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学生に一度読んでみてほしい、きみの友だち ー一度手放して買い戻した作品
どうも。小萩です。
ネットの海を漂う架空書店、電子書房うみのふね、今週の日曜はこちらの浜辺に辿り着きました。
海面も茹だるような暑さです。
8月がもうすぐ終わりますね。今もものすごく暑いですが、今年は梅雨が長引いたので、本格的な真夏が来るのが遅くて、そうかもう夏が終わるのかと驚きが隠せません。今時の真夏はやっぱり身体的には身の危険を感じるレベルの暑さで、残暑はまだまだ厳しそうですが、どうぞご自愛ください。涼しい場所でゆったり本を読んでましょ。
そういうわけで、最近は毎週テーマに沿って本を紹介しています。
今週のテーマは「一度手放して買い戻した作品」です。
みなさん、本はけっこう売れる派ですか? 私は全然売れません。友人に、ほんとうに大切な本以外は買ってもすぐに売れるタイプのひとがいるのですが、そういうことができなくて、売るとなるとよほど確信的に「これを読み返すことはないかな」という本です。わりとぽいぽいと躊躇無く捨てられるタイプの人間なのに、本だけは別枠なんですね。
引越をする際に割と減らしたつもりでも、なかなか。そして引っ越してからの方が読書量が増えたので、増えていくばかり。
まあ、それもそれで、いいですよね。
そんな私の買い戻した作品ですが、買い戻した、というか、正しくは大学のために実家を出た時に実家に置いてきたけど、やはり手元に置いておきたくて買い直した本です。それがこちら。
重松清の名作。夏の新潮文庫100冊フェアでの常連というイメージです。私も高校生のあたりで、夏のフェアで買ったような覚えがあります。
人と話していて出てくる、みんな、という言葉が苦手です。みんな、という曖昧で誰かもわからない不特定多数な表現、いや、誰のこと? という無意識的な圧迫感。
この作品での中心人物である恵美ちゃんも、みんなが嫌いで、ほんとうに大切な友だちがひとりいればいい、という子です。
恵美ちゃんは以前は「みんな」の輪の中心にいましたが、交通事故に遭って左足が不自由になり、松葉杖など補助器具なしには歩けなくなります。もともとクールな人間だったこともあり、友達にやつあたりして、彼女の周りからは仲良くしていたはずのみんなが消えていきました。そして、彼女は、腎臓に病を抱える由香ちゃんと一緒にいるようになります。彼女たちだけで、閉塞的に、けれど強い意志で、二人の間は強い縁で結ばれていく。
連作短編の形をとっており、恵美ちゃんに限らず、彼女の弟やその友達、先輩、恵美ちゃんと由香ちゃんの学校生活の中で出会ってきた人たちにフォーカスを当てたそれぞれの短編は、小中にありがちな繊細な人間関係が丁寧に描かれています。
今回noteで記事を書くにあたり、数年ぶりに読み返したのですが、まごう事なき名作だということを再確認。
高校生に読んだときとは少し違う感じ。ちょっと俯瞰してストーリーを追ったような気がしていて、あんまり言うとネタバレになるのですが、最終話でのあらゆるくだりに、しみじみとなったりして、こちらも大人になったんだな、と思わされました。
ある意味ステレオタイプともいえるくらいの人間関係は、今の学生たちも味わっているのでしょうか。私は特に中学生のあたりでみられた女子のグループ勢力だとかが本当に苦手で、でもうまくその世界を渡っていけるほど敏感でもなくて、へらへらと笑いながら不器用にその時間を過ごしていたように思います。独特な世界ですよね。正直思い返すと世は地獄、ともいえて、戻りたくないということもありこの手の物語を読むと、どれだけ俯瞰していたとしても心のどこかがずきずきと痛みます。
でも、それでもこの物語が良いのは、主格である恵美ちゃんの凜とした強さでしょう。
彼女は自ら進んで由香ちゃんとだけの世界を選び、由香ちゃんとの時間を一秒一秒大切にして生きています。彼女がみんなと過ごすのを避けるのは、みんなが嫌いで、みんながみんなであるうちは友だちといえない、という確固たる信念に基づいているからでもあるのですが、みんなと付き合っている暇なんて、どこにも無いからなのです。由香ちゃんは、重い病を抱いているから。一生に一人の、ほんとうに大切にしたい、友だちだから。
由香ちゃんとの生活を通して、成長していった彼女の、素っ気ないけど優しさのある言葉たちに、読みながら励まされるのは、登場人物だけではないと思います。ブンモトコンビみたいな優等生相棒コンビもいいし、鈴木くんみたいなかっこつけたいけどかっこつけられない子はかっこよくないかもしれないけど憎めない。
ひねくれて、素直じゃない彼女だけど、芯にもつ強さには、久しぶりに読んでも深い憧れを抱くのです。
一生に一人、ほんとうに大切な友だちがいたらいい。
それは、世の流れでもあるような気がしています。誰とでも仲良くだったり、大人になったら誰とでも酒付き合いをするけど、そうじゃなくてもいいんだよ、という風潮が。
でも、ほんとうの友だちって、そもそもなんなんだろう。
ほんとうに大切にしたいことって、なんなんだろう。
読んだら、大切なひとを大切にしよう、と思える本です。
私は特に、この本を、若い学生に贈りたい。もちろん、どんな世代でも良いのだけれど、学生にこそ読んでほしい、と思う。
人間関係に悩みは尽きないけれど、人間関係をきっかけにして死んでしまうこともある中、ひとつの導になれる本だと思うし、まあそこまでいってなくとも、やっぱり閉塞的な気持ちになることはあるだろうし、微妙な年頃で、でもやっぱりあの時期、学校に行ったら同級生が必ずいて勉強のことや他愛もない話に華を咲かせて、常に友達がいる、という環境は、とても重要なだと思う。地獄とかいって、完全に大人のエゴだけれど。地獄な時もあるけど、そこでのことが全部地獄とも限らなくて、本当に死にそうなくらい地獄だったら、逃げてほしくて、逃げて生きていればどこかに、あなたを好きになってくれるひとは必ずどこかにいる。私もたくさん逃げて、傷つけて、後悔して、お世辞にも友だちは全然多くないけど、大切にしたいひとは有り難いことに、いる。
ほんとうの友だちがいれば、ほんとうにそれだけで、生きていられる気がするのです。
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