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閉じ込められた場所にて おすすめの群像劇作品

 どうも、小萩です。ネットの海を漂い、毎週日曜にどこかの海岸線で店を開き本を紹介する「電子書房うみのふね」、本日はこちらに辿り着きました。お盆が終わりましたね。毎年この時期は寂しさに浸りながら、いや、むしろ魂がかえってくる日なのだから、寂しくはないのだと、でも、やはり思い馳せると少し寂しくなる、そうして静かに心が揺れます。実家に帰っているとお盆の支度を手伝うのですが、今年も帰れず。

 さて、ほとんど決まり文句になってきましたが、現在うみのふねでは「30日小説チャレンジ」と題されたテーマ集に沿って、毎週各テーマに沿った本を紹介しています。


 7回目の今回は「おすすめの群像劇作品」。

 辻村深月あたりでいこうかとも思ったんですが、もう随分と有名だし、今更とりあげるのもなあ、という。

 いろいろ考えて、ちょっと変化球ですが、決めました。というのも、確かに小説は出版されているのですが、元はスマホアプリのノベルゲームだからです。むしろ、ゲームの方こそ真価が発揮されるので、ゲームも推したい。それがこちらです。

 「LOOP THE LOOP」という作品です。通称、LTL。iOS、Androidどちらでもリリースされています。

 sweet ampouleというゲーム創作グループが自主制作している作品で、現在、シリーズは本編8作目まで出ています。いくつか作品が出ている中でも屈指の人気シリーズで、漫画化・舞台化までされています。すごい。1-3までで一区切りつき、4以降はキャラクターを殆ど一新し、続編のような形でリリースがされています。

 ジャンルとしては、ミステリー、ホラー、サスペンスといったところ。とはいえずっと暗いのではなく、大体前半は10人以上の個性的なキャラクターたちによる日常を描き、その中で不穏な空気を醸し出されていきます。日常パートはたいへん微笑ましいです。

 一作目「飽食の館」のあらすじとしては、受験をじきに控えぼんやりとした日常を過ごし退屈していた高校生レミが、ある日、塾の帰り、公園にふらりと立ち寄ったところ、急な眠気に襲われ、暗転。目が覚めると、見たことのない洋風の館で倒れていました。そこには11人の人間が暮らしており、有名なベンチャー企業の社長やデザイナー、芸術家、教師、バンドマン、学生などなど、肩書きも年齢もばらばら、赤の他人同士です。
 みな、館に足を踏み入れたような記憶は無く、更に館には出入り口が無い、閉じ込められた状態。それぞれにあてられた部屋は、不思議な空間で、自分の想像したものが部屋に出てくる(たとえば自分の部屋を想像すれば部屋の内装は自分の部屋になるし、読みたい小説を想像すればその小説が出てくる)仕組みになっています。なので、生活には困らない。12人それぞれ、もとの現実に退屈していたり辟易していたこともあり、でこぼこと噛み合わないところもありながら、和気藹々と交流を深めていくことになります。
 しかし、同時にこの出口のない洋館の謎、一部の人間への不信感がひそかに浮かび上がっていきます。
 その中で、ある時、一人の人間の遺体が発見されてしまう。
 仲良くしていたはずの、擬似的な家族関係を築いていた中で起きた殺人。
 そこから一気に物語は展開していくこととなります。
 まさに、群像劇。


 もう、面白いんですよ。
 洋館をはじめとしたシリーズで出てくる各所を謎をめぐるミステリー要素、そして多彩なキャラクターたちによるこまかな人間ドラマ、閉所空間だからこそ恐怖と切迫感を煽られるホラー・サスペンス感……。
 サスペンス要素が強く、つまりけっこう血なまぐさい展開があるので、そうしたものが苦手な方にはあまり向いていない部分があるのですが(実際、苦手な方にすすめてしまい、面白かったと言ってくれましたがちょっときつかったみたいです)物語としては完成度が高いです。

 キャラクターがみんな、愛すべきところがあるんですよ。シリーズ通すと総勢50人くらい出てきてるんじゃないかと思うんですが、どのキャラクターもしっかりと背景や性格が創られていて、だからこそ読んでいて心に来る。一緒になって楽しんだり恐怖したり、ショックを受けたりする。

 そして、更に推すべきは音楽ですね。小説版ではなくゲーム版を推したいのは、物語を彩る音楽が素晴らしいからです。展開に合ったオリジナルのBGMが用意され、どれもシーンに合って更に物語に没入できる鍵となっています。

 ゲーム版は、初期は選択肢があり、その選択肢によってはゲームオーバーが存在したんですが、今は完全に一本道となっており、小説と同じように読むことができます。がっつりとしたボリューム、むしろ立派な小説です。「ノベル」ゲームに恥じない内容です。


 ミステリーや推理ものが好きな方はもちろん、特に貴志祐介作品が好きな方は、断言できますが、間違いなく、好きになれます。グロテスク表現が苦手、という方以外は軒並み良かったと言ってくださってる保証つき。

 そして声を大にして言いたいのは、ゲームはなんと、本編無料!!!
 無料で楽しんでいいのか、と思えるほどの大ボリューム!!!番外編などは課金になります。
 正直、常にお金のことで切迫しているsweet ampouleさんを見ていると、切実に今後も良い作品作りを続けていただきたいので、だからこそ私は推し続けたいし、ぜひぜひもっと広まって欲しい。
 なにより、面白いからこそ、奥が深い物語だからこそ、いろんな方に作品を読んで欲しい。
「LOOP THE LOOP」は、そんなsweet ampouleさんの代表作。夏ですし、ちょっと長めの恐い物語にも触れたくなりませんか? 気になった方は、ぜひ手にとってみてください。


 6分程度の動画ですが、プロローグだけぽんと。オープニング動画が以前あったんですが、消されてしまったのかな。


 以上となります。本、というよりどちらかというとゲームなんですが、何度でも言いますが最早立派な小説なので。もちろんkindleや紙の本での小説も出ていますので、そちらでも楽しめます。

 ではでは、ちょっと異色でしたが、おすすめの群像劇作品でした。たまには、いいでしょうか。もう、ほんとう、ぜひ作品作り頑張ってほしいので。
 ここらで、今日のうみのふねは終わりにしようかと思います。
 何も無ければ、来週は「現在読んでいる作品」です。私は来週、何を読み終え、何を読んでいるのでしょう。つらつらと、書かせていただこうかと思います。また、普通のいわゆる本の紹介に戻ります。
 それでは、ご縁があれば、来週もどこかの砂浜でお会いしましょう。

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小萩うみ / 海
たいへん喜びます!本を読んで文にします。