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忍殺TRPG小説風リプレイ【ユメ・アルク・クルーズ(その3)】


◆アイサツ

 ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPGの小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。

 本記事はニンジャスレイヤーの二次創作小説でありニンジャスレイヤー本編及び実在の人物・団体とは関係ございません。

 こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。

 それではやっていきたいと思います!

◆本編

「ドーモ、ロンダイジ・レツノスケです」「ヴァルナです」「ネクロマです!あなた達はいったい……?」アンブッシュ3連撃を凌ぎ切ったザイバツニンジャたちはカラテ警戒態勢を維持したままアイサツを返す。敵はいずれも油断ならぬカラテやジツの持ち主。数の有利も取れぬ以上、慎重な対応が求められる。

「ニンジャ、3人……3回、殺せる……3回も!イイヒヒッッ!イイヒヒッッ!」黒一色のニンジャ装束に身を包む影絵めいた男、ウツシエが痙攣するような笑みを浮かべた。まるでエコーが掛かったような不明瞭な声。その輪郭は蜃気楼を背負ったように二重三重に揺らぐ。

「おう、待て待てウツシエ=サン。女は残しておいてくれや」身長7フィートはあろうかというバットゥエレの両腕はチューブやコードが剥き出しのサイバネに置換されており、定期的に青白い電弧がバチバチと音を立てて這い回る。「俺のコレクションに『改造』するんだからよお……ククク、キョートの女は初めてだ……楽しみだぜ」バットゥエレはヴァルナの頭からつま先までを視線で舐め回す。

 ヴァルナは口元をキモノの袖で隠しながらわざとらしく欠伸しつつ、それとなくレツノスケの背後に移動する。レツノスケがヴァルナに何か言いたげ多一瞥をくれると、彼女はたおやかな仕草で小首を傾げた。レツノスケは舌打ちし、ウツシエとバットゥエレの後ろに立つライトプレッシャーを見た。

「このヨタモノ共の集まりの長は貴様か?実にろくでもない部下を連れているようだな」「ン、ン、ン。部下という表現は正しくない。これっぽっちも正しくない」ライトプレッシャーの言葉はいちいち仰々しい。

「我々は共通の理想、思想を共有する、いうなれば同志。故に個々人の嗜好や戦闘能力の優劣によって階級の差異が生まれるということは無い。まったく無い。ぜーんぜん無い。共通した目的を達成するため、異なる視点と発想を持つ者が協力し合い、互いの不足を補い合う……それこそが!そう、それこそが!組織としてのあるべき姿だ!違うかね?違わないだろう?ああ違わないとも!」

「非ニンジャのクズと協力!?なんて愚かな!寛大と甘さを履き違えていますよ!」ニンジャ至上主義のネクロマが鼻息荒く食って掛かる。レツノスケはネクロマの前に腕を伸ばして制止し、ライトプレッシャーを正面から睨み付ける。

「組織、と言うからにはつまり、お前たちはある程度の秩序だった集団ということになるな」「その理解で問題無い。一切問題無い」「そうか」レツノスケはカタナを一度鞘に納め、改めて引き抜く。「では、何の目的でこの洋館に来たのか、それを答えてもらおう」ジツの力が充填されたカタナが赤いエンハンス光を纏う。レツノスケはその切っ先をライトプレッシャーに突きつけた。

「その前にもうひとつ、よろしいか?よろしいね?」ライトプレッシャーは平然とした様子で右手の指を一本立てて見せる。「先程、我々には上司や部下といった階級制度は存在しないと言ったが……何事にも先駆者というものがいる。強いて言えば、彼女、あるいは彼こそが私たちのリーダーだ。そのように認識したまえ」

 彼女、あるいは彼?その不確かな物言いにレツノスケは嫌な予感を覚える。そしてそのコンマ2秒後、その予感は現実のものとなった。『俺だ』「「グワーッ!?」」「ンアーッ!?」ザイバツニンジャたちのニューロンに激痛が走り、3人は意識を失った。

『ちょいとニューロンがお留守だったな。それじゃ、手筈通り頼むぜ』レツノスケたちの意識を奪った姿なき声がライトプレッシャーたちに命じる。しかし。「イヒッ、イヒヒッ!ニンジャ、3人、寝てる……よく寝てる……イイヒヒッ!殺しやすい!殺させて!イイヒッ!」「俺も、フーッ、もう我慢が効かねえぜ。フーッ、キョート女の球体関節を愛でさせろ!」

 ライトプレッシャーはやれやれと言わんばかりに首を左右に振り「イヤーッ!」「「グワーッ!」」両手から凄まじい光を放ち、ウツシエとバットゥエレの意識を刈り取った。『……締まらねえなあ。じゃ、また後でな』「ご命令、承りました。しかと承りました」

 ライトプレッシャーは魔方陣の中央に移動し、その場でザゼンを組んで目を閉じる。やがて、彼の意識も床に倒れ伏す5人と同じ場所へと導かれていった。

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「そうだった。あの地下で妙な声が聞こえて……それで……」記憶の整理を終えたレツノスケであったが、求めていた肝心の答えは依然として得られないままであった。すなわち、ここは何処なのか?何故こんな場所に自分はいるのか?という疑問だ。

『それで、お前の過去の記憶に招待してもらったってワケだ』「イヤーッ!」レツノスケは背後の声に対し、超高速のイアイを振り抜いた。『アブネ!おっかねえな!』声の主は光の速度でイアイを回避した。唖然とするレツノスケ。だがフリーズ時間は僅かゼロコンマ1秒。すぐさま次のイアイ動作に入る。『イヤーッ!』「グワーッ!?」だが相手はゼロコンマゼロ1秒の速さでレツノスケの顔面に掌底を叩きつけた。

