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2020年上半期の本ベスト約10冊
どうも。毎週日曜は「電子書房 うみのふね」という名前で掲げた架空本屋が、ネットの海岸線にやってきます。みなさま、お元気ですか。
6月が終わり、2020年も折り返しました。
上半期で私が読んだのは78冊。Twitterの方でタイトルのようなタグがあり便乗したのですが、その中で特に印象的だった本10冊を改めてnoteでも紹介させていただこうかと思います。
1/3読了。年始めの一冊目が入っているという。
「月」をテーマにして編まれたアンソロジーです。昭和~平成にかけての作家で構成されており、43篇。実はアンソロジーに対して苦手意識が強いのですが、テーマが魅力的だったので手に取ったら、読んだことのない作家との出会いも、美しい文章との出会いもたまらず。素敵な本でした。このシリーズは他に「星」や「猫」もあって、そっちも気になるんですが、まだ手を出せていません。
2月から3月にかけて、8巻分。言わずと知れた名作。
これを読むことを今年の目標に掲げていたくらい、私の中で憧れの強い歴史小説でした。長い、坂の上を登っていく、その先になにがあるのか――その先には、ずっと先には、私たちの今があります。激しい日露戦争の後のくだりには、虚脱。壮大なスケールでこまやかに描写される筆力に圧倒されながら、力強い明治のメッセージには激しく胸打たれるものがあります。読んで良かったと心から思えました。また詳しくnoteに書くかもしれません。
4/5-6読了。連続してめちゃくちゃ有名どころで恐縮です。「新世界より」なんかもそうなんですが、貴志祐介の休息を与えない容赦が無い展開が好きです。サイコパスというのは、恐ろしいものなんですが、何故こうも魅力的なんでしょう。
主格キャラクターは勿論いますが、全クラスメイトを書ききるこの力強さ。そんなんあり?と冷静になると思う部分も無いわけではないながらも、いつのまにか没入していく。それぞれの思惑や行動を展開しながら、先の展開を想像をさせながらも、その想像を上回ってくる暴力性には恐ろしさと共に魅了されてしまう自分がいるのです。これもまた、蓮見教諭の成せる技でしょうか。私が好きなのは、出し抜こうとしていなくなったあの子のこと。
4/12読了。また名作どころで恐縮です。
「火を燃やすのは愉しかった」から始まり、冒頭の文章から引き込まれるんです。私がこの本に一生ついて行こうと思ったのは少女クラリスと出会った時の、クラリスに関する一連の描写の美しさですが、そこから最後まで、モンターグの苦悩にまみれながら展開していく逃亡劇には、手に汗握るものが。興奮したまま、クライマックスへ。本は忌むべきものとして燃やされ読書を禁じられたディストピアストーリー、素晴らしいです。何度でも読み返したい、名作とされるに相応しい本。
4/16読了。緊急事態宣言やらで騒いでいた頃に読んだ本。この頃から「生き方」をテーマにした本やビジネス本なんかも読むようになっていたのですが、要は自分の生き方だったり、自分のこれからの人生について随分と悩んでいた時に読んで、感銘を受けた本です。
特にビジネス本では実践に至るには気に入った部分ややってみようと思う部分をかいつまむんですが、何度も読み返して、内容を実践したのはこの本くらいです。特にGWは7割くらいこの本をめくりながらバレットジャーナルに思うことをつらつら書いて自己を見つめていました。卑下するわけでも、過信するわけでもなく、自分を正しく知るためにはどういった考え方を、どういった部分にフォーカスしていくと良いのか。参考になりましたし、絶賛人生迷子なので今でもめくります。noteでの発信を思いついたのももとを辿ればこの本がきっかけです。
6/4読了。この本に関しては前回の「うみのふね」で詳しく分厚く文を書き連ねたので、気になる方はそちらをご参照ください。石井光太から迸る熱意と優しさのこめられた、素晴らしい新書でした。
6/15読了。ハヤカワ文庫50周年フェアにつられて、タイトルは死ぬほど聞いたことがあるけど読んだことない名作を読んでみようキャンペーンで読んだ本。私が言うまでもないくらいなんですが、これは、実に良かったです。
表題作の、少女とエイリアンの元気と勇気がつまった物語も素敵だったんですが、三篇の短編のうち三作目が、一番ボリュームがあって、ページが止まらなくなる面白さ。人類とエイリアンの戦争が勃発しそうになる、彼等の間にある大きな割れ目。正しくいえば、エイリアンがヒューマンに対して激しい憎悪を抱いて、戦争を辞さない世論に包まれているのですが。その星に辿り着いたヒューマンと、エイリアンの、遙かな宇宙での出会いの物語。一朝一夕でうまくいかないことも、失われるものもあるけれど、チームワークで困難を乗り越え戦争を食い止めようとするヒューマンの知恵と勇気は、宇宙旅行をせずとも常日頃自分ではない誰かと関わる私たちには響くものがあるでしょう。ぜひ。SFは良いものです……。
