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電子書房-1 アートをたどる読書旅


 どうも。海です。ネットの海を進む、気ままな書房を覗いてくださってありがとうございます。

 毎週日曜くらいに開く電子書房うみのふね。一回目は、五月に読んだ本の中から三冊用意しました。

 まずは一冊目
 禁じられた楽園 / 恩田陸著

 幻想ホラーとして宣伝されている本作品。幻想的という言葉が適切かはともかく、ホラー要素は強いです。幽霊とか妖怪とかの類とは異なる、人間の心に触れていく。

 その心とは、恐怖。

 若くして成功している芸術家・烏山響一、そしてその伯父である烏山彩城の共作である、和歌山県にある山一角を使った壮大な美術展へ招待される、建築学科に通う捷と美術学科に通う律子。前半部分は平凡な日常に忍び寄る響一の存在感、後半は美術展で展開される奇怪なアートに触れながら翻弄されていくキャラクターたちの様子が描かれながら、謎を深掘りしていく作品。

 最後の展開に賛否両論あるのも納得ですが、個人的には受取手によって作品のかたちも印象も少しずつ異なるというテーマを感じていて、そういう意味ではこの物語自体、読者に委ねている部分が大きいように思います。つまり、全てを解き明かして文章にしてほしい人には消化不良感を与えるかもしれない。ただ、恩田陸のするする流れながらも突き刺すような言葉を挟んでくる文章表現と、ホラーとサスペンスを混ぜた美術品のひとつひとつに人間の持つ不安や思い出・過去が掻き立てられていく様には、いつのまにか没入していかざるを得ないです。

 興味深い芸術の世界に引きずり込まれていきましょう。

 ちなみに当初はこの本をこの枠で紹介する予定は無かったんですが、本を紹介するなら最初は小説から始めたいという思いもあり。芸術繋がりという大枠では、ひとつの要素を成します。他の作品と併せて読むと、フィクションに限らない面白い面がきっと見えてきます。



 二冊目
「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考 / 末永幸歩著

 これはですね~……面白かったです。この本が今回の紹介記事の幹です。

 13歳からの、と銘打っている通り、これは中高生に向けた授業を本に起こしたような内容となっており、全部で6つの単元に分かれ、それぞれ現代アート作品を鑑賞しながら、何を想像するか、何が考えられるか、アート作品に対する探求をしていく本です。

 題名にもある「アート思考」とは、本の序文で解説がなされていますが、「自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求をし続けること」と定義されています。

 アート、というと絵や工芸品など格式張ったものを想像しがちだし、どこか自分の世界と離れたもののように捉えがちです。私もそういう部分があります。美術館にはたまに行きますが、突き動かされるものも勿論あるけれど、どう鑑賞したらいいものかと思うことがあります。

 自分の話になって恐縮ですが。
 現代アートではないのですが、刀剣乱舞にはまっていたとき、京都で刀剣の展示に赴いたことがあります。刀剣をまじまじと見る機会ってこれまでなくて、眼を凝らすように鑑賞していたのですが、所謂国宝レベルの作品とそうでないものの明確な差ってなんだろうとか、切れ味だとしたら芸術品としてはその意味は成されないし、文様の美しさは確かにそれぞれよく見ると存在しているけれど、他にも刃が直線的であるとか繊細な曲線を描いているだとか、色だとか、似たようで異なっていて、いろんな要素があると頭ではなんとなく理解しているようで、でも実際に実物を見てみるとこの物体の一つ一つからなにを受け取ったらいいのだろう、と正直思うことがあり、悩んでたら鑑賞中に頭が痛くなってしまったという苦い思い出があります。

 そういう経験もあり、美術鑑賞には苦手意識が多少あります。

 しかし、アート思考というものの考え方で展開されていく本書で、見たこともない作品や有名作品に触れていきつつ、中高生のみずみずしい意見にも触れていきつつ、その「どう芸術品を見たらいいのか」「芸術とはなにか」などを深めていきます。ワークを挟みながら展開していく様はまさに授業。大人になった今こそ大きな発見を見いだせるのではないかなと。美術は学生だけのものではないし、美術が苦手な人にこそ一度読んでみてほしい。

 私が個人的にはっとしたのは、

 音楽の鑑賞においては、多くの人がごく自然に「作品とのやりとり」をしているのです。
 しかし、どういうわけか美術作品となると、作品の見方は「作品の背景」や「作者の意図」だけにあると考えられがちです。

