見出し画像

忍殺TRPG小説風リプレイ【ユメ・アルク・クルーズ(その6)】


◆アイサツ

 ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPGの小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。

 本記事はニンジャスレイヤーの二次創作小説でありニンジャスレイヤー本編及び実在の人物・団体とは関係ございません。

 こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。

 それではやっていきたいと思います!

◆本編

 見事な模様の描かれた白砂の枯山水に浮かぶ一隻のボロ舟。その上には一人のニンジャが座り、一人のニンジャが立っている。座っている方は知らないが、立っている男はヴァルナがよく知っているニンジャだ。男とヴァルナは不敵な笑みを見せ合い、アイサツを交わした。「ドーモ、ヴァルナ=サン。ロンダイジ・レツノスケです」「ドーモ、レツノスケ=サン。ヴァルナです」

「ドーモ、ロンダイジ・レツノスケ=サン。バットゥエレです」バットゥエレは捩じ切られた肩の傷口から新たな腕を生成し、両手を合わせたアイサツを行う。墨めいて黒く野太い腕には亀裂めいた紫電が絶え間なく這い回っており、まるで稲妻を放つ雷雲を腕の形に凝縮したかのようだ。

 レツノスケは舟の縁に足をかけ、屋敷の廊下に一足で飛び移る。揺れるボロ舟の上でコルセアが慌てて帽子を押さえた。「失った腕が生えるとは、まるでアンダーガイオンを這い回るバイオトカゲだ。それもコトダマ空間ならではの技か?」レツノスケはヴァルナの隣に並び、和服パーカーの袖をめくって右腕を露出させる。

「ハッ!そういうワケだ小僧。何もかもが文字通りの思い通りになる世界。それがコトダマ空間だ。当然しち面倒くさいルールもモラルも存在しない!ましてや他人のニューロンを荒らしてやったところでそれを裁く法律も無い!この場所こそスペルバウンド=サンが導いてくださった夢の治外法権よ!」

「……そうか、確かにその通りだな」バットゥエレは訝しんだ。レツノスケの声が自分のすぐ側から聞こえたからだ。彼は己の胸元を見下ろした。血飛沫で顔を濡らしたレツノスケが自分の胸に右腕を肩まで差し込んでいる。背後から鼓動音。首を後ろに向けると、バットゥエレの血に塗れた心臓がレツノスケの右手の上に乗っていた。

「アバーッ!?」「イヤーッ!」バットゥエレは血を吐いた!レツノスケは躊躇なく心臓を握り潰す!「アバババーーーッ!?」強烈な『死』のイメージを叩き込まれたバットゥエレは失った心臓を再構築することも出来ず、論理肉体を崩壊させていく!

「ゴ、ゴボボーッ!う、嘘だ!こんな!嫌だ!スペルバウンド=サン!ライトプレッシャー=サン!助けてくれ!助けてくれーッ!」「あれまあ、心臓も無いのに元気がよろしいなあ。せやけど、人様ん家では静かにせんと」

 ヴァルナは跳躍も側転もせず、重力を無視した動きでバットゥエレの顔面を掴んだ。「イヤーッ!」「アババババーーッ!サヨナ01010!」論理カトン・ジツ!バットゥエレは断末魔の悲鳴すらも炎に呑まれ、01焼失した!ナムアミダブツ!

イニシアチブ
ロンダイジ・レツノスケ→ヴァルナ→バットゥエレ
◇3ターン目
レツノスケカラテ:
4d6>=4 = (6,6,5,4 :成功数:4)+3d6>=4 = (4,6,1 :成功数:2)サツバツ!
バットゥエレ回避:
2d6>=4 = (2,1 :成功数:0)+1d6>=4 = (3 :成功数:0)
サツバツ:1d6 = (6)
「さらばだ! イイイヤアアアアーーーーッ!」ヤリめいたチョップが敵の胸を貫通! 
痛打:2d6 = (6+3)合計値:9
バットゥエレ体力-8!戦闘不能!

