
忍殺TRPG小説風リプレイ【メガ・エボリューション(その5)】
◆アイサツ
ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPGの小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。
本記事はニンジャスレイヤーの二次創作小説でありニンジャスレイヤー本編及び実在の人物・団体とは関係ございません。
こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。
それではやっていきたいと思います!
◆本編
「トドメヲサセー!」イセが叫ぶのと同時、サルーテは右手を思い切り突き出し、密着射撃によって穴の開いたシャークパイアの土手腹に突き刺した!「GRRRRR!」苦悶の声を上げるシャークパイア!サルーテは右手を引き抜き、バックステップからのバック転でサメニンジャから距離を取る!そして次の瞬間!
KABOOOOOM!「アバババーーーッ!サヨナラ!」シャークパイアの腹部にサルーテが埋め込んだバクチク・グレネードが爆発!まるで魔界の火山の噴火めいて緑色の血と肉片と鱗が盛大に噴き上がり、恐るべき化け物サメの断末魔が、そしてアンモナイトとイセの喝采が響き渡った!
こうして、研究員トガリの狂気的野望はシャークパイアの命と共に永遠の闇に葬り去られた。サメ感染者がこれ以上増えることは無いだろう。あるいは、そのトガリの意思すらもシャークパイアによって捻じ曲げられたものかもしれないが……いや、この場でこれ以上憶測を論ずることは止めておこう。まだサルーテたちのミッションが終わったわけではないのだ。
イセは採取キットを取り出し、シャークパイアの残骸から素早くDNAを採取する。「さて、ここからは私に任せてもらおう。アンモナイト=サン。お前は外に出て研究室に誰も来ないよう表を見張っていろ。サルーテ=サンには私を監視しつつ護衛してもらおうか」「なんだと?」アンモナイトの声のトーンが下がる。
「勝手なことを言うなよイセ=サン。私を部屋から追い出して何を企んでいるのだ?」「当然、貴様に殺されないために必要な措置だ。治療薬が完成した途端、用済みになった私をアンモナイト琥珀欲しさに始末するかもしれないだろう」イセは恐れることなく、真っ向からニンジャの視線を受け止めた。アンモナイトが何よりも琥珀を欲するように、彼女にも果たすべき目的があるのだ。
「なにを馬鹿なことを……サルーテ=サン。この女の言うことは無視したまえ。2人で妙な真似をしないよう見張るべきだ」イセを言葉で黙らせることが不可能だと悟ったアンモナイトがサルーテに水を向ける。
名前を呼ばれたサルーテは……おもむろに飴色の宝石めいた手の平サイズの結晶を懐から取り出した。イセとアンモナイト、2人がなんとしても手に入れようとしている、宝石よりも価値ある神秘の結晶、最高の遺伝子強化素材、アンモナイト琥珀を。
イセとアンモナイトの目が琥珀に釘付けとなる。サルーテはそれをボールのように軽く投げた。イセとアンモナイトの視線の動きがシンクロする。琥珀は山なりの軌道を描き、サルーテ以外の人物の手に収まる。その人物とは……
イセニューロン判定: 7d6>=5 = (5,1,6,4,3,4,2 :成功数:2)
アンモナイトニューロン:7d6>=5 = (5,4,6,5,6,1,4 :成功数:4)
アンモナイト勝利
「おお……!君の理知的な判断に感謝するぞサルーテ=サン!」アンモナイトは歓喜の声を上げ、アンモナイト琥珀をハンカチで丁寧に包み込む。「馬鹿な!何を考えている!治療薬が欲しくないのか!?」イセは声を荒げ、サルーテに抗議する。だが、次の瞬間!
「グワーッ!?」サルーテはアンモナイトの首に腕を回して拘束し、フルメンポ越しに銃口を突きつけた!「な、なにをするサルーテ=サン!?ヤメロ!琥珀に傷が付いたらどうしてくれるグワーッ!?」サルーテはアンモナイトの右手を掴み、その小指をへし折った!アンモナイトは歯を食いしばって痛みに耐え、左手の琥珀を柔らかく、しかし固く握りしめる!
