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2020年クロの日※前日

 明日はクロの日です。一日早いですがクロについて何か書きます。

 つい先週、名前ネタの話を出しました。意外とちゃんと話していないような気がしているんですが(どこかで話していたらすみません)、クロが黒ではなくクロという表記なのは、本当は本物ではないという彼の背景を意識した表記です。笹波白が先行して存在(先行して、という言い方もおかしな気がしますが)して、後天的に生まれたのがクロという人格になります。ラナやアランといった現実でいう欧米系と、圭や真弥といった現実でいう日本系と、アーレイスと李国でもともと二国の人種が混ざっているので比較的違和感はないように思われるのですが。ポケモン小説でありポケモンに固有名をつけていないので自然とポケモンもカタカナ表記になりますし、対となるラナももちろんカタカナですし。圭が登場するまではアーレイス系の名前しか出ていませんでした。圭が登場し、圭を圭と表記し、その後も真弥であったり枷場であったり、ちょいちょいと李国系の人間は出てくるほど黒をクロと表記している特殊性が滲むんですが、もはやその頃にはクロがクロとして定着していたので、どれほどそれが気にされていたのかは今や不明です。作者の自己満足の領域。
 白が表舞台に現れた時、シロではなく白と表記したのは、笹波白がもともとの、本当の名前、本当の人格、ということを示すものでした。
 余談ですが(まだnoteでは出していないけれど)漫画学パロ版での藤波黒がクロではなく黒表記なのは、彼が藤波黒として独立した存在であるからで、あの世界線では逆に白がいないんですね。あの学パロは自分でも気に入っているのですが、白がいない世界というのは、もともとのクロの存在意義から考えるとものすごくおかしなことで、まさにパロディだな、としみじみ思うのです。
 本編のクロという存在の肝は、白の裏側に存在しているということであり、それを本人が自覚していたということがひとつ挙げられるように思います。
 笹波白は死んだ、と彼は言う。
 圭が疑問にしていたんですが、死んだ、と言った、彼の思いは一体なんだったのでしょうか。


「生きているかも、死んでいるかも分からない。けど、探さなきゃいけないんだ」(Page 31より)
 今まで何人も何匹も殺してきた汚れた身だ。こんなことでは傷つかなかったはずだ。一切を手放し身ひとつになっていたはずなのに、大事なものを手に入れすぎてしまっていた。なにもかもいらなかった。求めてはいけなかった。重ねたところで跡形も無く壊れるのなら、重ねることになんの意味がある。こんな世界にこんな自分に自由も幸福もありはしない。わかった。わかっていた。ぜんぶわかっていた。そして思い知った。零を探さなければならなくて、どうしても会わなければならなくて、ずっと続けてきた旅だった。だから死ぬわけにはいかなかった。けれど、きっと零はどこにもいない。零はどこにもいないのだ。――あれ。引っかかる。どうして、笹波零を探さなければならないんだった。どうしても、その理由はなんだった。誰の旅。誰の願い。誰の望み。誰の自由。誰の幸福。誰の。誰。誰でもない。なにもない。なにも残っていない。ひとりぼっちの荒野。血の臭いと傷の痛み。旅路の果てにはなにもない。なにもない。守ってきたもの、唯一だったものさえ自分から手放してもうなにもない。(Page 95より)


 黒の団を倒す、と決意して動いたのは白から独立したクロ自身の目指した道です。ラナとの出逢いもオーバン家との出逢いも、少なくとも黒の団を彼等が逃げ出した三年間はすべて白ではなくクロの積み重ねた年月です。
 もともと「笹波零を探す」ことを目的に続けていた旅。でもそれは、もともとの笹波白の、純粋で、どこまでも純粋な会いたいという願いで、やや狂信的なまでの笹波零への思いがベースにあり、クロ自身の願いかというと、それは少し違うんですね。まるで当然のようにクロは零を探し続けていたけれど、白とクロをはっきりと分けるのならば、それは白の目的なのです。それを、クロはどこまで自覚していたのか。
 そのあたりの根っこの部分と、クロ自身の意志が成長したものと、首都編での一連の事件を通じ、自分で積み重ねてきたあらゆるものを失った絶望とが、混濁して混乱をみせたのが、クロが消えてなくなる95話の上記の部分だった、ということになるのでした。いやーしかし、ここの心理描写の言葉選びがすごく、好きですね。続キリは心理描写と縁遠かったし。クロの消滅、という正念場、よく書いたなー、と思います。

 自分で書いていてなんですが、クロのことを真面目に書くと虚無感に襲われます。例年通りお祝い感がありませんが、長年付き添ってきた彼のことは好きです。前日ですが、クロの日おめでとう。


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小萩うみ / 海
たいへん喜びます!本を読んで文にします。