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やさしいうそは誰がためのうそか

人はみなうそをつく。

最初についたうそを覚えているだろうか?記憶はないがきっと大勢の人が同じようなうそをついただろう。まだ肌もツヤツヤで、器用に箸も持てなかったころ。大人に叱られて咄嗟についたうそ、「わたしじゃない」ぼくじゃない。大方、壁に落書きをしたかこっそりお菓子を食べたか大人の大切にしていたものを壊してしまったか。まだ手も足も小さく一人でプリンの蓋を開けられない。なにもできない私たちは、ちいさくてぎこちないうそをついて大きくなった。

大人に怒られたくなくてうそをついてきたこどもはいつしかプリンの蓋を開けられるようになり、靴紐も結べるようになり、うそも上手になっていく。

「元気だよ」

元気じゃないけれど、目を細め口を横に引き伸ばしこう答える。

「大丈夫」

自分に言い聞かせるようこう答える。

「平気だよ」

かなしい、さみしい、くるしい。けどまだ大丈夫。慣れっこだから、こう答える。

喉がひりつき胸の奥がきしむそのうそは、誰がためのうそなのか。

うその言い訳もさえもうそだと知らず

強がってしまう、迷惑をかけたくないから。

我慢してしまう、相手のことを思うとそうしなければいけないから。

押し殺したかなしさもさみしさも、伝えたかった言葉も気持ちもただ「あなた」のためを思って飲み込んだ。あなたは忙しいから。あなたは今とても大変だから。私が元気でいなければ。あなたに力をあげられるくらい、あなたが笑顔になれるくらい明るくいなければ。

飲み込む言葉が増えるほど取り繕ううそが重なるほど身体の中でほんとうに伝えたい言葉が風船のように膨らんでいく。

ほんとうは元気じゃない。

ほんとうは大丈夫じゃない。

ほんとうは平気じゃない。

ほんとうは「あなた」のためじゃない。

弱ったときに支えられる強い人でいたい。悲しいときにぎゅっと抱きしめられるやさしい人でいたい。苦しいときにそばにいて手を握っていられる芯のある人でいたい。そんな私でありたい。あなたの中だけでは世界で一番すてきな人でありたい。

だから今日もあなたの前で笑ってる。

あなたも私の隣で笑ってる。

何にも知らないくせに、と。

やさしいうそは誰がためのうそか。


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