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黒の団より 枷場

 枷場が登場しているのは、現時点、たった二話しかない。彼は突如登場し、アメモースの翅を奪い、そしてクロと圭は彼の暴力から逃げるためにその場を去り、以降登場していない。

 長くまっしろな闇の中心に居続けたクロが、物語から姿を消す。そして代わりに、本当である白が表舞台に立つ。それは、首都で必ず通ると決めていた展開だった。

 クロは仲間たちと共に黒の団から脱走したのち、笹波零を探し旅を続けてきた。終わりのない、そもそも生きているかどうかもわからないたったひとりの人間を探すという行為に諦念を抱いていたのは、誰よりもクロ自身だった。その諦念を抱えながらも、「見つけなければならない」という一種の強迫観念のもとに歩み続けた。物語の途中、黒の団を倒すという、クロ自身の旅の目的を見つけ、目を向けていくことになる。笹波白の代わりのようにその器を生かす彼である、消すには、並大抵のことでは不可能だった。

 とどめはアランたちの死だったが、枷場の暴行は、そして彼を前にした時抵抗ができず恐怖に竦んだ経験は、抗えないのだという事実を彼に突きつけた。クロがクロとして積み上げてきたものは簡単に破壊された。

 以前、仲間ができて黒の団にも抵抗できると思っていたら、そうではなくて驚いた、というような感想をいただいたことがある。彼等はみな、大人たちに大なり小なり恐怖した経験を持つ。それは痛みであり、痛みはひとを竦ませる。彼等が黒の団を此の世から消そうと思うのならば、いつかその痛みを克服しなければならないのかもしれない。

 枷場という存在は、あらゆる暴力の象徴だと思う。現実の殺人事件や、ある種自然災害や、いじめや、戦争といった、あらゆることがらにおいて、暴力はいつだって理不尽だ。そしてひとを支配する力がある。みな理不尽なところがあるのだけれど、枷場は人を躊躇無く傷つけ尊厳を奪う、目に見える暴力性において頭ひとつ抜けている。そういった人間がこの物語には絶対に必要なのは、彼のような存在が、物語の根源ともいえる大きな問題のうちひとつを形作るからだ。だから、心を鬼にして、彼の人間性に耳を傾け、物語を書く。

 作者でこんなことを言うのもなんだけれど、こんな人間を前にして一体どうやって収拾をつけるつもりなのだろう、と思うことがある。もちろん、いずれ終わりは存在するのだけれど。

 そういうわけで、枷場もまた大事なキャラクターです。

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小萩うみ / 海
たいへん喜びます!本を読んで文にします。