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忍殺TRPG小説風リプレイ【アズ・ザ・クロウ・アンド・ドラゴン・フライズ(その6)】


◆アイサツ

 ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPG公式サンプルシナリオのマップを利用した小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。

 こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。

それではやっていきたいと思います!

◆本編

 時刻は既に夜更け過ぎ。地下であるアンダーガイオンには太陽も月も無いが、人々は地上と同じ時間の流れで生活しているらしく、皆寝静まっている。だがガンドー探偵事務所のカンバンには灯りが燈っており、人の気配が感じられた。「ゴメンクダサイ……」ドラゴンチックは控えめにドアをノックする。返事は無い。

「……ゴメンクダサイ!」ドラゴンチックは声のボリュームを上げる。「ドーゾ!入ってくれ」すると、扉の奥から男の声が返ってきた。「シツレイします……」ドラゴンチックはそっとドアを開ける。軋んだ音が鳴り響き、ドラゴンチックは慌てて中に入る。

 そこはお世辞にも清潔感を感じられるような内装ではなかった。応接用と思しき机とソファの周りはともかく、事務机の上にはUNIXと書類と灰皿とコーヒーカップとZBRドリンクの瓶が今にも零れ落ちそうなほどのバランスで並び、足元に気を付けなければ床に直置きされたレコードや基盤を踏みつけてしまいそうだ。

「すまねえな。ちょっと奥の方で作業を……オイオイオイ」部屋の奥から姿を現したのは、身長190センチはあろうかという大男であった。身体つきから判断するとまだ壮年と言える年齢であろうが、短く刈り込まれた頭髪はZBR中毒によるものか、老人のような白に染まっており、実年齢が判然としない。

 男はブレイズを背負ったドラゴンチックを見るとガシガシと頭を掻き、吸っていたZBR煙草を灰皿に押し付けて消した。「アー、シツレイした。汚い所で悪いが、とりあえず適当に座れるところに座ってくれ」ドラゴンチックは男の親しみやすさのある態度の中に、僅かな警戒心を感じ取った。

「ドーモ、ハジメマシテ。ドラゴンチックです。こっちの娘はブレイズ=サン……あなたは?」「ドラゴンチック?ブレイズ?……ああいや、こっちもアイサツしなくちゃな」ブレイズをソファに寝かせたドラゴンチックに、男は右手を差し出す。「ドーモ、タカギ・ガンドーです」

◆タカギ・ガンドー (種別:モータル) 
カラテ    5  体力   8
ニューロン  3  精神力  4
ワザマエ   4  脚力   3
ジツ     -  万札   5

攻撃/射撃/機先/電脳  5/6/4/5
回避/精密/側転/発動  5/5/-/-
緊急回避ダイス:3

◇装備や特記事項
 探偵服(交渉判定+1)、49マグナムx2
 探偵手帳(レリック枠装備。知識スキルにのみ使用できる追加の記憶スロット+4を得る)
 ▶︎生体LAN端子Lv1、 ▶︎サイバネアイLv1、▷強化頭蓋(体力+1)

 『◉頑強なる肉体』、『◉不屈の精神』
 『◉◉タツジン:マグナム・ピストルカラテ』 

 『◉知識:ストリートの流儀』、『◉知識:銃器(リボルバー拳銃)』、
 『◉知識:スポーツ(オスモウ)』、 『◉知識:ドラッグ(ZBR)』、 『◉知識:応急手当』、
 『◉知識:犯罪(犯罪者心理)』、『◉知識:キョート共和国(ガイオン)』、
 『◉交渉:駆け引き』、 『◉交渉:共感』 、『◉交渉:欺き』、『◉交渉:鼓舞』

主な攻撃パターン
◆49リボルバー2挺拳銃射撃: 【ワザマエ】による射撃:
    2ダメージ、ワザマエ:HARD、連射2、マルチ可、時間差可、装備時ペナルティ無視
    射撃の終了後、隣接している敵1体に対して猛スピードの反動回し蹴りを繰り出し、
    自動的に1ダメージと『弾き飛ばし』の効果を与える(『回避:HARD』)。

◆ピストルカラテ正拳突き: 【カラテ】による近接攻撃:
   1ダメージ、カラテ:HARD、連続攻撃2
   出目【6】成功時には基礎ダメージ2となる。

 ドラゴンチックはガンドーの右手を掴み、シェイクハンドを行う。おそらくは何かしらのカラテを嗜んでいるのであろう。硬く、大きな手だ。ドラゴンチックはその感触にこの男の人柄の良さと、歩んできた人生の壮絶さを垣間見た。

