【禍話リライト】二十歳までに
占いにしても何にしても『人がいつ死ぬか』という事を聞いてはいけない。
高校時代からの仲の良い友人同士が、成人式を迎える年に皆で集まってお酒を飲んで騒いでいた。もちろん、中には未成年も居るのでそういう人は我慢してもらっている。
それでも周りが盛り上がっている中で一人、やけに暗く沈んでいる人物がいた。D君という男だ。
彼もまだ未成年だったので「まだ酒を飲めなくて輪に入れないから」凹んでいるのかと思い、友人らが話を聞くとどうも違うらしい。
D君が「これ、ちょっとバカバカしい話かもしれないけど」と語り始めた。
「高校時代、クラスでコックリさんやってた女子三人組がいただろ。あれ、俺は信じてないから内心バカにしてたんだ。
アイツらやけに真剣にやってたから、ちょっと怖くて近寄りたくなかったし。
で、いつだったか、俺が教室に残って勉強してる時にもアイツらずっとコックリさんやってて、
正直ボソボソうるさくて煩わしいから
『ちょっとそういうの、別の教室でやるか、もう少し声落としてやってくれないかな』
て頼んだんだよ。
キツく言ったつもりはないんだけど、何か気に障ったのか…アイツら、
「D君はいつ死にますか」
ってコックリさん始めたんだよ。そしたら、
【二十歳になる前に死ぬ】
なんて出たらしくて。
「二十歳前で死ぬって」
「うわー二十歳になる前に死ぬんだー」
とかこっちチラチラ見てるからさ、さすがに頭に来て机をガンッて蹴っちゃったんだ。
さすがにアイツら驚いて帰ってったよ。
で、あれ以来クラスでも疎遠になってそれっきりなんだけど、最近その事を夢に見るんだよ。
いくらなんでも…とは思うんだけど気がかりでさ」
という事だそうだ。
友人達は「D君、マジメな奴だし、マジメだからこそ、そういうの気にしちゃうのかもな」と心配して、
一人暮らしをしている彼の部屋に、誕生日前夜から皆で集まってバカ騒ぎをしよう、という運びになった。
当日、無事にD君を祝う会は盛り上がり、そのD君も友人らが自分を気遣ってくれたことが嬉しく、
やれ「皆飲め飲め」だの、やれ「俺も日付変わったら飲んじゃうよ」だのと皆に合わせて大いにはしゃいだ。
その後、時計の針が日付をまたぐと、D君を含めた一同はさらに騒ぎたてて
「おー、おめでとう!!!」
「やったなD!ほら飲め飲め!」
「高かったんだぞこの酒、旨いだろ!」
と、D君にお酒を飲ませ、初めての飲酒にD君も
「おう、旨いよ!」
「何でもないじゃないか!俺生きてるじゃん!!」
喜びを露わにし、周りの皆も「生きてるー!!」と、D君の様子に安心したという。
気付くと、トイレに行って戻ってきた一人がやけに盛り下がっている。何なら軽く酔いが醒めた様子ですらある。
D君の部屋のトイレは玄関に近いため、その中からは外廊下の音がよく聞こえるようになっている。
「外廊下で何かブツブツ言ってる奴がいる」
学生向けのアパートとは言うが、入り口もオートロックで住民も皆おとなしく、外廊下で騒ぐ、などという事は考えづらい。
「騒ぐっていうか、何か言ってるんだけど、それがどうも普通じゃないんだ」
戻ってきた彼の酔いは完全に醒め、もはや素に戻っていた。
この異変に、一同の中でも特に腕っぷしに自信のあるガタイのいい奴が玄関に向かい、のぞき窓を覗いたり、ドアに聞き耳を立てた。
「何か変な音が…ガリガリ音がするぞ」
もう一人が「俺も俺も」と同じくドア越しに音を聞くと
「…うわ、うわぁ、これ、ダメだ…! これお前、10円玉で壁擦ってる音だよ…!」
「あとこれ、一人じゃないよ、何人かでやってるよ…」
「何かブツブツ言ってる、ブツブツ言ってるぞ…?」
怯えている横で、再び先程のガタイのいい男が
「ちょっと静かに、もう一回聞いてみる」
と、周りの皆を黙らせ、一人ドアに近づいてその音を確認した。
「…中、部屋ん中戻れ、部屋ん中。玄関にいちゃダメだ」
一同は「何、何」と騒ぐが「いいから早く」と、玄関から部屋に戻った。
「俺もあの三人とはロクに話したことないから、口調なんてとっくに忘れてるけど…」
三人ぐらいの女が壁に10円玉を擦り付けながら
『コックリ様のおっしゃる事は絶対だから』
というような事を、三人が三人ともバラバラの方向に向かって言っているという。
少なくともその三人は、D君の近くに住んでるわけでもないし、大学も違う。
「怖えよ。コックリさんじゃねえぞ、コックリ様、つってんだよアイツら。で…」
『コックリ様のおっしゃる事は絶対だから、D君は間違いなく死んでいる!』
『男子はバカばっかりだから!感覚だけで物事を捉えて、肝心な事に気づいてない!!』
