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忍殺TRPG小説風リプレイ【アズ・ザ・クロウ・アンド・ドラゴン・フライズ(その7)】
◆アイサツ
ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPG公式サンプルシナリオのマップを利用した小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。
こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。
それではやっていきたいと思います!
◆本編
「それじゃあ、改めてよろしく頼むぜドラゴンチック=サン。すぐに手配を済ませるからよ」ガンドーは万札の束を両手で受け取ると奥の電脳部屋に向かおうとした。「すみません、ちょっと」「ン?」背中にかけられた依頼主の声に足を止める。「UNIXがあるなら、連絡を取ってほしい人がいるんです」
◆◆◆
※ドラゴンチックの体力と精神力は全回復する
◆◆◆
翌日、ガイオン・ステーション。
『ヨリトモ&ベンケイレールウェイ社からご案内ドスエ。ネオサイタマ行きNS810便は定刻通りの発車ドスエ。ご利用のお客様はパスポートとチケットのご用意をお願いしますドスエ』
雅な笙リードのBGMが流れる待合室の中、スピーカーから聞こえてきたマイコ音声にドラゴンチックは顔を上げる。彼女は売店で購入したヤツハシを急いで食べ終え、隣で新聞を読んでいたガンドーのコートの袖を軽く引っ張った。「オット、時間か」ガンドーは温くなった缶コーヒーをイッキし、空き缶を備え付けのゴミ箱に投げ入れた。
2人はそのまま待合室を出て、雑踏の中を掻き分けながら指定のプラットホームへ向かう。「追手を撒くためにいくつかダミーのチケットを買った。飛行機と、新幹線の両方でな」その途中、ガンドーが小声で説明を行う。
「本当なら優雅な空の旅と洒落込みたかったが、空路はうまくない」「どうして?」「便数の問題と、万が一の時に空の上だと何処にも逃げ場が無いからな。色々考えると、新幹線のマケグミクラスがベターってことになる」
「マケグミクラスか……」ガンドーの言葉にドラゴンチックは表情を分かりやすく沈ませた。ヨリトモ&ベンケイ社のマケグミクラスには座席が無い。乗客はキョートからネオサイタマまでノンストップで走る列車の中、天井から垂れる吊り革だけを頼りに立ち続けていなくてはならないのだ。
「お金ならあるよ。それにYCNAN=サンが前金を振り込んでくれたんじゃないの?」「ああ、あれか」ドラゴンチックの言葉に、ガンドーは先日の事務所でのやり取りを思い出していた。
◇◇◇
「それじゃあ、改めてよろしく頼むぜドラゴンチック=サン。すぐに手配を済ませるからよ」ガンドーは万札の束を両手で受け取ると奥の電脳部屋に向かおうとした。「すみません、ちょっと」「ン?」背中にかけられた依頼主の声に足を止める。「UNIXがあるなら、連絡を取ってほしい人がいるんです」
「そりゃ別に構わないが……相手は誰だ?」「ネオサイタマに居る仲間です。頼りになるハッカーの人で」「ハッカーね……そいつの名前は?」ガンドーは抜け目なく尋ねる。自分の事務所のUNIXにハッカーがアクセスしてくるというのはリスクを伴うからだ。
「確か、YCNANと名乗ってました」「ブッダ!YCNANだと!?あの伝説のヤバイ級ハッカーの!?」ガンドーの反応は劇的であった。電脳世界においてYCNAN……ナンシー・リーの名前は伝説として語り継がれているのだ。
ガンドーは頭の中でリスクとメリットを天秤にかけ、最終的にUNIXの使用許可を出した。ドラゴンチックとYCNANとの繋がりが真実であれば、ここで断ったとしても自分のIPなど容易く割り出せるであろう。それに伝説とまで言われたハッカーの人柄に興味もあった。
ガンドーはタノシイハッキング・キーボードをタイプし、IRC上に極秘チャンネルを開く。そのタイプ速度は薬物とサイバネによってブーストされ、スゴイ級ハッカーにも匹敵する。
「シツレイ」ドラゴンチックが横から割って入り、自分自身のハンドルIDでチャンネル内にログインする。どこか拙い動作ながらそのタイプ速度はガンドーのそれより更にハヤイ。ニンジャだからだ。
