忍殺TRPG小説風リプレイ【プロト・シンセシス(その2)】
◆アイサツ
ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPGの小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。
こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。
それではやっていきたいと思います!
◆本編
◆◆◆
ネオサイタマの主要な水源でもあるトネ・レイク。その周辺地区にはヨロシサン製薬関連の施設が多く存在しており、そこから垂れ流されるヨロシバイオエキスは湖を鮮やかな蛍光グリーン色に染めている。この湖にはヨロシサンから脱走した危険バイオ生物が潜んでいるなどという噂もあるが、ヨロシサン側はまったくの事実無根であるとのコメントをしている。
今、そのヨロシ関連施設の一つ、固く閉ざされた扉の鍵をマチェーテで破壊し、四人の集団が扉の奥に足を踏み入れた。バイオインゴット調達のために訪れたサワタリ、ハイドラ、サルーテ、そして案内役のイセである。施設内に明かりは点いておらず、人の気配は無い。
エントランスの壁には『今月のクレームは無い』『午前中のノルマ』の掲示板。どちらも随分前の日付である。サワタリは所内通路図を見て目的の冷凍庫の位置を確認すると、ハイドラとサルーテにハンドサインを見せて通路をしめやかに進み始める。イセはその後を息を切らせながら駆け足で追いかける。ニンジャの認識するゆっくりした歩みとはモータルのそれとはまるで別物なのだ。
「止まれ」目的地直前、通路の角を曲がろうとしたサワタリが後ろの3人を制止する。訝しむハイドラが角から顔を出し、サルーテがそれに続く。バイオニンジャの三つ目と重サイバネニンジャのサイバネアイが闇に浮かび上がり、その先にあるものを見た。ターゲットであるDNA冷凍保存室の前に、銃で武装した男が2人。クローンヤクザである。
◆クローンヤクザY-14型 (種別:モータル/バイオ生物/クローンヤクザ)
カラテ 3 体力 2
ニューロン 1 精神力 1
ワザマエ 4 脚力 2
ジツ – 万札 1
攻撃/射撃/機先/電脳 3/4/1/1
◇装備や特記事項
チャカガン: 銃器、連射1、ダメージ1
「どういうことだイセ=サン?冷凍庫の前にクローンヤクザがいるぞ。警備が手薄という話ではなかったか?」「なんだと?そんな筈は……」「やっぱりコイツ嘘ついていやがったんだ!ブッ殺そうぜ大将!」イセが何かを言う前に、ハイドラが食って掛かる。
「やめろハイドラ!任務前に約束したことをもう忘れたか!」サワタリはハイドラを羽交い絞めにして止める。ハイドラはなおも暴れて何か言おうとしたが「アッコラー!?」「ナンシャッテオラー!」騒ぎを聞きつけたクローンヤクザたちがサワタリたちを発見してしまった!
「スッゾコラ」BLAM!「グワーッ!」ヤクザが銃を抜く前にサルーテがLAN直結銃でヤクザの額を撃ち抜く!即死!「テメッコラ」「イヤーッ!」「グワーッ!」もう一人のヤクザが銃を撃つ前にとサワタリの弓矢がクローンヤクザの喉を撃ち抜く!これまた即死!
サルーテ射撃:
10d6>=4 = (4,6,4,3,5,1,6,6,2,2 :成功数:6)
+10d6>=4 = (1,2,2,4,1,3,1,4,6,5 :成功数:4)ヘッドショット!
クローンヤクザ死亡!
クローンヤクザ体力1
サワタリ射撃:
11d6>=4 = (2,1,1,6,5,2,3,1,5,3,4 :成功数:4)
クローンヤクザ死亡!