戦闘終了

「タイプ速度や想像力、ニューロンの回転速度がそのままカラテやワザマエに変換される世界か。確かに私はまだまだ常識という枷に囚われていたようだ」レツノスケは30㎝ほど宙に浮かんだままのヴァルナを見ながら新たな学びを得る。コトダマ空間では『出来ない』という発想自体がナンセンスなのだ。

「ほいで、レツノスケ=サン?いったいなにが起きてるんか、うちにちゃあんと説明しておくれやす。あ、その前に下ろしてもらえると嬉しいんやけど……」ヴァルナは宙に浮いたままレツノスケを見下ろしてくすくす笑う。「自分で落ちておれ。まず、今回の事件の黒幕だが……」『アーララ、ヒデエことしやがって。これじゃあもう使い物にならねえぜ』

 レツノスケが説明を始めようとしたその瞬間、いつの間にそこにいたのか。スペルバウンドがタタミの上にヤンクめいて座りながらバットゥエレの僅かな残骸を手に取って弄んでいた。ヴァルナとレツノスケは弾かれたように距離を取り、部屋の対角線上の角部分に陣取った。『そうビビるなって。ドーモ、スペルバウンドです。レツノスケ=サンはさっきぶりだな?』

「ドーモ、ヴァルナです……レツノスケ=サン?」「……話の続きだが、私はこことは別の空間でウツシエと交戦し、奴を打ち倒した。だが01消滅しかけたウツシエをこやつが回収してしまった。そしてあの屋敷で我々の意識を奪ったのもこやつだ」『ああ、俺だ。でもバットゥエレ=サンは駄目だな。ニューロンが完全に焼け切れちまってら。ほら、見てくれよ』

 スペルバウンドは右の手の平を上に向け、ウツシエの時もそうしたようにバットゥエレの01残骸を集積していく。しかし、キューブ状の立方体は固定されることなく灰のように崩れていってしまう。『ニューロンへのダメージが大きすぎたんだ。こうなったらもう使えねえ』スペルバウンドはなんの躊躇もなくバットゥエレだったものを握り潰した。

バットゥエレ戦闘終了時体力‐8
バットゥエレ精神力ダメージ:1D3 = (1)

バットゥエレ精神力‐9

バットゥエレは精神力以上のダメージを負ったことにより死亡!

『いやあ、なかなか手に入らねえなあ……肉』スペルバウンドが床に手を翳すと渦巻くトンネルめいたポータルが開く。スペルバウンドは小さくジャンプし、ポータルの中に身体を滑りこませた。『まあ、気長にやるさ。あと一人いるしな』スペルバウンドがポータルに入るとポータルはみるみるうちに収縮し、最初からそこに何も無かったかのように消滅した。

「なんやの、あのけったいなニンジャは……レツノスケ=サン?」「ああ、姿も言動もまるで違うが……我々がネオサイタマで共に行動していたニンジャと何処か似ている」レツノスケはポータルのあった位置の床を確かめるように踏みしめる。当然、再びポータルが開く気配は無い。

「残ったネクロマ=サンもニューロンに侵入されている可能性が高い。救助に向かうぞ」「あらまあそら一大事。せやけど、どないして行くん?」レツノスケは部屋のショウジ戸を開き、中庭に面した廊下に出る。そこには先程と同じようにボロ舟が一隻、枯山水に浮かんでいた。その上では海賊帽を被ったニンジャがスキットルで酒を呷っている。

「どうやら無事だったようだな。ドーモ、俺はカロン……」「彼はコルセア=サンだヴァルナ=サン。この場所へ私を連れて来てもらった」「……おいおい、そりゃシツレイだろうよ」コルセアの非難の言葉にも取り合わず、レツノスケは舟に飛び乗る。「すまんが冗談に付き合っている時間が無い。もう一人の居場所に案内してくれ」「図々しさここに極まれり!それでもキョート人かね」

 文句を垂れながらもコルセアは櫂を操り、ボロ舟をヴァルナの立つ廊下の横につけた。「ドーモ、コルセア=サン。ヴァルナです。忙しないことで、えろうすんまへんなあ。ほな、よろしゅうおたのもうします」ヴァルナはたおやかな礼と共に舟に乗り込み、レツノスケとコルセアから少し離れた場所に腰を掛けた。彼女はほんの一瞬、かつての自分の部屋に視線を送り、すぐに目を逸らした。

