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日記。スーパームーンが霞む夜。

南窓から眺める空には薄い雲に覆われたほぼ満月。開け放した北窓からはリュンリュンという控えめな虫の音が忍び込んでくる。

月が満ちる夜は、何かを手放すタイミングだという。

愛しい彼の命が突然奪われたのは、真冬の満月の夜だった。空っぽのソフトケージを提げて雪道を歩きながら見上げた空にぽっかりと浮かんだ月に、胸が押し潰されそうな不安の中で「どうか助けて。救って」と祈ったのに。

深過ぎる悲しみと、淋しさと、後悔と、懺悔。常に傍らにいた彼がいない。その虚しさが埋められない。「まだまだずっとここにいて。そばにいて」と願った。

庭の草取りをしている時にカァカァとずっと話しかけてくるカラス。早朝、人っこ一人いない街を歩くわたしのすぐ横の道路に降りて来て歩いたり、わたしの後を追うように飛んでついて来たカラス。わたしの言葉に応えるように窓の外で鳴くカラス。黒い姿は彼の化身なのかな、見守ってくれているのかな、と思っていた。

わたしが執着して引き留める限り、彼は安心してあちらの世界に行けないのかも知れない。これってエゴかな。彼が可哀想かな。

退院したばかりで疲れやすかった頃、日中に寝室で休んでいたら、屋根の上をカラスが飛び跳ねて大騒ぎした。思わず、「こら、ちょっとうるさいよ。もうカラスにならなくていいから、ここ(お骨)にいて」と呟いた。すると、ピタリと足音が止んでカラスは飛び去った。

その時から、家の中でも彼の気配を感じなくなった。夢にも出て来てくれなくなった。心配してそばにいてくれたのに、ひどい言い方だったかな、傷ついちゃったかな、ごめんね。そう思っても後の祭り。

先日、瞑想をした際に、いつものようにちょこんとヨガマットに座ってわたしを見つめた彼がピンクの光に包まれてキラキラと輝きながら薄れていった。ようやく成仏できたのかな。今度こそ、本当に空に昇ったのかな。

艶々の真っ黒な被毛の可愛いダックスフント。彼の名前はSUNという。

あれから満月を見るのがずっと辛かったけれど、少しずつ心の平穏を取り戻せて来ているのかも。今夜の月が霞んでいるのはわたしの悲しみのせいじゃない。

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