 という一節(P162より)。これ、思い当たる点がありません? 私はめちゃくちゃあります。音楽を聴いていると、音楽そのものから受け取られるものから、自分の生活や自分の作品を重ね合わせたりしません? PV妄想したりしません? でも美術品だとそういえばあんまりそういう考え方をしないんですよね……。

 美術は絵のうまい人や美的センスの豊かな人だけのものではない。もっと生活や個人個人に根ざしている。

 そしてアートは美しいものではなく、その枠はとうに破壊されている。アートの枠が消えた今、私たちは誰でもアーティストであると言える。その理由は、本書を読んで受け取ってみてください。終始平易な表現で書かれているのでするっと読めますが、奥深いです。

 美術館に行きたくなりますよ。



 三冊目
 自分の中に毒を持て / 岡本太郎著

 言わずと知れた岡本太郎の名著なので若干恥ずかしいんですが、なぜここでこの本を出したかというと、二冊目の「13歳からのアート思考」を読んだ直後に本書を読んだことには面白い幅の広がり方があったからです。

 芸術は爆発だ、のワードや、大阪万博の太陽の塔など、日本を代表する現代アーティスト岡本太郎。破天荒なキャラクターが目立ちがちですが、その思考をこれでもかと凝縮し発散している本作。簡単な方を選ぶな、困難を選べ。未熟だからと臆すのはただの甘え。自分を殺せ、そこから自分は生きていく。最大の敵は、自分。

 今、この瞬間。まったく無目的で、無償で、生命力と情熱のありったけ、全存在で爆発する。それがすべてだ。

 上記は引用ですが、芸術は爆発だ、のほんとうについても書かれています。これを読むと、ぼーっと生きずに「何かを成さなければ」という使命感に掻き立てられます。凄まじい情熱にあてられるんですが、根底に流れているのは彼に根ざす強烈な人間愛、徹底した生への追求のように思います。こう言ってしまうとさらっときれいごとみたいになるんですが、「毒を持て」とまで言っている以上、それは全くもってきれいごとではなく、困難に自らぶつかっていくことにこそ人間の生はあると考えているので、苦しい道への突入を終始訴えてきます。勇気を持つということ。安寧に人間の生は無い。生きるとは生温いものではない。

 メッセージ性が非常に強いので読者側の精神状態次第では跡形も無く灼かれる勢いですが、ぽやぽや生きながら「このままでいいんだろうか」という悩みがある人には多分大きく刺さるものがあります。私もそうですが、コロナをきっかけに今後について考えている人はこの本に立ち返るのも一手ではないでしょうか。

 二冊目の「13歳からのアート思考」では、作品を通じた作者と鑑賞者のやりとりではなく、作品というものそのものから鑑賞者が何を感じるか、おのおのの自由性に重きをおいています。一方、本書から伝わってくるのは作者の思考そのもの。作品にどれだけの情熱、どれだけのプライドや人生を注ぎ込んでいるかを思い知らされます。「13歳からの~」は分かりやすい表現によって優しさで編まれている感じがありますが、「自分の中に~」はそのほとんど正反対をいっているような感覚を覚えます。どちらもアートという視点では同じ系統にあたるのですが、まったく毛色は違うもの。しかし、そんな二冊でも共通することはあります。それは「個人としてアーティストになりなさい」ということ。「常識という枠を外す」ということ。誰しも、生きるとは、アートである、と。

 一冊目の「禁じられた楽園」も含め、それぞれまったく別のタイミングで購入した本です。恩田陸を読みたいから買っただけ、思考と美術の組み合わせが面白そうで買っただけ、強烈な言葉や姿勢に呑まれたくて買っただけ、そういう偶然が重なってたまたま読むタイミングが近かったんですが、併せて読むことで見えてくるものがあります。一冊の本からでも受け取ることができるメッセージはあるけれど、それでは一つの面しか見えません。数冊を組み合わせることでより深められていくものがある。新たな見方が現れる。それを実感したとき、うわっ読書おもろ! と改めて発見したのが最近の大きな感動だったので、一回目から三冊紹介してみました。

 芸術という枠はあまりにも幅広く、この三冊に限らずよりいろいろなものがありますよね。また面白い瞬間があれば紹介していきたいですし、こんなのも、というものがあれば是非教えてください。ちなみに私はこういう類で次手を出したいのは「ファン•ゴッホの手紙」です。読みたい……。

 ではでは、また来週、ご縁があればどこかの海岸線でお会いしましょう。

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小萩うみ / 海
たいへん喜びます!本を読んで文にします。

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