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オセロ世界選手権2024観戦記(Day1午後)

前回記事に引き続き、オセロ世界選手権 Day1 の個人的ハイライトをまとめていこうと思います。

SONG Yan - CHEN Po Yun(4)

序盤から SONG Yan 選手が仕掛け、研究範囲を外れて読み合いの試合となった。
SONG Yan 選手はこういうちょうど良く力戦になる展開を作るのが上手く、自分の持ち味を活かすいい作戦だと感じる。

図はいろいろな手が考えられる局面だが、SONG Yan 選手は B6 -> C6 -> C7 と進めた。

一見すると E6 が絶好手に見えるのだが、それには E6 -> A5 のカウンターがあり、白も簡単ではない、という構想。
これに CHEN Po Yun 選手は E7 -> E6 -> H3 と対応。

これまた派手に局面を動かす手で、盤面に争点が多く数手先を読むのも難しいのだが、ギリギリのところで互角を維持している好手順。
この数手のやり取りだけでも、両者の盤面把握力や読みの正確性を物語るのに十分な攻防でした。世界選手権、レベル高いですね〜(それはそう)

この試合自体は、終盤が双方時間切れが迫って雑になってしまったのが残念。
終盤でも同じクオリティの読み合いが見たかったですが、中盤がこれだけ難解だったので、タイムマネジメントの難しさが出ちゃいましたね。

LI Chun Wan - TAKANASHI Yusuke(5)

互角の形勢で迎えた終盤。ここでの B7 - > A8 -> A2 は筋の良い手に見えますが、これが黒の痛恨の敗着となりました。
正解は A2 -> A5 -> A7

いまいち主張の分かりにくい手順ですが、白に G7 を打たせてゴリゴリとるとなんか勝ちらしいです。
これは消去法以外では打ちにくい手順ですね...しかも実戦手順も結構黒いけてそうに見える(黒-2)ので、かなり決断が難しい手順です。こういうのはもう、半ば運みたいなものですね。

ちなみに白の高梨九段には、この少し前でもう少しスッキリ勝つ手段があったみたいです。

これは皆さん向けのクイズにしておきます。
高梨九段を超えましょう!

NARA Soma - CHEN Po Yun(5)

互角の形勢で迎えた終盤戦。白の CHEN Po Yun 選手が H1 -> D2 で手詰まりを主張して H2 に着手した局面。
ここまで安定した試合運びで勝ち星を積み上げてきた奈良七段が、ここで痛恨の敗着を打ってしまいました。

正解は H1 -> D2 -> A7 と打って、H1 をもらった代わりに A8 をあげますよ、という構想。
互角形勢の終盤ではどちらかにだけ都合の良いような手順は起こらないので、これは白の要求を飲むべき局面でした。
とはいえ以降の展開は、高段者なら白勝ちっぽい感覚を持ちそうなので、見た目以上に難しい判断ではありました。

実戦は B2 と打って、何か白の狙いに反発できる手順を模索しましたが、CHEN Po Yun 選手が冷静に対応して勝利しました。
奈良選手は世界選手権初出場で、これが初めての黒星なので、この負けを気にして調子を崩さないことが大切ですね...!

CHEN Po Yun - TAKANASHI Yusuke(6)

5回戦終了時点で全勝者が2名となり、その直接対決。
高梨九段がかなり珍しい変化で仕掛けたと思ったが、-2の手だったらしい。知らなかった...

図で CHEN Po Yun 選手の放った E2 が事実上の敗着。G5 や E8 へのアクセスを作ることを狙った手だが、どちらもそれほど価値の大きい手ではなく、上辺に白の手を増やすコストと見合わない手になってしまった。

とはいえ、むしろここから一直線に優勢を築いて勝ち切った高梨九段の精密さを讃えるべき試合だろう。
本譜のように読み合いの地力勝負となる序盤作戦で、AIのような精密な着手をされては、たいていのプレイヤーは崩れてしまう。本局もそのような試合となった。

KURITA Seiya - KOH Bo Chao Alex(6)

