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自由に捕らわれる。感想文②

↑前回のEP初見感想 見なくてもいいかもしれません
ネタバレ有 小説を見てからこの文書を見るのをお勧めします。
今回は小説の感想です。


自由に捕らわれる。を読了し、この身に起きた変化

姿夜と琥太郎のことしか考えられなくなりました。
仕事中、通勤中、あらゆる場面で小説のワンシーンが頭に浮かんで、自分は小説を読んだだけでなにもされていないのに謎のダメージを食らって落ち込んだり唐突にテンションが上がったり。明らかに自律神経とか、そういう心を制御する部分が狂わされてしまいました。

それがこのnoteを書き始めた動機でもあります。文章化したら何か見えてくるかもと。考えさせられる~とか感想でよく聞きますよね。こちらは物理的に考えさせられています。脳を支配されて。
実際感想を文章化するのは思ったより楽しくて、さっさと退勤して家に帰ってパソコン開くようになりました。そんな感じで書いていきます。

まず、この文書では小説内の読み進めるページ毎の感想ではなく、自分が「いいな」と思った部分をかいつまんで書いていきます。
フィーリングで書いている部分が大きいので、「こいつ何言ってんだ」となるかもしれません。記憶力が悪いので場面場面でしか思い出せないんです。もしかしたら存在しないシーンとか間違えて覚えてる所もあるかもしれません。でももう一回読んだら鮮度が悪くなっちゃうので、このままでいきます。
ただ、もう一回読んだら第二弾出ると思います。それくらい消化しきれていないので。

類瀬姿夜について


17歳の、家庭環境のあまり良くない男子高校生。熱中できるものはそれほどなく、どこまでも受動的な印象。
家族や大人と話す時は敬語を用いて、同年代の友人と会話する時は敬語は抜けて少し口の悪い部分も出る。
彼は琥太郎と出会うより前から、「自分は言われた教えは守らなければ」と本心から思っていたのでは。例えるなら、命令を待つ犬のような。ですがこれは「自分ではどう頑張って反抗しても大人には勝てない」という諦観によるもので、琥太郎に出会ってからは「琥太郎さんだけ信じていればいい」「この状況で何をしたら琥太郎さんに喜んでもらえるだろう」と思考が琥太郎ベースに変化しています。やはり犬ですね。でも素は少し悪い子寄りだと思います。だからこそお手本が必要だったのでしょう。

そして、本人の自認は子供なのにありえないほど大人びています。中学生、高校生なんて一番わがままを言いまくりたい時期なのに、人生初の恋人にひたすら従い、できる限り尽くしていた。それは前述した「琥太郎さんだけ信じていればいい」という考え方由来ですね。その方が楽だ、と思ったのかもしれませんが、もしくは琥太郎に尽くすことこそが彼の一番の贅沢なのか。「僕は子供なので好きと言ってほしくなることもあります」と回想している場面もありましたが、なんにしてもここまで尽くすという行為を実行できているのはあまりに大人すぎます。
そして、自分はこう考えるに至りました。本当は琥太郎と出会う前から彼は既に大人で、琥太郎と出会って彼はやっと子供返りできたのではないかと。琥太郎の方がきっと子供サイドの人物で、姿夜と仲良くなったのもグルーミングの成果だと言えばそれまでですが、それ以上に呼応する部分が多くあったのでしょう。例えば、姿夜は琥太郎の匂いが好きですが、遺伝子的に相性のいい人の匂いはフェロモンの様に反応するそうです。そして、遺伝子的に相性の悪い血縁者の体臭は悪臭だと感じやすい。父の体臭についても言及があったので、単なる匂いフェチではなく根拠のある相性の良さについての補強、もしくはその両方かと思います。それに、性格面もまるで凹凸がぴったり合わさったように相性がいいです。これらを踏まえると、’’身内に反抗したい子供がまんまと知らない大人のグルーミングにあてられて何もわからないまま消費される’’状態とは一線を画していると言わざるを得えません。小説内でも既に描かれていますが、二人の間には確かな愛があったのです。