# NS_GOKUHI :hina: 通じてますか?
# NS_GOKUHI :njslyr: 何故そこに居る?何が起きた?
# NS_GOKUHI :hina:友人を助けに行っていました。
# NS_GOKUHI :ycnan: 移動速度の計算が合わない。
# NS_GOKUHI :hina: ニンジャなので。
# NS_GOKUHI :njslyr: 友人とは?
# NS_GOKUHI :hina: 後で話します。信頼できます。
# NS_GOKUHI :ycnan: 合流はどうする?
# NS_GOKUHI :hina: 探偵に協力してもらいます。キョートからの脱出資金、探偵への依頼費用立て替え願います。
# NS_GOKUHI :ycnan: 送金
# NS_GOKUHI :hina: とてもハヤイ感謝 :D。すぐに行動します。そちらは事前の打ち合わせ通りに。
# NS_GOKUHI :njslyr: 了解した。
キャバァーン!事務所の口座管理UNIXが電子音を鳴らし、設置された大型赤色LEDの桁数が跳ね上がった。「オイオイオイ!マジかこりゃあ!」いまだかつて表示されたことの無い金額にガンドーは目を見開く。「わ、ホントにスゴイ……」ドラゴンチックもナンシーの仕事の速さとあまりの額の大きさに呆然と呟いた。ナンシーのタイプ速度はガンドーよりも、ニンジャであるドラゴンチックよりも遥か高みにあるのだ。
◇◇◇
「まあ、人には領分ってもんがあるワケだ」ガンドーは懐から取り出したZBRガムを噛み始める。「ダイミョクラスやカチグミクラスはセキュリティもしっかりしてるが、ザイバツ相手にはザルだろう。ならいっそマケグミクラスの一般客に紛れた方がバレにくい」「そっか」探偵であるガンドーが言うのならばそうなのだろう。ドラゴンチックは彼を信じてそれ以上何も言わないことにした。
『間もなくNS810便が到着ドスエ。黄色い線の外側に出ると炎上柵で危険ですので自己責任で……』ギゴンギゴンギゴン……マイコ音声の案内と共に、75両以上にも及ぶ長大な新幹線の車体がプラットホームへとやって来る。先頭の機関車両、サイバー司令車両、ダイミョクラス、カチグミクラス、貨物室の順にドラゴンチックたちの前を通り過ぎ、徐々に車両の速度が落ちていく。
やがて、ドラゴンチックたちの並ぶ列の前にマケグミクラスの車両がゆっくりと停止する。ゴウン!ゴウン!「ハァーッ!」「ハァーッ!」駆け込み乗車防止用の火柱が上がり、作業員スモトリたちが手作業で新幹線の窓をモップ掛けする。
「どけッコラー!」「アイエエエ!」「ちょっとやめないか!」その時、ドラゴンチックたちの後ろに並んでいたモヒカン頭のヨタモノが人ごみを無理やり掻き分け、列の前の方へと強引に進んでいく。「邪魔だオラー!」ドラゴンチックは運んでいた大型のスーツケースをヨタモノに蹴り飛ばされないよう素早く動かした。
このスーツケースの中ではエーリアス……あるいはブレイズが眠っている。結局、彼女はガンドーの探偵事務所で寝かせてからも一向に目を覚ますことなく、今もなお眠ったままだ。こうしてケースの中に押し込めることに抵抗が無いではなかったが、安全のためにはドラゴンチックのすぐ傍に置いておけるこの方法が最善だと判断された。
「アバーッ!」前方で先程のモヒカン頭の悲鳴が上がる。強引な割込みによって炎上柵に突っ込んだのだ。「ドッソイ!」「ドッソイ!」「アバーッ!」作業員スモトリたちがモヒカンの焼死体を手早く片付ける。乗車の邪魔になるからだ。『残りのお客様、ゲートが開きましたので、10分以内の乗車に御協力ドスエ……』マイコ音声が無感情に告げる。
ドラゴンチックが周囲の乗客の顔を見回してみれば、不安と期待、焦燥と悲哀、そして虚無の表情が並ぶ。「さて、それじゃあ行くか。トイレは済ませたかい、お嬢ちゃん」「大丈夫だってば」ガンドーがドラゴンチックの緊張を察したようにタフに笑い、ジョークを飛ばした。ドラゴンチックは拗ねたように返事をした後、くすりと笑う。
その時、ドラゴンチックの目にガンドーが脇に挟んだ新聞の見出しが映る。そこに書かれた『怪事件!キョート中央裁判所での大量死!ゴトー・ボリス被告の死刑判決、失踪と関係が?』という文面が、無性に不吉な予感を感じさせた。
◇◇◇
ドラゴンチックたちの並ぶ列から数百メートル離れた地点。『免税な』のカンバンが掲げられた売店の屋根の上に、マケグミクラスの乗客を乗せ終え、いよいよ動き始めたNS810便をじっと見る一つの影。
影はロングコート状のニンジャ装束に身を包み、顔の上半分をハーフハンニャ・オメーンで隠している。「ヘェーヘェーヘェー……」その人物は露出した口から狂気的な笑みを零し、手に持ったリボルバーを弄んだ。「どこに行ったんだ探偵?……いや、分かるぞ。俺は知能指数が高いからな……」そう言って影は一瞬でその姿を消した。
「アレ?」NS810便の点検作業を行っていた車掌は、本来ならば閉じていなくてはならない新幹線最後尾の扉がいつの間にか開いていたことに気が付いたが、責任を取ってケジメをするのが嫌なので、誰にも報告をしないまま扉を閉じた。
