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【禍話リライト】仕込みの家

「分かっていない」という事は幸せであり、不幸でもあるのかもしれない。


 暇を持て余した大学生グループの「肝試しをしようぜ」という位の軽いノリでそれは決まった。
 目的地はとある療養所…いわゆるサナトリムとされるような病院の廃墟で、
場所だけは事前に調べておき、閉まってたり警備会社が入っているようだったら帰ろう、
という軽い気持ちで、後輩も何人か連れてワゴン車に乗り込み現地へ向かった。

 現地の廃墟は特に管理された様子はなく、
よくある「防犯カメラを設置してます」「警備会社と契約してます」というようなステッカーもなかったが、
正面入り口は開かなかった為、あちこち探索してみると
どうも裏口が開いているようなので連れ立って中へ入った。

 閉所にあたって医療機器はだいたい処分されたらしく、
いいとこホワイトボードや部屋名のプレートくらいしか残っていなかったが
それでも療養所の雰囲気を味わうには十分で、一同は怖々探索を続けた。

 探索の最中、最後尾の人物…S君とする、そのS君が
時折チラチラと後ろを見ている。
「どうした?」と聞いても「別に」と答えるばかりだ。
(別に霊感キャラってわけでもないしな…?)
 と訝しんでいると、今度は軽く噴き出し笑いをこぼす。

(ああ、そういやコイツちょっと協調性足りないし、多分誰かとメールか何かやってんだろうな)
(ここ、電波くるのか…)
 と、一緒に来ていた者は自身を納得させた。

 最終的に、特に怖ろしい出来事など起こるはずもなく、
せいぜい何か動いたと思ったら自分たちの影だった、とか
誰かいる!?と思ったらグループの誰かが鏡に映っただけだった、とか
それでもワーキャー言って各々が楽しかったね、といった雰囲気のまま裏口から出て、
車に乗り込みさあ帰ろう、とエンジンをかけた時に先程のS君が

「ちょ、ちょっと待ってまって」

「あの人回収しなくていいの?」
と言い出した。

 肝試しに来たメンバーは全員ちゃんと車に乗っている。
 困惑しながら「何、何が?」と訊ねると
「いやホラ、あの仕込みの人だよ」

 仕込みの人。
「仕込み…何?仕込み杖?」

「ンなわけないじゃん、いやほら、途中から俺の後ろでさ
赤いあの、なんか光る棒持って振り回してる警備員みたいな人居たじゃん、あの人」

「…居ないよ?」

「居たって~。ほら、あまりも堂々としてんのに皆黙ってるしさ、
あれでしょ?俺の事ビックリさせようと誰か呼んだんでしょ。
今日来てなかったアイツとか?」

「いやいやいや、仕込んでない、居ないってそんな奴!」

「嘘だぁ~!あんな後ろでアイドルの応援みたいにブンブン振り回してさ、
それ全然怖くねえよ、って俺途中何度か噴き出したんだぜ?
何?俺があんまり怖がらなかったから罰ゲームか何かであそこ置いてくの?
それはちょっと酷いよ~」

「だから居ないって!」

 やれ居た、居なかったの押し問答は続いたが、
S君以外はそんな人物を知る由もなく、あまりに不気味なのでともかく車を発進させた。

 走り出して間もなく、S君が
「ちょちょ、ちょっと車止めてもらっていいか」
と車を止めさせ、ドアを開けて飛び出した。

 一同は
(アイツ、自分が何か異常なものを見てしまった事に気づいて、気持ち悪くなったんだな)
(まぁ、ひとしき吐かせたらスッキリするだろ)
(何だよ警備員みたいな奴って)
とS君を待っていたが、どうも様子がおかしい。
吐くにしては嘔吐くえずく声はしないし、隠すような茂みに入った気配もない。
(おかしいな?)と思って何人か車から降りると、
 当のS君が車の10mほど後ろに立ち


「この人だけど?」


と、何もない暗闇を指差している。

「いいの?この人ホラ、追っかけてきたじゃん」
「乗せてあげなよ」

 恐怖が一気に限界を迎え、一同は車に乗り込み急発進させた。
 後ろからS君の
「オーイ!置いてけぼりかよー!!」と怒りを露わにする声が聞こえたが、
それ以上に恐怖心がまさっていたのだろう、そのまま大急ぎで逃げ帰った。

 一同は(さすがに置いてったのはまずかったよな…)と思っていたが、
翌日、S君は何も言わず普通に大学に来ていた。
 あの後、結局何が起こったのかは怖くて聞けず、そのまま付き合いを続けている。


この記事は、猟奇ユニットFEAR飯によるツイキャス「禍話」の
2021/05/15放送 シン・禍話 第十夜
(https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/682725061)
1:53:50頃からの話を書き起こし、再構成したものです。

タイトルについては
禍話 簡易まとめwiki(https://wikiwiki.jp/magabanasi/)
に記載されたものを参考に致しました。

皆も聞こう!怖いゾ!


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