「グワーッ!?」水平に吹き飛ばされたレツノスケは部屋の角にあったコンポに背中を強かに打ちつけ、そのままずるずると滑り落ちる。『ヒュウ、アンタのカラテを知ってると、なかなか痛快な光景だぜこりゃあ』「その声は……」レツノスケの歪む視界の中央、攻撃をしてきた相手が親指で己の顔を指差し、言った。

『俺だ。忘れたとは言わせねえ。ドーモ、俺はエーリ1001110……シ1101001キー……ンン、まだダメか。それじゃあ……ドーモ、スペルバウンドです』銀色の装束に七色遷移の長髪、三つの瞳を目の中で回転させる男とも女ともつかないニンジャがアイサツした。

◆スペルバウンド (種別:ニンジャ)
カラテ    12  体力   12
ニューロン  12  精神力  12
ワザマエ   12  脚力   6/N
ジツ     0   万札   -

攻撃/射撃/機先/電脳  12/12/12/12
回避/精密/側転/発動  12/12/12/-

◇装備や特記事項	
 スキル: 『●連続攻撃2』『●連射2』『●マルチターゲット』『●時間差』

※スペルバウンドの元データは上記記事参照

「ドーモ、ロンダイジ・レツノスケです」アイサツを返しながらレツノスケはカタナを杖のように使って立ち上がる。「スペルバウンド……?」その名にレツノスケは強烈な違和感を覚える。

 彼は目の前のニンジャを知っている……ように思う。姿も、名前も、纏うアトモスフィアもまるで違うが、かつてこのネオサイタマで行動を共にしていた……ように思う。『混乱してるみてえだな』レツノスケの動揺を見透かしたようにスペルバウンドが肩を竦めた。

『まあ、お前たちと別れた後に色々とあってさ。ヌケニンしたんだよ。あるヒトに協力してもらってさ。そのヒトってのがつまり、俺のことでもあるんだが……ウーン、説明が難しいな』スペルバウンドのどこか気さくな口調の中に、レツノスケはなにか空恐ろしいものを感じ取る。

 レツノスケの知るかつての彼、あるいは彼女は、親しみやすさの中にも何処か遠慮がちな奥ゆかしさがあった。だが、今のスペルバウンドから感じるものは不快感に塗れた馴れ馴れしさと、傲慢。こちらを格下だと断じて疑いもしないような不遜さだけだ。

『まあ、俺のことはどうでもいいか。それで、この状況が気になってるんだろ?』スペルバウンドが右手を挙げて空を指差すと、天井に渦巻く穴が開き、徐々に広がっていく。その穴から差し込んできた眩い光にレツノスケは思わず目を瞑りかけた。

 その光とは太陽の光ではない。はるか上空に浮かびゆっくりと自転する、黄金立方体の放つ輝きであった。「成程、ここはつまり、コトダマ空間という訳か」『正解だ』スペルバウンドが両手の指で作った二丁拳銃をレツノスケに突きつけながら言った。

 そして現状を正確に認識できればこの不思議な空間にも説明が付く。先程スペルバウンドの言った過去の記憶に招待、という言葉。かつてギルドに所属していたころのスペルバウンドが用いていたユニーク・ジツ。このことから導き出される答えは、すなわち。「私のニューロンにハッキングを仕掛けたのだな……裏切者めが」

『ま、そういうこったな。裏切者、っていう表現はちょっと違うかもだけどよ。最初っからザイバツやロードに忠誠を誓ってたってワケじゃあないみたいだしよ、俺は』「なんとまあ、そのことに気が付けなかった己が不甲斐ない」『そりゃ無理だろ。俺のユメミル・ジツはなんでもありだ。そういう気付きだって、好き勝手出来るンだぜ』

 レツノスケの背中に電子的な汗が流れた。そう、スペルバウンドはニューロンのスペシャリストだ。現実の世界ならばいざ知れず、コトダマ空間においてはタイピングの速い者……ニューロンの優れた者こそが強者となる。そして、レツノスケのタイピング速度はスペルバウンドよりも遅い。はるかに遅い。はっきり言って、1対1で勝ち目は無い。

『そう悲観したもんじゃないぜ。もしかしたら、案外なんとかなるかもよ』スペルバウンドが小馬鹿にしたような態度で口の端を吊り上げた。その眼の中の瞳が三角、縦、逆三角とめまぐるしく回転し、長髪が天井のミラーボールの光を受けてより一層色濃く発光した。

『いや、喧嘩売ってるワケじゃなくてよ。俺がここでやるつもりはねえんだよな』そう言いながらスペルバウンドは部屋の入り口の扉を指差す。レツノスケは釣られてその指の先をちらりと見る。次の瞬間!「ヒイィヤァーッ!」入り口の反対側、クローゼットルームに潜んでいたニンジャがアンブッシュを仕掛けてきた!ナムサン!フェイントである!

「ヒイヤーッ!ヒイヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!」首筋を狙った連続アサシンダガー攻撃!レツノスケは連続側転回避!「イヤーッ!」反撃のイアイ!「ヒイヤーッ!」相手は跳躍回避!「イヤーッ!……ヌウッ!」レツノスケはキネシス・ジツで追撃しようとするが天井や壁を滑るように移動する敵の速度の前に断念する。敵はこのコトダマ空間に慣れているのだ。

「ヒイヤーッ!」黒一色のニンジャは0と1の残像を残しながら見事な三点着地を決めた。「イヒッ、イヒヒヒッ、ドーモーモーモ、ウツシエですですです……」床の上に降り立ったウツシエは二重三重にエコーの掛かった声で引き攣った笑みを浮かべながらアイサツした。

ユメ・アルク・クルーズ(その4)へ続く