忍殺TRPG小説風リプレイ【プロト・シンセシス(その3)】
◆アイサツ
ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPGの小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。
こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。
それではやっていきたいと思います!
◆本編
◇◇◇
バチン、バチン、バチン。駆け足で進むニンジャたちを辛うじて感知したLEDライトが既にアンモナイトたちの通り過ぎた通路を照らす。天井に吊るされた監視カメラが機械的に侵入者たちを追いかけるが、既にその映像を受け取る人間はこの施設にはいない。カメラはそのままニンジャたちの背中を見送り、諦めたように首を垂れた。
「そこを右、前方のスチロール山を越えて、青のスチロール山を押し退けろ、そこから更に……」イセはサルーテの肩に担がれながら己の記憶を頼りに指示を飛ばす。彼女の記憶に少しでも違いがあればサワタリたちはこの迷宮めいた冷凍庫を延々と彷徨うことになる。イセの責任は重大だ。
「本当にこっちで合ってんのかよ?適当なこと言って逃げようとしてねえだろうなイセ=サン」「今集中して思い出している。気が散るから話しかけるな」「なんだとテメエ!研究員のクセに偉そうにしやがって!」ハイドラとイセの間に剣呑な空気が流れる。サワタリとアンモナイトはその様子を無言で注意深く見守る。サルーテの表情は窺い知れない。
「よさんかハイドラ。作戦行動中だぞ」サワタリが窘めるように言うが、かえってその態度がハイドラを苛立たせる。「大将!なんでアンタはそこまでこの女を信じるんだよ!サルーテ=サンのこともそうだ!」「ハイドラ!貴様いい加減に……!」「なんだよ!俺はドージョーのためになあ……!」ついにサヴァイヴァー・ドージョー2人は言い争いを始めてしまった。
実際、捕虜であるイセが真実を話している保証など何処にもない。ハイドラはヨロシサンの研究員に対する嫌悪感だけでイセの事を一方的に疑っているようだが、サワタリとてイセのことを信用しきっている訳ではない。サワタリは彼女のもたらす情報の有益性と信用を慎重に秤にかけている。ハイドラにはそのバランス感覚が理解できぬのだ。
「2人ともすまんがお喋りはそこまでにしてくれんかね。歴史のなんたるかを理解しない野蛮人共のお出ましだぞ」先頭を行くアンモナイトが立ち止まり、適当なスチロール山の陰に隠れながらサワタリたちを手招きする。物陰から顔を出してみれば、冷気の靄の奥に揺らめくダークスーツが確かに4つ。トガリが連れてきたというクローンヤクザたちだ。
「だから言っただろう。ヤクザたちがここにいるということはトガリ=サンも近くにいるということ。つまり目当てのアンモナイト琥珀もこの付近にあるということだ。QED」イセは内心で安堵の息を吐き、己の記憶力の高さを自画自賛した。……だが。
「待て。何か妙だぞ」最初に違和感に気が付いたのはサワタリであった。その気付きは他のニンジャたちにも、モータルであるイセにすらも伝播する。彼らの視線の先、決められたルーティン行動しか取らない筈のクローンヤクザたちがまるで水槽の中を泳ぐキンギョめいてふらふらと歩き回っている。
「妙って言ったってどうせクローンヤクザだろ。チャッチャと殺しちまおうぜ」ハイドラがヤクザたちに飛び掛かろうと身を乗り出す。だがその時、クローンヤクザたちは機敏な反応でハイドラの方を一斉に見た!
「「「GRRRRッコラー……」」」まるで唸るかのような異様なヤクザスラング!ヤクザたちは銃を構えることもせず、獣めいた前傾姿勢を取って鋭利な牙を剥き出しにする。その歯列はサメめいた多重構造!サメのヤクザ、すなわちシャークザである!
◆シャークザ (種別:モータル/バイオ生物/クローンヤクザ)
カラテ 3 体力 2
ニューロン 1 精神力 1
ワザマエ 4 脚力 2
ジツ – 万札 1
攻撃/射撃/機先/電脳 3/4/1/1
◇装備や特記事項
▲▲戦闘用バイオサイバネLV1
???:???
「なんだありゃあ……」「来るぞ!注意せよ!」「「「GRRRッゾオラー!」」」シャークザたちは牙をガチガチと噛み鳴らしながら獲物に喰らいかかるサメのようにハイドラたちへ襲い掛かった!
◇戦闘開始
イニシアチブ
サルーテ→フォレスト・サワタリ→アンモナイト→ハイドラ→クローンヤクザ
BLAMBLAM!「アバーッ!」サルーテのLAN直結銃から放たれた重金属弾がシャークザの額を撃ち抜く!即死!「サイゴン!」「グワーッ!」サワタリのタケヤリがシャークザの心臓を貫く!即死!「なんとおぞましき変容……しかし成程。内臓や急所の位置は特に人類のそれと変わってはおらんか」アンモナイトがコメントする。「GRRRッコラー!」そこへシャークザが飛び掛かる!