未成年淫行について

ですが、30代の大人が15歳の中学生に手を出すのはみなさんご存じの通り犯罪です。2年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金。
そこで、美生心が「犯罪だ」「琥太郎は加害者だ」と一貫した姿勢なのがもう100点でした。世の作品は未成年淫行にだいぶ寛容で、自分はその部分で引っかかることが多かったので、一文だけでもこう書いてくれたのがとても嬉しかったです。

佐村さんが「犯罪だろ」と同じ姿勢なのも印象的でした。語り口からひょうきん者なイメージですが、塾講師として、姿夜に殺人の疑いを掛けながらも職業柄、「子供は庇護しなければ」という気持ちはあるのがキャラクターに深みを感じさせます。
あと、塾講師という職業に就いたからにはそれなりの理由があるはずで。子供が好きだから指導者としての道を選んだとするなら、愛する人と子を成すことのできない同性愛者だというのが、努力なんかではどうしようもない綻びやしょうがなさを感じて好きです。

水野琥太郎について

終始、姿夜の一人称視点で進んでいくので、本人がどのような気持ちで生きていたのか最初は全くわからない、最後まで読んだとしても彼の1から100までは把握できない人物。

前述した通り、彼は指導者の割には子供らしい部分があります。彼を構成する要素として、本質は「家族が欲しい」なのではないかと。だから誰かに好きだと言われたら拒絶はしない、少なくとも両親が亡くなってから百合香に告白されるまで、本当に空っぽだったのだと思います。指導者として姿夜に盲信されている彼ですが、本当は芯が無いのは琥太郎の方で、対照的に姿夜はしっかりと「琥太郎さんの言いつけを守る」という芯をどのような状況でも守ろうとしていますし、琥太郎には決して見せない本質的な育ちの悪さという生まれ持った性質も持ち合わせています。作中でも「姿夜のそんなところを見て本当に恋に落ちた」というような表現をされています。
姿夜にとって彼は間違いなく光でしたが、それと同じように、彼にとって姿夜の存在もまた眩しい光だったのでしょう。

ただ一つ思ったことがあります。彼は魔性の男だったのではないかと。
まず、高校時代の肉体関係がかなり荒れていたと明言されています。まず、作品内ではTwitterがXになったばかりとされているので今は現代だとして、現在37歳の琥太郎が高校生の頃なので、約20年前だと仮定します。考えてみると、その時代に高校生で自分のセクシャリティに気付き、同級生と性行為に及ぶ人間はどれほど居るでしょうか?それは彼がノンケでも構わず食っちまうような、ではなく、ノンケでもその気にさせてしまう魔力があったからなのではないでしょうか。
根拠として、彼は容姿が端麗であるという描写がされています。琥太郎にベタ惚れの姿夜の目線ですが、各地を転々としながら至る所でセフレを作れる程度には見た目が魅力的であり、彼と深く関わったほとんどの人が彼に精神的な魅力を見出しているのです。

ただ彼自身の自己評価は最悪であり、詳細を聞けば「まあ最悪か」となる程度には実際最悪なのですが、「中学時代両親を亡くしている」と聞けば、最悪な遍歴を辿った理由として納得できてしまう。
そう、納得できてしまうんです。教えたがりで、でも子供らしくて、ようやく見えた本性は最悪で、そしてこのバックボーン。「最悪でも、それでもいいキャラだ」と読者すら思ってしまう。これこそが彼の魔力なのです。

百合香さんも佐村さんも姿夜も、そんな彼に狂わされた人の一人なのだと思います。

姿夜と琥太郎について

まず、前述した通り二人はとんでもなく相性がいいです。
単純なところで行くと、教えたがりで導きたがりな琥太郎となんでも他人に決めてほしい姿夜。自分のことが好きな人を好きになる性質の琥太郎と引っ張ってくれるのであればどこまでも無償の愛と盲信を捧げる姿夜。
対照的な部分でさえそれぞれ惹かれ合い、唯一合わないピースは愛情の確認という部分だけだったように思います。お互いが「自分がこの人を愛してしまっていいのだろうか」と葛藤していて、お互いが想い合っていると気づいても尚、嫌われないように悪いところはひた隠し、実際想いを伝え合ったと思えば琥太郎は話し合いもせず遺書を書き留め自死を選んでしまった。