【万札:2】GET
サワタリたちは他の見張りが出てこないことを確認し、ザンシンを解いた。「ハイドラ!貴様何をやっておるか!」「なんだよ!俺は任務のためにやったんだぜ!」サワタリとハイドラの怒号が研究所の廊下に響き渡る。サルーテは言い争いを始めた2人に構わず、冷凍庫のロックドアに備え付けられたコードの入力装置にLAN直結する。イセは面倒事に巻き込まれないよう、サルーテの陰に身体を隠している。
ガゴンプシュー!ハッキングによってロックが解除され、開いたドアから真白い煙と冷却された空気が溢れ出す。冷気でサルーテのゴーグルに霜が降り、イセは慌てて持ってきていた防寒具を着こんで身を縮こませた。
「オイ!サルーテ=サン!勝手に俺より先に行くんじゃねえ!」「待てハイドラ!話はまだ終わっておらんぞ!」冷凍庫の中にさっさと進んでいくサルーテとイセをサワタリとハイドラが追いかけ、4人は極寒の世界へとその身を飛び込ませた。
◇◇◇
パチ、パチ、パチ。冷凍庫内に入り込んだ4人を出迎えるように天井のLEDライトが点灯する。どうやらこの冷凍庫内までは電気系統が切られていなかったらしく、天井の端に設置された冷却器が唸るような重低音を立てて今も稼働している。整然と並んだ冷凍庫にはそれぞれヨロシ研究員の名前や社員番号が記入されたプレートが貼られており、まるでツキジのマグロ市場を思わせる。
「すげえ!見ろよ大将!宝の山だぜ!」ハイドラが床に直置きされていたスチロールのうち一つを適当に選んでひっくり返すと、銀色のフィルムに包まれた延べ棒状の物体がバラバラと零れ落ちた。ハイドラはガサガサとフィルムを剥がし、出てきた緑色のヨーカンめいた物体に齧り付く。「冷てえ!でもウマイ!」目的のバイオインゴットである。
「こらハイドラ!不用心な!ベトコンのブービートラップを警戒せんか!」サワタリはハイドラの事を叱りつつも、その口調は先程よりも幾分か軟らかい。これだけ大量の物資が手に入ることは稀だからだ。サワタリは研究員の私物と思われるワインセラーをマチェーテで慎重に開き、中のワイン瓶をバイオフロシキに包んでいく。
「モッチャム!コイツは高値で売れるぞ!ベトコン共め!これだけ蓄えおって!ソ連から提供された支援物資に違いあるまい!」「ありったけ持って帰ろうぜ!」ハイドラはインゴットを詰め込んだスチロールを両脇に抱えこむ。サルーテもサワタリたちとは別の冷凍庫をハッキングで次々と開けて目ぼしいものを懐に収めていく。
「……お前たち、ここにある物もいいが、奥の方も……」イセは自らの目的であるナカタ研究員の研究データがある場所へとサワタリたちを誘導しようと声をかける。……だがその時だ!
サルーテ、サワタリ、ハイドラ回避:
14d6>=5 = (5,6,1,5,3,5,2,4,6,4,4,2,3,2 :成功数:5) +
11d6>=5 = (2,5,6,6,4,5,4,2,2,2,5 :成功数:5) +
9d6>=5 = (3,5,3,1,4,1,6,4,3 :成功数:2)
「「イヤーッ!」」サワタリ、ハイドラ、サルーテの3人は連続側転を打ち頭上から降り注いだ謎の泡を回避!泡を浴びたスチロール山が見る見るうちに原型を無くし、溶けて消えていく!「ンアーッ!?」イセは突如として吹き荒れた色付きの風三陣に吹き飛ばされて転倒し、背中を冷凍庫に打ち付けられる!
「ベトコンの新兵器か!?ジェロニモーッ!」サワタリは天井に溜まっていた白煙目掛けてククリナイフを投擲!「イヤーッ!」煙を突き破って出てきたのはオウムガイ状の殻と触手を備える奇怪なフルヘルムメンポをつけた異様な出で立ちのニンジャであった!