(い、いったい何が起きているの?この男の狙いは何?)サルーテの突然の暴挙とも言える行動にイセのニューロンは激しく混乱する!しかし、やはり彼女は優れた頭脳を持つヨロシ研究員であった。彼女はサルーテの思考におおよその推測を立てる。
(ま、まさか……アンモナイト=サンを抑え込んでいる間に治療薬を作れということか?奴に琥珀を投げ渡したのは、奴が反抗する気力を奪うため……確かにこの状況なら私が治療薬を作り終えてもアンモナイト=サンに殺される理由は無くなる。サルーテ=サンは私の命を救っていると言えなくもないが……)
つまり、アンモナイトには琥珀を、イセには命が助かる権利をくれてやるのだから、文句を言わずに従え、ということだ。(冗談ではない!私一人がタダ働き同然ではないか!そんなこと断じて認められん!せめてアンモナイト琥珀のDNAを一部提供されねば割に合わん!)
治療薬を盾に更に交渉を粘るべきか?だが、なにをしようと結局ニンジャの暴力の前には敵わないのでは?それにあまり時間をかけて侵入者と共に行動しているところを見られても面倒だ。(どうする……どうすれば……)「グワーッ!?」アンモナイトの薬指が折られる!
(((イセ=サン、ここは奴の思惑に一度乗るのだ)))その時、イセのニューロンに先程聞こえた超自然の声が再び響いた!(あなたは誰なの?いったい何処から、どうやって話しかけているの?)イセはこめかみに指を当て、頭痛を堪える様に俯いた。(((私は偏在する。君が望めばいつでも私の声が聞ける。そして私はこれから名前を得るのだ。君の協力によって)))
何一つとして理解できない言葉ばかりを並べられ、信じるに足る情報をまったく与えられず、それでもイセはこの超自然の声の主を信じた。そうしなければならないという、ヨロシ研究員としての直感があった。「……分かった。言う通りにするわ」その呟きは超自然の声への、そしてサルーテへの返答だった。サルーテはアンモナイトの中指を折ろうとする手を止めた。
……イセは研究室内に設置されていたクリーンベンチ前の丸椅子に座り、ヨロシ・ピペッターや遠心機の電源を入れ、シャークパイアのDNAとヨロシセルをスターラーと共に大型ビーカーの中に投入し、マグネ撹拌機で混ぜ合わせる。機械にケーブルで繋がれたUNIXモニタに『進捗3%な』の文字が表示され、数値が見る見るうちに上昇していく。……だが。
ブガーブガー!「おい、なんだ?」折れた指にバイオ包帯を巻かれたアンモナイトが尋ねる。アンモナイトはおかしな行動を取らぬよう依然としてサルーテに銃を突き付けられたままだ。サルーテの表情は窺い知れない。イセがモニタを覗き込むと、『データ不適合』『エラーな』『診断』の警告表示が点滅している。イセは慌てることなくキーボードをタイプし、原因を調査する。
……そして、またイセの脳裏に声が響いた。(((イセ=サン、アンモナイト琥珀だ)))(((アンモナイト琥珀のDNA情報を手に入れるのだ)))(((私がそのUNIXを遠隔ハッキングしてエラーを表示させた)))(((治療薬の完成に琥珀が必要だと言えばいい)))(((ほんの一部だけがあれば十分だ)))(((それで私は生まれることが出来る)))(((それで私を完成させることが出来る)))
「……ダメだ。これだけではワクチンは作れない」イセはニューロンに響いた声が他の2人に気付かれていないことを祈りつつ、一世一代の大芝居を打った。「これを見ろ、治療薬の生成にはシャークパイアの……サメの遺伝子情報だけでは足りない。別の生物種の抽出バイオエキスが必要よ」イセはモニタを指先でトントンと叩く。そこに書かれた文字は……『アンモナイトDNAが必要です』
「バカな!許さんぞ!」アンモナイトは激昂してイセに飛び掛かろうとするが、それより一歩早くサルーテの湾岸警備隊仕込みのカラテで床の上に組み伏せられる!「ヌオオーッ!離せ!これは、この奇跡の結晶だけは絶対に渡さん!」激しく手足を振って暴れるアンモナイト!「グワーッ!?」そしてへし折られる右手中指!
「DNA情報を読み取るだけだ!琥珀の原型が失われるような真似はしない!」「ヌウゥーッ!」アンモナイトはしばらくもがいていたが……不意に、サルーテがアンモナイトの背中から離れた。その突然の行動にイセの心臓が跳ね上がる。まさか、自分の演技がバレたのか?