◇◇◇
ドラゴンチックたちが乗り込んだ車両の遥か前方、ダイミョクラス席。この車両の快適性はマケグミクラスのそれとは比較にならぬ。ゆったりとしたソファに、テーブルの上にはオーガニック・スシとサケ。広々とした畳には高級フートンが敷かれ、スピーカーからは雅なオコトのBGM。その他にも壁に埋め込まれたIRC端末で注文すれば各種様々なサービスを受けることが出来る。
しかし、今回このダイミョクラスに乗り込んだ者たちがそれらのラグジュアリーを堪能することは無いだろう。何故ならば、彼らは壮絶なる任務のためにこの新幹線に乗り込んだのだから。「確認するぞ」利用者三人のうち、一人の男が『指令な』と書かれたマキモノをテーブル上に開く。
「ジャイアントマンティス=サンとそのアプレンティスのジェイドソード=サンを殺害した下手人がこのNS810便に逃げ込んだ可能性あり。ただちに調査し、対象を発見した場合、これを討つべし……」「許せない!」指令内容を聞いていた別の男が怒りに任せてテーブルをドンと叩いた。サケの瓶が揺れ動き、隣に座っていたもう一人の女が顔を顰める。
「彼らは良き師であり、良き弟子であったのに……!どれだけ無念であったことか!ククーッ!」「その下手人いうんは、例のニュースの、ええと、ゴ……なんとか=サンですやろ」泣き始めた男を無視し、女が確認した。
「この列車に乗り込んだいうことは、ネオサイタマ旅行でもするんですかいな」
「さあな。どちらにせよギルドのニンジャを殺した相手をそのまま見逃すわけにはいかん」最初の男は指令内容の書かれたマキモノを仕舞い、赤漆塗りの鞘からカタナを抜いた。
「手短に済ませるぞ。またネオサイタマくんだりまで行きたくはないからな」「了解しました!ジャイアントマンティス=サンたちの仇を討ちましょう!」「昔のヒキャクもネオサイタマからキョートまで走ったいいますからなあ。それが今は座ったままで行けるんやから、ありがたいですな」「……」次の瞬間、三人はその姿を消した。
「アイエッ!?」セッタイのためにオイランドロイドを伴って訪れたマネージャーが誰も居ないダイミョクラス席を見て困惑し、どうすればいいのか分からず頭を掻きむしった。しばらくして、何か余計な事をしてセプクさせられるのは嫌だと思ったマネージャーは、オイランドロイドたちを置いて逃げるように司令室へと戻った。
◇◇◇
「異常なーし、異常なーし」ドラゴンチックたちが乗り込んだ車両のやや前方、コンテナやケースを満載した薄暗い荷物車両内を鉄道警備員が指差し点検していた。警備員は味のしなくなったZBRガムを吐き出すと、近場にあった適当なコンテナにへばり付け、新しいガムを噛み始める。
その時だ。ゴトゴト、ゴトゴト。「アン?」ガムをへばり付けたコンテナから何か音が聞こえてくる。「クッチャクッチャ、めんどくせえ。カチグミのペットか?」警備員は以前、カチグミ一家のペットが入ったキャリーが他の荷物に圧し潰された事故を思い出していた。
その事故で前任の警備員は責任を取らされセプクし、上司2人がケジメをする騒ぎになった。同じ事故が起きれば自分もセプクすることになるだろう。「めんどくせえ、めんどくせえ」警備員はコンテナを乱暴に蹴り、他の荷物から遠ざけようとする。
だが次の瞬間!DOOOOM!「アイエッ!?」コンテナの蓋の隙間から黒いヘドロめいた物質が溢れ出し、意思を持っているかのような動きで警備員の身体に纏わりついた!「アイエエエエ!?」警備員は持っていた警棒でヘドロを払おうとするが、スライムめいた暗黒物質は振りほどけない!
「アイエエエエ!アイエエエエ!オゴッ!」暗黒物質はそのまま警備員の口元を覆い、叫び声が上げられないようにしてしまった。「オゴーッ!オゴーッ!」「へへへへ、ウルセェよ。寝れねえだろ?」コンテナの蓋が暗黒物質によって持ち上げられ、内側から開く。中から出てきたのは、病的に白い肌の痩せた男。
「オゴゴゴアババーーッ!?」男が警備員に手を向け、拳を握る動作をする。するとその動きに連動するように暗黒物質は警備員の身体を覆い尽し、潰し、そのまま飲み込んでしまった。「臭う、臭うなァー、へへへへへ」男は下品に笑い、鼻をクンクンと鳴らす仕草をした。
「カビ臭えキョートの臭いじゃなくて、これがネオサイタマの臭いなのか?へへへへへ。楽しみだなあ?新幹線、ネオサイタマ旅行……へへへへ」聞いた者の精神を蝕むような笑い声が荷物車両に響く。男が再びコンテナの中に身を横たえると、それに続く様に暗黒物質がスルスルと動き、蓋を閉じた。
「おや?」いつまでも戻ってこない同僚を不審に思った警備員が荷物車両内を見て回る途中、コンテナにへばりついたガムを発見した。「ったく、あのバカ。どっかでサボってやがるな……」警備員はガムを剥がすべきか迷ったが、万が一荷物に傷を付けて責任を取らされるのが嫌なので、何か起きたら同僚のせいにしようと考えながら荷物車両を後にした。
アズ・ザ・クロウ・アンド・ドラゴン・フライズ(その8)へ続く