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ニューゲーム

 聞こえる。鼓膜を微細にふるわせるかの音は、五月雨か。それとも今際の吐息か、あなたの心臓か。
 枯れて老いた身体をうるおす、永久の音である。
 悔いても戻らぬ時間は絶えず進み、いずれあなたを置き去りにする。
 決して、あなたを一人のままにはしない。
 わたしはやがて土に還り、微細に分解され、植物に与えられ、花を咲かせ、種子に宿り、空を飛び、あるいは虫に運ばれ、いずれどこかに着地し、再び芽吹き、いずれあなたの指に、あなたをめぐるあなた自身に触れ、あなたのもとに帰ってこよう。
 生まれ変わり、あなたと共にあるように。
 そうした魔法のかけ方を知らないけれど、代わりに、果てたいのちは次のいのちをはぐくむと知っている。万物はめぐる。あなたを中心として。だれかを中心として。わたしを中心として。
 愛されて、愛してる、互いに差し出した情は結実し、いつかまた繋がる。
 だから、わたしはいく。
 いかなければならない。
 失われ、そして同時に生まれる、指先にもはや接している、わたしの絶えた世界へ。

 了

「ニューゲーム」
三題噺お題:生まれ変わり、魔法のかけ方、愛してる


 *

 24話分。
 長かったような短かったような、Twitterの@gogatsunoanzさんからお借りしたワードパレットをもとに小説を書くという旅が、ひとまず終わりました。
 自分と相性が良かったのか、想像力がむくむくと膨らむ、素敵なお題ばかりでした。
 そうしてお題に触発されながら、字数も雰囲気もさまざまな物語を書くことができ、未熟ながらここまで漕ぎつくことができました。ずっと短編を書いていなかったのに、気付けばこんなにたくさん。不思議なもので。でも静かな達成感を抱いています。
 手にとってくださった方々、ありがとうございました。いいね、とても励みになりました。印象深い物語にもしも出会えたのなら、とても嬉しいです。もしも良かったら、一言感想などいただけましたらたいへん喜びます。
 このワードパレットにこだわってきましたが、今後はこのかたちに限らず創作活動をしていきたいな。

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小萩うみ / 海
たいへん喜びます!本を読んで文にします。