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「静寂」余韻に浸れた作品
どうも。小萩です。先週は臨時休業しました、毎週日曜に開いている架空の本屋「電子書房うみのふね」、ネットの海を漂って今日はこの海岸に辿り着きました。おはようございます。
毎週テーマに沿って行っております現在、今回は「過去最高に余韻に浸れた作品」です。例によって過去最高というのが難しすぎるので、余韻に浸ったくらいで考えてみました。余韻ってそもそもなんだろう、と思ったのです。私も小説を書いていてよく使う言葉です、好きな言葉です、余韻。静かな水面を音もなく広がっていく余波を想像します。作品を受けて広がっていくイメージ。広がっていく世界。終わってもなお、どこまでも広がっていく感覚。「韻」には音が含まれますが、余韻は、音そのものというよりも、空気の震え、響きであり、音自体はもう既に止んでいる、けれどもかすかに響きが残っている、それが余韻。本当の静寂よりもかえって静寂を感じる瞬間。そういった余韻に浸る瞬間というのは、本に限らず、美術館を訪れた後、ライブに行った後、ゲームをクリアした後、きれいな景色を見た後、ふとした何気ない何か琴線に触れるものに出会った後、いろんな瞬間があります。その瞬間をたぶん、時にものすごく求めているんだと思います。
なので、今回のテーマは、言い換えると、静寂です。二冊選びました。
猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子
チェスに没頭する少年の物語。こうしてカテゴライズしてしまうとさっぱりしているのですが、深淵を追究していく物語です。深く、深く、本当に深いところへ潜っていく本。私は、読んでいて、自分の想像を遙か超えた深海へと誘われていくのを感じました。そこに広がる、祈りのような深い闇。響くは、チェスを置く音。言葉の交わされない魂の交信。創作物はこんなにも深い場所へ行けるのか、と本当に驚いた作品です。しばらくはなにも手につかなかった本でした。
津軽再考/柴田祥
写真集です。津軽の雪景色を中心とした白黒写真を載せたもの。
雪は音を吸いこんでいく性質があります。この写真集を開くたびに、静寂へと入り込み、雪景色に立っている、見つめている。光であったり、暗闇であったり、津軽の陰影が並べられていく、閉じこもった不思議な世界。私は津軽には行ったことがないのですが、冬の津軽に行っていつかほんとうにこの景色の中に立ちたいと思うのです。でもなかなか行くことはできないから、本を開いて、想像をします。静かな世界に耳を澄ませる時、雪のかすかな音が、響きが、聞こえてくるように思うのです。
短いですが、いかがでしたでしょうか。
どちらも、文句なしに素晴らしい本です。暗めなセレクトではあるのですがそれは私が暗いものが好きだからです。余韻、静けさは明るい場所よりも暗闇に存在するように考えています。ご縁があれば、手に取ってみてください。
来週は「所有しているサイン本」です。ああ、これは分かりやすい。もう、選ぶ前からはっきりしているものですから。なので来週もちゃんと書けると思います。もしも良ければ、来週もどこかの海岸線で会いましょう。
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