だが、恐れていた事態は起こらなかった。それはつまり、アンモナイトの溶解泡で頭を溶かされるだとか、サルーテの銃で心臓を撃ち抜かれるだとか、そういった最悪の事態が起こらなかった、という意味だ。「グワーッ!?」イセの悲鳴が研究室内に響く。その左手の小指がサルーテが伸ばした手によってへし折られていた。
痛みの中で、イセのニューロンは自分でも驚くほど冷静にサルーテの行動の意味を考察していた。そして、項垂れながら自分を見るアンモナイトの態度の意味を。
アンモナイトの手の中に既にアンモナイト琥珀は無い。懐の内に仕舞った、という訳でもない。ではいったい琥珀は何処に?その答えをイセが考える必要は無かった。何故なら、サルーテの黒い手袋に包まれた手が、その上に乗った白いハンカチの包みが、イセの眼前に突き付けられていたからだ。イセは指の痛みを堪えながら包みを慎重に開く。アンモナイト琥珀!
「つまり……今度は私がおかしな真似をしないよう見張られる番、ということね。Q.E.D」イセはアンモナイト琥珀を手に取ると、大型ビーカーの中に投入した。ドプン。カタカタカタカタ。「嗚呼……ああああ!」ビーカーの底に沈んだアンモナイト琥珀が撹拌機に叩かれて小さな音を立てる度に、アンモナイトが絞り出すような悲鳴を上げた。
……「おい!もう十分なのではないかね!早く琥珀を引き上げねば……!」「黙っていてくれ!あと少し……あと少し……!」モニターの数字が『進捗98%』の時点で止まり、どれほどの時が経っただろう。10秒か?1分か?このまま永遠に時間が止まってしまうのではないかと思われた次の瞬間、ついにその時が来た!
パワリオワー!モニターに表示される『進捗100%』の表示!「ウオーッ!」アンモナイトはイセを突き飛ばし、ヨロシ薬匙を使ってビーカーの底からアンモナイト琥珀を救出する!「おお、おお!白亜紀の夢の結晶よ!一億年の時を経て我が元に訪れた古代の宝石よ!」アンモナイトはハンカチで琥珀を丁寧に拭き取り、もはや誰にも奪われぬよう、自分の懐へ仕舞い込んだ。
「これが……約束の治療薬だ」イセは完成した溶液をヨロシ分離機にかけ、抽出された薬剤を滅菌した容器に詰め終えた。出来上がった治療薬をサルーテに手渡すと、サルーテは見事な挙手の敬礼を行った。感謝でもしているつもりなのであろうか?(どうでもいい。本当に重要なのはこっち……)イセは治療薬作成の過程で出た副産物を2人にバレないよう別の容器に移し替える。アンモナイトDNA!
(これさえあれば私の甲殻類生物の研究は飛躍的に前進する!他のヨロシ研究員たちの誰もが成し得なかった、あのカンゼンタイすらも凌駕する究極のバイオ生物が誕生するのだ!他の誰でもない、私の手で!)イセは来たるべき未来を、それも実現可能性に乏しい空想ではなく、確かな現実の先にある栄光の未来に思いを馳せ、ほくそ笑んだ。
その時である!ブガー!ブガー!『侵入者発見ドスエ。各フロアの警備員はトガリ研究員のパーソナル研究室まで急行な』「いかんぞ!今度こそ我々が見つかった!」アンモナイトが叫ぶより早く、サルーテは出口目掛けて駆け出していた!アンモナイトが急いで後を追う!
「わ、私は……」イセはどうすべきか逡巡するが、(((イセ=サン、奴らを追う必要は無い。私がハッキングで警報を鳴らしたのだ)))脳裏に響く声に平静を取り戻し、声を聞き逃さないよう両耳を塞いで集中した。
(((あの連中から離れるいい機会だ。奴らとて、もはや君に何の用もあるまい。それよりも……今手に入れたDNAを持って君の研究室へ向かうのだ)))(私の研究室へ?勿論それは構わないのだけど……)
この時点でイセにも声の主におおよその検討が付いていた。『彼』がいったい何者なのか、『彼』が自分と世界に何をもたらす存在なのか。そういったことについて。(肝心の甲殻類の可能性を証明するためのDNA情報が無いのよ。かつて、ナカタ研究員という人物が造り出したバイオニンジャの……)(((心配は要らない)))
(((私がそのDNA情報だ。イセ=サン。私こそがナカタ研究員の遺志……私こそが甲殻類の可能性……そして私こそヨロシサンの、全ニンジャの頂点に君臨する究極のバイオニンジャ。進化の系統樹の切っ先にひとり屹立する、あらゆる生命がいずれ流れ着く存在なのだ……)))(凄いわ)イセは歓喜のあまり、涙した。