に他ならない、とさえ思う。普通では考え付かないコード進行や裏メロのフレーズ、主旋律を引き立たせながら伴奏だけでも成立してしまうその構成力。最近は活動が忙しすぎて、このように楽曲のサポートをする機会は減ったが、今回はそれをこのゴールデンコンビで見せてくれる。なんとも懐かしいが、今の彼らにしか出来ない新しい空気感。

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この後、曲間では昔話や雑談が続き、客席からは絶え間なく笑いが漏れる。11曲目まで黙々とピアノを弾いていたのが嘘のように饒舌な教授。

大貫「黒のクレールの教授のドラムがなかなか上手くいかなかったので、一緒にベースのレコーディングをしていた細野さんを散々つきあわせる羽目になった。」
坂本「ダビングにしてあげればよかったけど、当時仲が悪かったから面倒くさいと思って何も言わなかった」
大貫「同じ曲でミッシェル・ルグランみたいなピアノを弾いてってお願いしたら、教授がそんな事恥ずかしくてできるか、と怒り出した。」

坂本「僕は声に問題があるんだよね。声小さいし。」
大貫「怒ると大きいですよ。30年くらい前の坂本さんはカミソリのような人でしたね。怖くて。こんないい方になるとは!」

この他にもエコキャンペーン「Save the Future」のテーマソング「懐かしい未来」(大貫さん作詞、教授編曲)を歌ったAlanの話題、山田耕作の素晴らしさと良い企画なのに全く売れていないんだよねえというCommonsの「日本の歌シリーズ」の話題、今回のライブのリハ当初、教授のピアノと大貫妙子の歌が主張しあってしまい大変だった話など、演奏される楽曲の艶やかさとは異なるテンションで和やかに進行、いつの間にか本編終了の時間になっていた。楽しい時間は過ぎるのが早い。

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2回目のアンコール。

坂本「30年前の自分に会ったら殴ってやりたいね」
大貫「坂本さんは分かりますね」
坂本「えっ、分かる?」
大貫「私も戻りたくないですね、1mmも」
坂本「体はあちこち痛いけど今のほうがいいよね」
大貫「楽しいですよ。先に行く方が」

名曲「突然の贈りもの」に続いて歌われた「風の道」の後半、大貫さんは感極まって暫く歌えなくなってしまった。「お客さんで泣いている人を見たらこちらもぐっと来てしまって」なんて言ってたけれど、黙ってピアノを引き続ける教授も感極まっているように見えた。

そしてトリプルアンコール。未来派野郎の最後を飾る小品「Parolibre」は春のツアーでもやってくれたけれど、その穏やかで優しい手触りは、今日のライブを通して感じた、ジンワリと温かい仄かな灯のようだった。

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以下、セットリストです。

(坂本龍一ソロ)
01. still life
02. in the red
03. tama
04. nostalgia
05. flower is not a flower
06. Amore
07. undercooled
08. 水の中のバガテル
09. Fountain
10. Energy Flow
11. 美貌の青空

(with 大貫妙子)
12. 色彩都市
13. 懐かしい未来
14. この道
15. Tango

- encore -
(坂本龍一ソロ)
16. High Heels
17. The Last Emperor
18. Merry Christmas, Mr.Lawrence

- encore 2 -
(with 大貫妙子)
19. 突然の贈りもの
20. 風の道

- encore 3 -
(坂本龍一ソロ)
21. Parolibre

坂本龍一: Piano
大貫妙子: Vocal


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