6/16読了。2019年にアメリカで500万部売れたそうで、その凄まじさたるや、というところですが、実際とても良い本でした。
湿地のほとりで貧しくも懸命に生きる少女は、家族に置き去りにされ、最終的にはひとりぼっちで過ごしていくことになる。幼い頃から、ずっと成長していくにしたがい、彼女は大きな孤独と、時に愛情と、そして愛情ゆえの大きな失望を得ていき、「ザリガニの鳴くところ」とよばれる、生き物たちがあるがままの姿で生きている場所を理想として頭の片隅に留めておきながら、生きていきます。過去と同時に描かれるは、殺人事件に関するエピソード。つつましく生きていた彼女に殺人容疑がかけられ、成長していく彼女の過去と並行して、ミステリー展開も加速。
美しい情景描写と、孤独な彼女の心理描写、そして彼女をとりまく人々の優しさと残酷さに胸掻き立てられていきます。500ページ以上にはなりますが、流れていくような翻訳文であることもあり、引っかかりなく読める印象。世界は残酷だが、それでも美しい。出会えて良かったと思える本でした。あらゆることが困難で閉塞的な世に生きる私たちのどこかに突き刺さるように思います。この作者、動物の学術を重ねてきた研究者という地盤はあるんですが、小説としてはこれがデビュー作で、69歳なんですよね……あらゆる意味で尊敬に値します……本当に素晴らしいなと思う……。
6/17読了。既に6/19の記事にも触れた本なんですが、あえてそこで引用した文章をここでももう一度。
想いを書くのではない。むしろ人は、書くことで自分が何を想っているのかを発見するのではないか。書くとは、単に自らの想いを文字に移し替える行為であるよりも、書かなければ知り得ない人生の意味に出会うことなのではないだろうか。
人は誰も、避けがたく訪れる暗闇の時を明るく照らし出す言葉を、わが身に宿している。そして、その言葉を書くことで、世に生み出すことができるのは自分自身だけなのである。
この本は……悲しみにまつわるあらゆる詩やエピソードが綴られていますが、書くことの生み出すものや、私たちがことばを書く理由について、はっ……とさせられて……これまでおぼろげだった部分を言葉にしてくださったような、書くことへの意義が照らされたような……それは、生きる指針のようでもあって。読書は作者・作者の生み出す文との対話であると同時に、自分との対話であり、文章を書くという行為は、相手へことばを伝えるための行為ではありますが、同時に自分の内側の深くに眠るほんとうのことばを見つけるための行為であるということ……。世界が開けたような感覚でした。
個人的に、本を一冊だけ選んで無人島に行くのだとしたら、確実に候補にあがってくるという確信。若松さんの本、他のものも読んでいきたい。
6/25読了。
昭和期に若くして亡くなられたブッシュ孝子さんの、ノートに綴られた最期の5ヶ月間の詩を集めた本。全詩集として収められた詩は、死に向かい合う彼女の、すべての魂が込められているとしか言いようがない、いのちほとばしることばが書き連ねられています。若松さんの本に出会ったのも、そもそもはこの本を見つけたことがきっかけでした。
死という絶対的な孤独に対面するとき、奥底にあるたましいに触れる。それを詩というかたちにしたとき、あらわになる……そして、作者のたましいに、読者は触れることになる。連綿とした繋がりに思い馳せざるを得ません。
印象的な詩はいくつもありますが、あえてひとつ挙げます。
詩は生命から生まれる
生命は詩から生まれる
そんな詩でなければ詩とはいえない
そんな生命でなければ生命とはいえない
こんな言葉を断言的に綴れるのは、そう容易な心情ではないでしょう。
太陽のようなまばゆい輝きではなく、闇に浮かぶ、静かで、けれど凜とした静寂なる炎のような詩は、ことばを多く用いないがゆえに、読み手によって映るものは異なりますから、気になった方はぜひページを開いて、彼女のたましい、そして自分の心の反響に耳を傾けてみてください。
以上、10冊でした。
6月が多いのは、最近読んで特に印象的に残っているということもあるとは思いますが、単純に読書量が多かったことも理由に挙げられるのでしょう。
下半期も、素敵な本との出会いが楽しみです。
それでは、ここまで長々とありがとうございました。また来週、良かったらお会いしましょう。
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