「ドーモ、アンモナイトです」
◆アンモナイト (種別:ニンジャ/重サイバネ)
カラテ 3 体力 5
ニューロン 7 精神力 8
ワザマエ 4 脚力 2/N
ジツ 3 万札 10
攻撃/射撃/機先/電脳 3/3/5/7
回避/精密/側転/発動 7/4/4/10
◇装備や特記事項
所持品 :『アンモナイト化石(ブードゥー読み替え)』
スキル :『●マルチターゲット』『●時間差』
『◉知識:化石発掘(アンモナイト)』
『◉狂気:異常収集癖(アンモナイト)』
ジツ :『溶解液(☆ポイズンブレス・ジツLV1-3読み替え)』
装備 :『アンモナイト型フルヘルム・メンポ(伝統的フルプレートヘルム読み替え)』
「ドーモ、アンモナイト=サン。サヴァイヴァー・ドージョーのフォレスト・サワタリです。こっちはハイドラ、そしてサルーテ=サンだ」サワタリが仲間の分まで代表アイサツを行う。ニンジャでないイセはアイサツに参加せず、背中の痛みに蹲っている。
「なんということか……まさかニンジャが3人も送られてくるとは。だが貴様らのような悠久の時の重みを理解できん研究者にアンモナイト琥珀は渡さんぞ!」アンモナイトと名乗ったニンジャは1対3という数的不利にも怯まず、気を吐いた。アンモナイト琥珀という単語を聞いたイセがその表情を強張らせる。
「アンモナイト琥珀?ここにあるのはホーチミンの宝、我々が求める補給物資だ!」「ホーチミン?何故ベトナムの都市の名が……?」「おれたちはサヴァイヴのために戦っている!すなわち自由!そのための闘争!我々は過去のためでなく、今を生きるために闘っている!舐めるなよ!」
「……君たちはヨロシサンの社員ではないのか?その白衣の女は?」会話が噛み合わないことに気付いたアンモナイトはサワタリたちに向けていた手を下ろし、臨戦態勢を解いた。サルーテもアンモナイトの心臓と額に照準を合わせていた直結銃を下ろす。
「おれはナムで徴兵される前はヨロシサンにいたが、自主退職した。ハイドラとサルーテ=サンは同じ部隊の仲間で、この女は捕虜である」「違う!私は歴としたヨロシ研究員だ!」「アンモナイト=サン。もしかしてお前はベトコンではないのか?所属と階級を述べよ」「……話が見えん」アンモナイトは頭痛を堪える様にメンポの表面を撫でた。
◇◇◇
「……なるほど、そういう事情であれば、我々は協力し合えるかもしれん」
あの後、どうにかサワタリたちの素性と発言内容を理解したアンモナイトはそう切り出した。「アアー?協力?必要あるか!」ハイドラはこれ以上部外者が増える可能性を察知し、即座に反対したが、サワタリに睨み付けられて渋々口を閉じる。
「君たちがここにいるということは、入り口前にいたクローンヤクザを始末してきたのだろう?この閉鎖された研究施設に、何故見張りがいたのか知りたくないかね?無論、私はその理由を知っている。……だが、それを教えることを対価に、私に君たちと行動を共にさせて欲しい。……どうだ?」「ヌウ……」
見た目の胡乱さとは裏腹に、このアンモナイトというニンジャは強かであった。確かにこの怪しいニンジャの言葉を信じるのはあまりにも警戒心が無さすぎる。だが、捕虜であるイセから聞いた情報の信憑性が、入り口にいたクローンヤクザの存在によって揺らいでいるのもまた事実なのだ。
「……いいだろう」サワタリは結局、この提案を受け入れることを選んだ。「おい、大将!?」「戦場の霧を晴らすためだ。部隊の安全には変えられん」「そちらの彼は大丈夫なのか?」アンモナイトはサルーテの方を見て言った。イセはモータルなので最初から交渉相手に含まれていない。サルーテは右手を上げて見事な挙手の敬礼を行う。その表情は窺い知れない。
「よろしい。交渉成立と見做そう」アンモナイトは白手袋を嵌めた両手を叩き、説明を始める。「私が死蔵されたアンモナイト琥珀を求めてこの冷凍庫に訪れたのは先程説明した通り……だが、入り口のロックドアにて少々手古摺ってな。そうこうしているうちに、クローンヤクザの集団を引き連れた研究員が訪れたのだ」
「研究員……」イセは口の中で呟く。まさかとは思うが、誰かが自分の求める研究成果を奪いに来たのではなかろうか。イセの不安をよそに、アンモナイトは話を続ける。「私は咄嗟に物陰に隠れ、その研究員たちを観察することにした。奴らはこの部屋のロックを容易く解除し、2人の見張りを残して冷凍庫に入っていった」「それが先程の連中か」サワタリの言葉にアンモナイトが頷く。