『バカばっかりだ!!本当は死んでいるのに!!コックリ様のおっしゃる事は絶対なのに!!』
と、それぞれがバラバラの方向に進みながら言っているそうだ。
「ヤバくない?」
「警察呼んだ方が…」
いよいよ、事の異常さにこの場の全員が危機感を覚えた。
慣れない酒で気が大きくなってしまった、当のD君を除いて。
D君は再び玄関に向かい、ドアに耳をつけて
「おう、やっぱりそうだ。俺が死んでる、つってんな」
「俺は死んでるか!?死んでねえよな!?」
部屋の中の友人らに言うが、もう事態はそれどころではない。
「いや、うん、そうなんだけど」
「これはもう警察とか呼んだ方がいいと思うよ…?」
と、D君をなんとか落ち着かせようとする。
が、事もあろうに「大丈夫、チェーンかかってるから!」とドアを開けてしまった。
開けた途端、ボソボソと聞こえていた声が大きくなる。つまり、その三人は間違いなく外にいるのだ。
それでも尚『D君は死んだ!』と言い続けている三人にD君が
「ふざけんな!!俺は生きてるぞ!!」と怒鳴った瞬間、
バラバラの方向を向いていたであろう三人が
『『『嘘だッッッ!!!』』』
と、入り口に向かって一斉に駆け込んできた。
驚いてすぐにドアを閉めたが、
『嘘だーッ!!』
『お前死んでるだろォ!!』
『嘘をつくなァ!!』
外からドンドンドン、とドアを叩きながら三人が叫んでいる。
さすがのD君も酔いが醒めて部屋に引っ込み、皆で中扉も閉めて警察を呼んだ。
ほどなく警察が来る頃には、10円玉を擦る音も、三人の声もしなくなっていた。
事情を説明するために一同は外に出たが、
不思議な事にあれだけガリガリと10円玉で擦られてたであろう壁には、傷一つなかったという。
説明を聞いていた警官が「君達、酔っぱらってたから何か間違えたん…」と途中で黙ってしまった。
急に黙り込んで何事か、と一同が警官の視線の先を見ると、
入口のドアだけは、10円玉で引っ搔いたような傷が無数についていたという。
気味は悪い、が、他に何か被害があったわけでもなく、
警官も「また何かあったら交番までお願いします」と帰ってしまった。
「何なんだよアレ怖えよ」
「生霊が飛んできたとか?」
「やめろよ怖い」
などと怯えていた一同だが、「そうだ、同じクラスの女子に事情を聴いてみよう」と
今は水商売をしている当時のクラスメートに電話をかける事にした。
時間は夜中であったが無事電話は繋がり「夜遅くにごめんね」とつい先程起こった出来事を伝え、
「警察まで来て大変だったんだよ。あれって生霊とかなのかな?アイツら今なにやってるか知ってる?」と尋ねた。
「あー、男子は知らなかったんだっけ」
「え?」
「あの子達ね、今年の頭、三人一緒に首吊ってんのよ。
ほら、あんまり大っぴらには出来ないしさ、女の子達だけで黙っておこうってなったの」
彼女が言うには
「そう、あの子達ね、今年の頭に死んでるんだよ。
あの子達、三人共1月ぐらいが誕生日でさ、
成人迎えた後に三人で…ほら、学校の裏に校舎が見下ろせる山があったじゃない。
あそこでそれぞれロープ引っ掛けて首吊ったんだって。
で、アタシんトコのお客さんの中にお巡りさんが居てね、その現場に行ったらしいの。
現場には遺書みたいなのが三人分あったんだけど、それがどうも意味わかんなくて
『一人で寂しく死ぬわけじゃない』
って書いてあったんだって。三人が三人とも同じ内容でね。
三人一緒で死ぬから寂しくない、って意味なのかなーってアタシ思ったんだけどさ、
今こうして皆の話聞いたら、多分違う意味なんだなって思っちゃった。
うん、『D君が』一人で寂しく死ぬわけじゃないって事じゃないかな。
っていうのも、この遺書が三人とも左のポケットに入ってたんだけど。
右のポケットにね、10円玉が入ってたんだって。
アタシ皆の話聞いたらメチャクチャ怖くなったよ。D君、お祓い行った方がいいよ」
その後、D君どころかあの場にいた全員がお祓いに行ったそうである。
コックリさんは、やらない方がいい。
この記事は、猟奇ユニットFEAR飯によるツイキャス「禍話」の
2020/03/14放送 ザ・禍話 第一夜
(https://ssl.twitcasting.tv/magabanasi/movie/599438369)
18:57頃からの話を書き起こし、再構成したものです。
タイトルについては
禍話 簡易まとめwiki(https://wikiwiki.jp/magabanasi/)
に記載されたものを参考に致しました。
皆も聞こう!怖いゾ!
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