自分は、この物語を読んでから「もし琥太郎が死ぬ前に姿夜が家に行っていたら」など考えられずにはいられなくなりました。そして毎回同じ結論にたどり着くのです。
どんな形であれこの物語の姿夜は前を向いて笑って泣いて、空虚な心に琥太郎が詰め込んだ人生を糧に生きている。
ここが間違いだからこの道に進んだ方が幸せになれたのではないだろうかとか、こうしたら正解だったのにとか、そういった成功、失敗、正解、間違いの話ではないと。進んだ場所が間違いだと思ったとしてもその間違いが遺したものを抱えて生きていくしかないし、だからこそ得られるものがあるはずだと考えました。
琥太郎が昔から品行方正な教師だったら姿夜には出会えなかったように、琥太郎が死ななければ姿夜は美生心と出会えなかったように。

でも!かといって!if作品で!姿夜と琥太郎がイチャイチャするだけの短編が出たら!100万部!5000億部買いますけど!小説1冊でここまでさせるのは流石の文章力と構成力としか言いようがないですよね!いいぞ!おれ1人で受賞させてやる!全人類買ってド受賞だ!うおお!走れ!

姿夜の愛らしさについて

みなさん、ここから暴走ターンに入ります。これについて語れる所がないの本当に辛いのでここで吐き出します。

まず、170センチで、本当にありがとうございます。外見は高校生だとわかる程度のあどけなさが残っていると思うのですが、内面はとんでもなく大人びていて現実をしっかり見ている子。それでいて琥太郎のことになるとどうにも叶わない未来なんかを妄想してしまう部分。ここを「子供らしい」というにはあまりにも残酷ですが、そういうところがたまらなく健気で、確かにこんな可愛い敬語男子中学生が懐いてきたらポテト奢っちゃうし家上げちゃうし欲しいものなんでも買ってあげたくなりますわ。しかも実際は懐いてるなんてレベルじゃなく「琥太郎さんの言う事だから」と自分の前では頑張って言いつけを守っていたとか。本当はアイスのゴミをポイ捨てするような悪い子でも自分に合わせるため同じ本を読んで、好かれるためにいい子でいたとか、こんな、こんな愛らしい。
しかも、琥太郎目線ではそんないい子が自分との接触に嫌な顔一つせず「もっと嚙んで」だなんて言ってきたときた。多分ここで琥太郎出て行ったの頭を冷やすためだと思うんですよね。この、良心の呵責ってやつ。違いますか?あっ そうすか。でも、帰ってきたらその可愛い子が真っ赤な顔で自分のスーツ嗅いで鼻血出してたとか。こんなん可愛いって。トチ狂う気持ちもわかりますよ。わかっちゃダメなんですけど。
そして、355ページ。355ページからです。 こんなこと、あります?普通にドカ泣きしましたし、高校生でこれ言えるのなんなんですかね。もう、やばい。空虚に生きてきた子がやっと信じられる、愛せるものを見つけて、無くして、無くしたことを直視して出る言葉がこれってよ。こんなことってあるか。ここまで言ってももう戻ってこないんだよ。辛い。辛くなってきた。胃がキリキリする。自分がこの小説をここまで引きずっているのはこのシーンあってこそなのかもしれない。というか絶対そうだ。
姿夜が琥太郎との生活とか、琥太郎さんなら~とかいう度とてもつらい。ラインに琥太郎宛ての文章送ってるとことか、遺体の手に頬擦りするところとか、辛すぎる。何食ったらこんなん書けるんだよ。チリトマトか?(最大級に褒めています!)
やばい。自傷みたいになってきた。そろそろ畳みます。

次回へ――

とても読みやすい小説で、読んでいてとても楽しかったです。
普段一ミリも小説など読まない自分でも500ページ近い本を一気見しました。見た目の分厚さと表紙の難しそう感で怖気づきますが、小説初心者の方にこそおすすめしたい本ですね。
自分のこれからの人生、脳にこの本の内容を刻み込めたことがとてもうれしいです。
そして次回。小説を読んでからEPを聴く回です。多分次で最終回になると思います。乞うご期待。

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