「私は冷凍庫から溢れ出した冷気の煙に紛れて見張りの目を誤魔化し、ここに侵入できたのだが……その煙と、この迷路めいた部屋の構造のせいで先へ進んでいった研究員たちを見失ってしまったのだ」「敵の戦力は?」「残りのクローンヤクザは精々4体ほどだ。他には無い。ニンジャもいない」
「なんだよ!クローンヤクザ程度なら俺一人でもお釣りが来るぜ!」肩透かしを食らったハイドラはアンモナイトの話に興味を失い、周囲の冷凍庫を調べる作業へと戻る。
「……その研究員の名前は?容姿は分かるか?」イセが横から口を挟む。「イセ=サン、捕虜が許可無く発言するのは控えてもらおう」サワタリの言葉にイセは肩を竦めた。サルーテは無言で佇んでいる。その表情は窺い知れない。「それで、実際どうだアンモナイト=サン」イセの質問をサワタリが引き継ぐ。
「流石に名前までは……だが、特徴的な服装ではあった」「どのような服装だ」「白衣の下のTシャツに、『サメが大好き』の文字がプリントされていた」「なんだと?」思わず声を上げたイセにハイドラ以外の3人の視線が集まる。
「……トガリ=サンだ」気まずさを誤魔化すような咳払いと共にイセはその名前を口にした。「誰だ?知り合いか?」「私よりランクが下の研究員だ。一体どんな卑劣な手を使ってここの入場許可を…………!」その時、イセのニューロンに稲妻めいた閃きが走った。
「おい、どうした?」「そのトガリとやらがどうかしたかね?」急に黙ったイセに、サワタリとアンモナイトが訝しむ。イセは覚悟を決める。彼女は伸るか反るかの博打に出た。「おそらくだが、彼の狙い……はアンモナイト琥珀だ」イセは彼の狙い『も』と言いそうになったところを慌てて言い直した。
「なんだと!?」反応は劇的であった。アンモナイトはイセに食いつかんばかりの勢いで接近し、その不気味なメンポを近付けた。「ア、アンモナイト琥珀の原子DNAはバイオ細胞の強化素材に用いることが出来るという研究結果がある。トガリ=サンはサメの研究者だ。おそらく琥珀からDNAを抽出してバイオエキスにしてしまうつもりなのだろう。QEDだ」
イセは嘘を吐いてはいない。故に、この場にいる男たちのニンジャ洞察力もニンジャ第六感も、言葉の裏に隠されたイセの真意を察知することが出来ない。「バカなーッ!そんなことが許されるものかーッ!」KRAAAASH!アンモナイトは怒り狂い、横にあった冷凍庫を力任せに蹴り倒した。
「話は聞いたなサワタリ=サン!これは由々しき事態だ!ただちにそのトガリという男を見つけ出し、一億年の神秘の結晶を守らねばならぬ!急げ!」アンモナイトは早口で捲し立て、心の昂りのままに走り出した。
「おい、待たんか!まだその琥珀が何処にあるのかも分からんのだぞ!……ええい、これだからジャングルに慣れておらん民間人は!すぐにパニックを起こす!」「ヨッシャ!俺に任せておけ!」あっという間に姿が見えなくなったアンモナイトをサワタリと事情を把握しきれていないハイドラが追いかける。その後ろ姿を見て、イセは胸の内でほくそ笑んだ。
(最初はまたぞろ頭のおかしいニンジャが出たと絶望していたが……これはヒョウタンからオハギ、と言うべき状況かもしれん。ナカタ研究員の研究データに加えてアンモナイト琥珀も手に入れれば私の目指す究極のバイオニンジャを生み出すことも夢ではない。やはり運命が甲殻類の勝利を望んでいるのだ……!QED!)
イセはこの場に残った唯一のニンジャであるサルーテを見る。何を考えているかよく分からない男であるが、コイツは基本的にサワタリの行動には逆らわない。それならば。「サルーテ=サンだったか?私を運んでもらおう。案内役がいるだろう?」イセは強気に命令する。サルーテの鋼鉄製の手がイセに伸びる。極寒の冷凍庫内にも拘わらず、イセの背中に汗が流れた。
……心配は杞憂であった。サルーテはイセを米俵めいて抱え上げ、アンモナイトたちを追いかけ始める。「丁寧に頼むぞ。いいな」イセの言葉にサルーテは何の反応も示さない。その表情は窺い知れない。しかし、ニンジャであるサルーテが何も言い返してこなかったという事実、そのこと自体にイセは歪んだ満足感と達成感を覚えた。