Alex 選手が並びどりで仕掛け、栗田八段が珍しく序盤でミスをする展開からスタート。しかし流石の栗田八段、大崩れせず徐々に巻き返し、優勢で終盤を迎える。

図で栗田八段は B3 -> C1 -> G8と進めた。僕はぱっと見では、B3 から打つと

  • B3 -> A2 で対角線を切られてしまう

  • B3 -> C1 の場合も A2 の手を温存されてしまう

などの理由から、G8 -> C1 -> B3 のように進めて対角線とCラインを守りたいな〜と思っていたのだが、この手順では B2 に打たれて粘られ、引き分けになってしまうらしい。
この局面では将来 A4 -> A5 の交換を入れれば右上が連打形になるため、その連打をどう成立させるかだけが重要で、対角線やCラインはあまり本質的な問題ではなかった。
一度通したラインに固執せず冷静にプランを切り替える栗田八段の判断が見事な終盤でした。

SONG Yan - NARA Soma(6)

序盤は SONG Yan 選手がやはり積極的に仕掛けたが、奈良七段が上手くいなして互角の形勢で迎えたこの局面、奈良七段の C1 が敗着となった。

が、正直この局面は僕の理解を超えており、微妙な石差のどこがどう違うのかを説明することは難しい。
むしろ以降を全て最善で打ち切った SONG Yan 選手の会心譜と言えるだろう。
さらに言えば、中盤の数ある互角手順の中から、このように白にとって難解な手順を正確に選んだ SONG Yan 選手の構想力が光る一局だった。

TAKANASHI Yusuke - SONG Yan(7)

見どころたっぷりの難解な中盤戦を経てこの局面、SONG Yan 選手に敗着が出ました。
実戦は B7 -> A8 -> B8 と進めましたが...

高梨九段は冷静に G8!
B8 と A3 両方を白の潜られると損した気分になってしまいますが、黒の狙いは G8 -> A3 -> H6 -> A1 -> H3

これで H2 を打たせることにより、B2 と B1 の連打が成立。
局所的な損得に惑わされない大局観を持って進めた高梨九段の流石の終盤でした。

振り返ると SONG Yan 選手は、この連打を読み切って初期局面では B7 ではなく H8と打ち、 H8 -> H7 -> B7 -> A8 -> B8 と進める必要がありました。
これなら G8 -> A3 と進めたときに右下に黒の手がなく、ちゃんと偶数理論に持ち込むことができました。

高梨選手はこれで初日全勝、しかも注目選手との対局をいくつか終えた状態ですので、予選突破に向けて大きくリードした形となりました。

CHEN Po Yun - KURITA Seiya(7)


この試合は Live Othello games での配信にトラブルがあり、後から入力された寄附を確認しただけですが...

CHEN Po Yun 選手の仕掛けに対して、おそらくある程度知識があったであろう栗田八段。最終盤まで最善手を打ち続け、完封するかと思われましたが、ここで分着が出てしまいました。

試合内容を見ていないのでなんとも言えないですが、もしある程度暗記で進んで時間が残っていたなら、この試合は栗田八段らしくない惜しい試合ですね...とはいえ見ての通り、最善はちょっと意外な手&他にもいい手がある状態ですので、時間が足りていなかった場合はなかなか難しい局面かもしれません。
逆に CHEN Po Yun 選手はおそらく最後まで暗記していたものと思われますが、栗田さんほどのプレイヤーなら一度は見たことがある有名進行ではあるので、作戦としては失敗だったかもしれません。

両選手は初日を5.5勝で終えました。
Day2に向けて及第点と言える勝ち数で、特に CHEN Po Yun 選手は高梨九段との対戦も終えているので、かなり通過の目が出てきました。

YANG Kelvin - TOMITA You(7)

富田三段はこの図から G6 -> H4 -> E8 -> C8 -> F1!

これにより黒 H5 へのアクセスを断ち、白が先着することに成功。
ここから試合の流れを掴み、持ち前の隙のない終盤で完勝!

この手順は自分の読みの精度に自信がないと、何か間違えた途端に一気に詰んでしまいそうで怖いのですが、富田三段の読みは速くて正確ですね。

この勝利で富田三段は全体2位の6勝グループで初日を終えました。
ジュニアと言わず無差別の決勝トーナメント進出を目指してほしいですね...!

そのほか日本勢の奈良七段、木下六段も初日5勝で無差別通過の可能性の残るグループにいます。
予想通り無双しているわけですが、2日目はより強い相手との連戦になるので、まだまだ油断はできません。
海外注目選手との対戦が増えてくる明日こそ、代表の真価が試されます...!

Day2 も楽しみですね!それでは!

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