「イヤーッ!」「グワーッ!」アンモナイトは鋭いハイキックでシャークザの顎を蹴り上げる!「GRRRッオラー!」しかしシャークザは砕け散った歯をタンのように吐き捨て、即座に牙を再生させてアンモナイトに噛み付き攻撃を繰り出す!
「これは……実際侮れぬ耐久力。バイオ改造による恩恵か?」アンモナイトはシャークザの噛み付きをブリッジ回避!「そしてこのサメのそれに類似する歯列……!あくまで人類の領域を出ないクローンヤクザの咬合力でどこまでの殺傷力が望めるのか?」アンモナイトはシャークザの連続噛み付きをスウェー回避!
「拳銃を所持したクローンヤクザを用いての一斉射撃、これによる面制圧によって逃げ場を無くすという対ニンジャ戦闘におけるベーシック・メソッドを放棄してまで用いるべき攻撃手段と言えるのか?そうでないのならこれはただの自制心の欠如、知的好奇心の暴走でしかない……!」
「ブツブツうるせえぞテメエ!」アンモナイトと入れ替わるようにハイドラが生き残りシャークザ目掛け突貫する!「イヤーッ!」「グワーッ!」水平チョップでシャークザの首を狩って殺す!「GRRRR!」後ろから飛びついてきたシャークザに肩を噛まれる!「イヤーッ!」「グワーッ!」だがそれも意に介さず!振り向きざまの鋭いチョップでシャークザの首を切断!
◇1ターン目
サルーテ射撃:
10d6>=4 = (3,1,1,6,5,1,5,3,3,6 :成功数:4)
+10d6>=4 = (4,2,6,6,1,2,3,5,2,6 :成功数:5)ヘッドショット×2!
サメヤクザ×2死亡!
サワタリ近接攻撃:
5d6>=4 = (1,3,5,6,3 :成功数:2)
+5d6>=4 = (3,5,3,1,2 :成功数:1)
サメヤクザ死亡!
アンモナイト近接攻撃:
3d6>=4 = (3,6,4 :成功数:2)
サメヤクザ体力1
ハイドラ近接攻撃:
9d6>=4 = (2,6,2,2,1,5,4,5,3 :成功数:4)
サメヤクザ死亡!
戦闘終了
【万札:4】GET
「全然大したことねえな!」ハイドラは腕に付いたシャークザの血を振り払い、鼻を鳴らした。シャークザに噛み付かれた肩の傷は既に再生している。この異常再生能力こそハイドラの強みなのだ。「よくやったお前たち。だが気を抜くな。敵の分隊長の姿が何処にも見えん」サワタリはタケヤリを前後左右に素早く向けながら注意を促す。
「分隊長?……トガリ=サンとやらのことかね。確かに何処にもいないようだが……まさかもうアンモナイト琥珀が奪われてしまったのでは!?」「いや、それなら護衛の部隊と離れる訳がない。ベトコンに襲われる危険性があるだろう」「実際我々が琥珀を求めているからな。しかしそうすると彼はひとりで何処に……?」
アンモナイト、サワタリ、イセが話し合いをしている横で、サルーテはシャークザたちの死体をサイバネアイの瞳で観察していた。『クローンヤクザY-14型』『遺伝子に異変』『バイオ手術痕跡無し』『ウイルスな?』流れる文字をサルーテの脳内UNIXが淡々と処理する。シャークザから流れ出る緑色の血液が赤く酸化していき、サングラスに冷気で少しずつ霜が張り付いていく。
『同ウイルス検知』その時、サルーテの視界の隅に警告メッセージが流れる。サルーテはほとんど反射的にその方向へLAN直結銃の銃口を向けた。ハイドラ。両手で頭を抱えるようにして地べたに蹲っている。「おい、何をしている?」サワタリたちもハイドラの様子に気が付く。
「大将……俺、なんか変だ」「どうした?やはり寒いのか?」サワタリがハイドラに駆け寄り、肩に手をかける。「腹が……減ってるのかも……」「バイオインゴットか?少し待て」サワタリは荷物の中からインゴットを取り出し、ハイドラに差し出す。だが、ハイドラは受け取ろうとしない。「インゴットじゃなくてよ……腹が減って……」
「……ハイドラ、これ以上の作戦行動は不可能と判断する」サワタリは迷うことなく決断を下した。「なんだと!?ちょっと待てサワタリ=サン!約束が違う!アンモナイト琥珀はどうする!」「そうだぞ!まだ私が何も手に入れて……とにかく駄目だ!許さん!」アンモナイト、イセの2人から抗議の声が上がるが、サワタリの決心は変わらなかった。
「我々サヴァイヴァー・ドージョーの至上目的はサヴァイヴすること。そこに歴史的ロマンや金銭的価値を求めてはおらん。ハイドラの症状は何が理由か分からんが、とにかくここは一度撤退して……」「……大将、ちょっといいか?」ハイドラがサワタリの後ろに回り、その背を掴んだ。位置取りが悪く、サルーテは引き金を引けなかった。
「GRRRRR!」「グワーッ!?」ハイドラがサワタリの肩に噛み付き、赤い鮮血があたりに飛び散る。「なにを……ハイドラ!?」「見ろ!そいつの口元を!」イセが叫び、サワタリは強引にハイドラの口を肩から引き剥がす。「馬鹿な……!」サワタリは驚愕と苦悶の声を上げる。
「GRRRRR!腹が減って仕方ねえ……!」おお、ナムアミダブツ。ハイドラの口元が……そこから生える牙が……先程のシャークザたちと同じ、サメめいた牙になっているではないか!「イセ=サン!これはどういうことだ!」「私にも分からん!元からそいつはそういう生態ではないのか!?」「違う!こんなことは今まで一度も……!」
「もしや……先程のサメヤクザに噛まれたことが原因では?」アンモナイトの呟きにイセが反応する。「何らかの未知のウイルス……?感染者の正気を奪い、歯をサメのような牙にする……成程、それならばクローンヤクザに接近戦を行わせる理由になる。QEDだ」「先程そこのハイドラ=サンはサメヤクザに噛まれていた。その際に感染したと考えるのが自然か」
高い知能指数を持つ2人はこの状況をそのように推測した。だが待て。彼らの推測が正しいと仮定したならば……!「GRRRR……!」おお、ナムサン。フォレスト・サワタリは歯を食いしばったオニめいた形相でサルーテ、イセ、アンモナイトを見た。その歯はやはりサメめいた牙に……!
