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夜中に読みたい本
おはようございます、こんにちは、こんばんは。小萩です。全国的にしとしとと雨の降る日だったり曇っていたりぱっとしない天気が続いていましたが、今こちらは笑い飛ばしたくなるくらい立派な青空が広がっています。
毎週日曜は「電子書房うみのふね」を開いて、お題に沿って自分の好きな本などを紹介しております。ネットの海をのんびりたらたら進みながら、今日はこちらの砂浜にやってきました。出会えたご縁に感謝。
そんな今日のテーマは「夜中に読みたい作品」です。
夜中、眠りぎわ。一日を終えて疲れ果てていたり楽しかった興奮が収まりきらなかったり、様々な時間をこえて眠りへ続く時。あるいは夜に働く方もおられるかもしれません。夜は静かに落ち着き払って、本を読むにはとても良い時間。
そんな今回、私の本棚から勧めるのはこちら。
谷川俊太郎詩集
個人的に、夜によくお世話になる本です。
たとえば、うまく眠れない時。ことばに浸りたい時。そっとことばに寄り添ってもらいたい時。そういう時に詩はいつでも私たちの傍に穏やかに、時に衝撃をもって寄り添ってくれる。谷川俊太郎、詩人としてはたいへんに有名処ではありますが、時にどうしても彼のことばを欲する時があって、それは大体自分のことばで誰かを傷つけてしまったかもしれないとか、意図せず強いことばを使ってしまって沈んでしまった時によく開きます。谷川俊太郎の優しかったり苛烈だったり静かだったり激しかったり、さまざまなことばに触れて、リセットされるように思うのです。
私が忘れ
私が限りなく憶えているものを
陽もみつめ 樹もみつめる
西瓜糖の日々
万物、言語ですら西瓜糖でできた、不思議で魅惑的な世界アイデスの世界を追う小説。
言葉を追いかける。美しい言葉を追いかけて、どこかふわふわとした心地に包まれながらも、なにか不穏な気配がすり寄る。愛と幸福で包まれた静観な世界は純粋なものばかりでなく、そこにひとがいる限りは血が流れているのだというように。読めばきっと、書かれる文に取り憑かれて、あなたを現実からどこか遠い静かな場所へつれていって、西瓜糖の言葉を操る彼等のそばにやってくるだろう、そして心臓の静かな高鳴りを感じるだろう。不思議な読み心地になる幻想小説です。詩のような小説。
短い章がどんどんと積み重なっていくので、眠くなったら閉じるというタイミングも図りやすく、そういう意味でも夜にぴったりだと思います。
私は後半も好きですが、序盤の「わたしの名前」が切実に好きです。
わたしが誰か、あなたは知りたいと思っていることだろう。わたしはきまった名前を持たない人間のひとりだ。あなたがわたしの名前をきめる。あなたの心に浮かぶこと、それがわたしの名前なのだ。
たとえば、ずっと昔に起こったことについて考えていたりする。――誰かがあなたに質問をしらのだけれど、あなたはなんと答えてよいかわからなかった。
それがわたしの名前だ。
そう、もしかしたら、そのときはひどい雨降りだったかもしれない。
それがわたしの名前だ。
あるいは、誰かがあなたになにかをしろといった。あなたはいわれたようにした。ところが、あなたのやりかたでは駄目だったといわれた――「ごめんな」――そして、あなたはやりなおした。
それがわたしの名前だ。
もしかしたら、子供のときした遊びのこととか、あるいは歳をとってから窓辺の椅子に腰かけていたら、ふと心に浮かんだことであるとか。
それがわたしの名前だ。
それとも、あなたはどこかまで歩いて行ったのだったか。花がいちめんに咲いていた。
それがわたしの名前だ。
あなたはじっと覗きこむようにして川を見つめていたのかもしれない。あなたを愛していた誰かが、すぐそばにいた。あなたに触れようとした。触れられるまえに、あなたにはもうその感じがわかった。そして、それから、あなたに触れた。
それがわたしの名前だ。
・・・
すべて真夜中の恋人たち
川上未映子と深夜の親和性は高いように思う。読んでいて、その心地よい文章の流れに身をただ委ねて、そして作中で描かれる会話に耳を傾け、登場人物たちのささやかな動きに耳を澄ませる。川上未映子の描写は細かく繊細だ。ときにその静けさに少しノイズが入って、それもまた、夜の音だというように、ただその物語にひたる。
フリーランスの校閲者である主人公が、不意に出会った男性に惹かれてゆく。
静かな音の少ない冬の夜に、まるで聴くように読む小説のように思います。もちろん冬でなくても。作中は冬で進んでいきます、だからか、その冴えきった冷たさが文章から伝わってくるような、それもまた心地が良い。これから冷えてゆくという季節に、良いなあと思います。
今回は、このあたりで。いろいろと迷いましたし、星の話もとても良いと思ったんですが、なんだか収まったのはこのあたりでした。自分の気分によっても、変わりそうなラインナップではありますが、実際、夜にベッドに入りながら時折開く本を並べてみました。
夜に読みたくなる本、というのは、それぞれの読者の心に寄り添ったことのある、そういった親密な気配があるように思います。だからそうした本がなんなのか、人のを見るのが好きだし、また夜にまさになにを読んでいるのかというたとえばTwitterのツイートだとかが、ときおり愛しくて、どこか遠い見えない場所でそれぞれ違う本を開いているのに、奥、底の方で音もなく繋がっているように感じられます。
夜というのはそういう時間帯なのです、きっと。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
来週は「過去最高に泣いた作品」です。難しいなあ。またじっくりと考えます。
ではでは、お気に召したらあなたも読んでみてください。来週、ご縁があればどこかの海岸線で、またお会いしましょう。お元気で。
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