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かつての日常 ウォルタにて
水の町、ウォルタにはいくつもの川が流れており、町を区切っている。海沿いに観光都市として栄えた町だが、町で最も幅広い川の淵、それに海岸にはいくつも漁船が並び、港町として生きている証拠が色濃く息づいている。
ウォルタでの夏の風物詩といえば、川で水遊びをする子供達の姿だ。ウォルタの人間は水と共に育つ。
セルドは橋の欄干に立ち、生き生きとした身体をバネのように縮め込んで、そのまま身を投げた。前から風圧。宙に置いていかれる心臓。自然と止まってる呼吸のままぐんぐん近付く水面を見据えて、次瞬、痛快な衝撃音と心地良い冷たさ――それから驚くほどの静寂。水の中に入った途端に、時間は随分とゆっくりになる感覚がある。勢いで一気に沈み込んで、ぎりぎり底につかなかったところで身体は浮上し始める。きらきらとした揺らめきから顔を出したら、ちょうど今同じ場所に立った姉と目が合った。ラーナーの全身は既に濡れていた。セルドだって濡れていた。いくらやっても何故か飽きなくてわくわくして、蒸気した心と頬を冷ますように、衝動に突き動かされるままに、身一つ躍動。
「いくよー!」
ラーナーは叫ぶと同時に膝を曲げて、セルドより少しだけ高くそして遠く、堂々と跳び上がった。
「ウォルタにて」における川遊びに関する描写だとかレト川のことだとか、「続キリにて」でアランの口から語られたことだとか、そういったことのベースとなったものを文章に起こしたもの。といっても、めちゃくちゃ短いんですが。これも旧ブログに書いたもので、2017年3月のものだそうな。
きらきらな掌サイズの番外編でした。
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