「ヒッヒヒ!では出航だ!ただし、人数が増えたからな。揺れがひどくなるのは堪忍しておくれよ!」コルセアが櫂をひと漕ぎすると舟はすぐに暗黒宇宙的グローバルコトダマ空間へと躍り出た。電子ストリームの荒波に揺れるボロ舟はさながら大海原に浮かんだ一枚の葉っぱにも見える。レツノスケとヴァルナは絶妙なニンジャバランス感覚で舟の上から投げ出されないようにする。

「アマミツミヤ家の人間だったのだな、ヴァルナ=サン」不意に、レツノスケが口を開いた。ヴァルナは目線をレツノスケへと向ける。「…………なにか?」着物の袖で隠された口元は窺い知れず、その瞳に燃える炎は冷たい。「……いいや、別に?」レツノスケはパーカーで目元を隠す。その口元には極わずかな、しかし確かに小さな笑みが浮かんでいた。

101011000111010010100110011010101

「グワーッ!グワーッ!」真夜中のアッパーガイオン、無数のハカイシが立ち並ぶ古びたテンプルの墓地の中。ネクロマは肩の傷を押さえながらのたうち回った。インガオホーを呟くドクロめいた月がネクロマを見下ろすことは無い。代わりに空に浮かぶのはゆっくりと自転する黄金の立方体。

「おお、なんと痛ましい。可哀そうに。苦しいのだな?苦しいのだろう?ネクロマ=サン」ネクロマと黄金立方体の間に逆さまのニンジャの顔が割って入る。ライトプレッシャー。「だがその苦しみは君が痛みを受け入れたからだ。偽りと真実、電子と魂、0と1が混じり合うこの世界で、肉体から解放された君の精神が苦痛を享受することを選択したのだよ。これは誇るべきことだ。胸を張りたまえ」

◆ライトプレッシャー (種別:ニンジャ)
カラテ    9		体力   9
ニューロン  9		精神力  9
ワザマエ   9    脚力   5/N
ジツ     0		万札   -

攻撃/射撃/機先/電脳  9/9/9/9
回避/精密/側転/発動  9/9/9/-

◇装備や特記事項
 スキル: 『●連続攻撃2』『●連射2』『●マルチターゲット』『●時間差』
◆ネクロマ (種別:ニンジャ)  DKK:0    名声(ザイバツ):8
カラテ    6		体力   6
ニューロン  6		精神力  6
ワザマエ   6    脚力   3/N
ジツ     0		万札   -

攻撃/射撃/機先/電脳  6/6/6/6
回避/精密/側転/発動  6/6/6/-

◇装備や特記事項

「グワーッ……イヤーッ!」ネクロマはその場でウインドミル回転し、ライトプレッシャーの足を狩ろうとする!「グワーッ!?」悲鳴はネクロマの口から溢れた。回転蹴りを繰り出そうとした彼の脚はライトプレッシャーの指先から放たれた光線の熱により根元から雪のように溶けていた。

「落ち着きなさい、これは現実ではないのだよネクロマ=サン」「グワーッグワーッ!」ライトプレッシャーは指を立てたままネクロマの周囲を歩く。生徒に個別指導する教師のように。「このコトダマ空間では四肢はおろか心臓や頭部ですら再構築できる。イメージを強く保ち続けることが出来ればね。さあ、やってごらん。試してごらん」「グワーッグワーッ!」

 ネクロマはライトプレッシャーの言葉を耳に入れてはいるが、痛みのあまり思考を纏めることが出来ない。ライトプレッシャーはしばらくその様を眺めていたが、やがて失望したように溜息を吐いた。「仕方がない、本意ではないが、仕方がない。君のその痛みは私が肩代わりしてあげよう、ネクロマ=サン」

 ライトプレッシャーは暴れ回るネクロマの顔面に右の掌を押し付ける。予備動作の一切無い静謐な、しかし力強い動きだった。「この場所は君の過去の記憶から形成されたローカルコトダマ空間だ。私は今、君の無防備なニューロンにアクセスしているんだよ」「グワーッ……!」「ならば、内側からADMIN権限を書き換えることも容易い。さあ、現実世界にある君の肉を明け渡すがいい。……さあ、さあさあさあ!」「グワーッ……!」

ユメ・アルク・クルーズ(その7)へ続く