「それで?初対面の筈だが、誰の紹介でここに来た?嬢ちゃん」ドラゴンチックとガンドーは応接室のチャブを挟んで向かい合う。ガンドーは自分用のソファに腰かけ、小刻みに貧乏ゆすりした。急な訪問に苛立っている訳ではなく、ZBR煙草を吸うのを遠慮しているためだ。彼は深刻なZBR中毒なのである。

「紹介……」ドラゴンチックは言葉に詰まる。ここに来たのはアラクニッドの占いにより決めたことだが、それを正直に話していいものか。

「すまんが、俺は誰かの紹介が無いと仕事は受けないことにしてるんだ。……何か事情があることは察するが」ガンドーはソファで寝ているブレイズを見ながら申し訳なさそうに言った。ブレイズは身じろぎ一つせず、寝息もまるで立てていない。だが、死んではいない。曖昧な状態だ。

「……分かりました。今から説明します」ドラゴンチックは決心した。もとより他に選択肢など無いのだ。それよりもここで黙秘をしたり、その場しのぎの嘘をついたりして、ガンドーからの信用を失うことの方が問題だと判断した。

「私たちはある組織に追われてここに来ました。組織の名前は……ザイバツ・シャドーギルド。この事務所を教えてくれたのは、ザイバツにいるあたしの仲間です」「ブッダ!ザイバツだと?」ガンドーは驚愕の声を上げた。

ガンドー知識判定◉知識:キョート共和国(ガイオン)+1: 
5d6>=5 = (2,2,5,2,3 :成功数:1)

「一体何をやらかしたんだ。俺はそこまで詳しくはないが、ザイバツってのは相当にヤバイ組織だぜ」ガンドーはやおら立ち上がり、落ち着きを無くした犬のようにぐるぐると部屋の中を回り始めた。そしてとうとう我慢が出来なくなったのか、ドラゴンチックに断りを入れてからZBR煙草に火を点ける。

 ガンドーは個人的な事情からザイバツについての捜査を進めており、それゆえにギルドの危険性についてもおおよそ察知していた。だが、どういう訳か組織の核心に迫る情報だけが不自然なまでに見えてこないのだ。ガンドーが慎重に行動しているため、というだけでは説明が出来ぬほどに。

 ……実際それはロード・オブ・ザイバツが行使するキョジツテンカンホー・ジツの効果によるものであった。キョート・ネオサイタマ全域に展開する超自然の力によってニンジャ真実が遠ざけられ、ガンドーのようなモータルたちは闇の中で暗躍する存在に気が付いたとしても、無意識のうちにそれらを忘却してしまうのだ。

 ゆえに、ガンドーにとってこのドラゴンチックという少女は厄介事を持ち込んできた迷惑な客であり……同時に自分の知らないザイバツの情報を持っているかもしれない相手でもある。(オイオイ、何考えてやがる。こんな女の子相手に)ガンドーは首を振って探偵としての知的探求心と嗅覚に蓋をする。

「嬢ちゃん、俺に何をしてほしいのか分からんが、今回の件は正直なところ俺の手に余る。そっちの、ブレイズ=サン、だったか。彼女の安全を確保してほしい、って話なら出来る限りの協力はしてやりたいが……」「ゴメンナサイ、ちょっと待って」ドラゴンチックは右手を前に出し、マッタをかける。「もういくつか説明しておきたいことがあります」

 ドラゴンチックは前に出した右手の指を一本立て「ザイバツのヤバさはあたしも知ってます。あいつらはニンジャですから」「………オイオイ」ガンドーの口の端から息が漏れる。失笑ではない。言葉の意味をニューロンが受け入れられていないのだ。「それともう一つ」ドラゴンチックは指をもう一本立てる。「あたしと、こっちのブレイズ=サンもニンジャです」

「オイオイオイ、勘弁してくれよ……」ガンドーは顔を両手で覆い、俯いた。冗談ならば質が悪いし、シリアスならばなお悪い。ガンドーの脳裏に師であるクルゼ・ケンの教えがよぎった。「……一応聞くが、それを証明できるものは?」悪あがきめいた質問が口から出る。

 ドラゴンチックは部屋の中をきょろきょろと見回すと、目当てのものを見つけ、無言でソファから立ち上がる。彼女はそのまま部屋の角へと歩いていき、そこに置いてあったカラテトレーニング用の木人の前で足を止めた。「オイオイオイオイ……」ガンドーは後ずさって距離を取る。