サルーテは銃を仕舞い、素早く取り出したスタン・グレネードを地面に向けて投擲!「「グワーッ!?」」閃光と爆音でサワタリとハイドラが怯み、一瞬の隙が生まれる!サルーテはイセを米俵めいて抱えその場から走り去る!「おい待て!私を置いていかないでくれ!」アンモナイトがそれに続く!
◇◇◇
「ゼー……ゼー……フゥー……どうにか……撒くことが出来たようだな……」ニンジャの速度で5分ほど全力疾走した後、アンモナイトは膝に手をついて肩で息をした。後ろを振り向いてもサワタリとハイドラの姿は見当たらず、追ってきている気配も無い。冷気による視界の悪さと迷宮めいた冷凍庫の構造が彼らに味方した形だ。
サワタリのニンジャ野伏力を持ってすれば多少距離を取っても簡単に補足されてしまうだろうが、今のサワタリはウイルスによって本能に支配されている。故に彼が持つ本来のニンジャ野伏力を十全に発揮出来ていないことはサルーテたちにとって不幸中の幸いであった。
「それで……君はどうするのかね?仲間のニンジャがあんな目に遭っておるが」アンモナイトは恐る恐るサルーテに尋ねた。現在、サルーテが選びうる選択肢は3つだ。
(③は限りなく可能性が低い。①の場合、私が彼に協力するか、それとも別れるかを選ぶ必要がある。②の場合では私は協力者を失うことになるが、横取りの危険性も考えると最もリスクが少ないか?とにかく彼がどの選択をするのか、慎重に見極めなくては……!)
アンモナイトはニューロンをフル加速させ、サルーテの回答を待つ。彼の表情は窺い知れない。やがて、重サイバネニンジャの右手がゆっくりと持ち上げられる。アンモナイトはフルメンポの下で額に汗を流し、固唾を飲んだ。……その時である。
「おい待て……これだ!アンモナイト琥珀がある保管庫!間違いない!」風めいた速度で運搬されて疲労困憊していたイセが今いる場所こそが目的地であったことに気付き、疲れも忘れて声を弾ませた。「なに!本当か!」イセの言葉に興奮したアンモナイトはサルーテを突き飛ばし、イセが指し示すオブツダンめいた保管庫にしがみついた。
「ついに、ついに見つけたぞ!この中に念願のアンモナイト琥珀が!」「おいそこを退け!早く鍵を開けて目当ての物を手に入れたらここを脱出するんだ!」まるで先程のサワタリとハイドラの如き食い付きようである。サルーテは騒ぎ立てる2人の背中をただ眺めている。その表情は窺い知れない。……だがその時。「探し物はこれですか?」
その声はアンモナイトたちが夢中になっている保管庫の奥から響いた。「なんだ!?」「誰!?」2人は反射的に飛び下がり、身構えた。「久しぶりですね……イセ=サン」「……え?」何者かに名前を呼ばれたイセは眉を寄せる。保管庫の陰から姿を現した男の姿を見て、彼女は更に表情を歪ませた。
極寒の冷凍庫内だというのに、防寒具の前を開いて『サメが大好き』の文字がプリントアウトされたTシャツをこれ見よがしに晒す爽やかな青年。イセは彼のことをよく知っていた。そして彼もイセのことを知っていた。
「トガリ=サン……」「ドーモォ……イセ=サン」トガリと呼ばれた男は歯を剥き出しにして笑い、アイサツした。その歯は、サワタリやハイドラ、シャークザたちのように、サメ類のそれだった。