「イヤーッ!」

ドラゴンチックカラテ交渉判定『◉交渉:超然』+1: 
15d6>=5 = (4,3,3,3,6,3,4,2,3,6,4,1,3,5,2 :成功数:3) 合計値:3

 バウウウウム!鋭いシャウトと打擲音がガンドーの鼓膜を震わせた。右手に持っていた煙草の灰が崩れ落ち、床の上に散らばる。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ドラゴンチックがチョップやキックを振るうたびに頑丈な木人が悲鳴めいた軋みを上げ、空気が陽炎めいて揺れた。ガンドーは開いたままの口を手で塞ぐ。

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!……スゥーッ、ハァーッ」一通りのカラテ演武を終えたドラゴンチックはザンシンを行い、ガンドーの方へ向き直る。その服はいつの間にか瓦色のチャイナドレスめいたニンジャ装束へ変わっていた。「これで信じてもらえますか?」「……ブッダ」ガンドーはハンズアップした。

 ……「お嬢ちゃんがニンジャだっていうのは、まあ理解した」ガンドーはグラスに注いだZBR割ウィスキーを飲み干し、ニューロンを落ち着かせた。ZBR成分が脳内を駆け巡り、UNIXのデフラグ作業めいて既存の情報と新たな情報が繋がっていく。

「それで、結局俺に何を頼みたいんだ?多少はカラテを齧っちゃいるが、ニンジャ同士のイクサじゃ足手纏いにしかなれないぜ?」ドラゴンチックは差し出されたコーヒーを一口啜り、カップをテーブルに置くと本題を切り出した。

「カラテが必要な場面になったら、あたしがなんとかします。ガンドー=サンにお願いしたいことは、ネオサイタマまで辿り着くまでの案内です」「ネオサイタマ?もしかしてお嬢ちゃん、ネオサイタマの出身か?」ガンドーの問いにドラゴンチックはこくりと頷く。

「成程、そういうことか」このキョート共和国は言うなればザイバツの庭だ。その支配力の届きにくいネオサイタマまで逃げたいのは山々だが、敵はそれすらも許すまい。そのために私立探偵であるガンドーの助力が欲しいということなのであろうが……

ドラゴンチック交渉判定『◉交渉:超然』+1:
10d6>=5 = (6,1,3,1,3,6,5,3,4,3 :成功数:3)
ガンドー交渉判定◉交渉:共感+1: 
5d6>=4 = (6,5,4,6,4 :成功数:5)

ガンドー勝利、だが……?

「しかしなあ……国境を越えるとなると偽造パスポートやらチケットやらが人数分必要になってくるわけで、先立つものがねえと……」ガンドーは困ったように頭を掻いた。依頼料金を吹っ掛けるための交渉ではなく、正真正銘手持ちの資金が頭の中で計算した必要額に足りないのだ。

 ドン。その時、目の前のテーブルから鈍い音がした。ドラゴンチックがチャブの上に紙の束を叩きつけるように置いた音だった。ガンドーが目線だけを向ける。万札だ。カネの束だ。「……ア?」ガンドーは思わず手に持ったグラスを落としそうになった。

「あげる。【万札:50】」ドラゴンチックはあっさりとそう言った。カネの重みによって生まれた風圧が机上の品々を吹き飛ばし、玉座に座る王のように強大な存在感をアピールしている。

ガンドー交渉判定◉交渉:駆け引き+1: 
5d6>=4 = (5,5,3,3,2 :成功数:2)
ドラゴンチック交渉判定『◉交渉:超然』+1 カネの力でNormal: 
10d6>=4 = (3,6,6,4,1,5,6,3,6,1 :成功数:6)
ドラゴンチック勝利

「……ハッハー!カネ払いがいい客は上客だ!いいぜ!俺に任せておきな!」ZBR成分が良い具合にニューロンに回ってきたガンドーは目の前の大金を見てテンションを一気にブチ上げた。これがマネーパワーである。

ドラゴンチック【万札:50】使用

「それじゃあ、改めてよろしく頼むぜドラゴンチック=サン。すぐに手配を済ませるからよ」ガンドーは万札の束を両手で受け取ると奥の電脳部屋に向かおうとした。「すみません、ちょっと」「ン?」背中にかけられた依頼主の声に足を止める。「UNIXがあるなら、連絡を取ってほしい人がいるんです」

アズ・ザ・クロウ・アンド・ドラゴン・フライズ(その7)へ続く