「言葉のUniversal Design」のすすめ。
はじめに
私は「世界中で他者理解が進み、合理的配慮の行動が広がれば、社会から障がいはなくなる」と考えています。
ブレイディ みかこさんの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」という本の中でも「無知であること」が摩擦の要因として取り上げられています。
そして、私たちは日常会話やプロダクト開発の中で「言葉」を使っています。しかし、今私たちが使っている言葉の表現は本当に適切な表現でしょうか?
世界には色々な人がいて、多様性の社会です。そのため「適切に言葉を選び、みんなにとって心地よい表現を扱うこと」は非常に大切なテーマです。
この記事では、これまでの私の人生を通して、巡り合った「適切な言葉の表現(言葉のUniversal Design)」をまとめました。
(※ 本記事の内容は、個人の見解です。)
前提とする概念
Universal Designとは?
Universal Design(UD、ユニバーサルデザイン)は「障害者の権利に関する条約」において、以下のように定義されています。
このようにサービスの設計に合理的な配慮を組み込んで、みんなが使いやすいデザインにしようという内容になります。もっと詳しく知りたい方は以下のリンクをご覧ください。
言葉のUniversal Designとは?
言葉のUniversal Designとは「誰が触れても心地よい言葉のデザイン」という風に定義しています。
この記事のために定義した造語になるため、あまり聞き馴染みはないかもしれませんが、社会にこういう概念が広がると嬉しいなと思います。
1. ポリティカル・コレクトネス
ポリティカル・コレクトネス(Political Correctness; PC、ポリコレ)とは、「偏見や差別を含まない中立的な表現を用いること」です。デジタル大辞泉では、以下のように定義されています。
ここでは、ポリティカル・コレクトネスの具体例をいくつかまとめました。
1-1. 性別に関連する配慮
性別には、多様な価値観が存在します。
例えば、性自認(性の自己認識)や性的指向は人によって異なります。また、職業において、性別のイメージを植え付けられていることでデメリットを受ける人もいます。
ポリコレの例として、上記の点を配慮した表現は以下の通りです。
保母・保父 → 保育士
看護婦・看護士 → 看護師
ビジネスマン → ビジネスパーソン
カメラマン → フォトグラファー
彼氏 / 彼女 → パートナー
Ladies and Gentlemen → Everyone
1-2. 人種への配慮
アメリカ・インディアン → ネイティブ・アメリカン
黒人 → アフリカ系アメリカ人
1-3. 身体的特性への配慮
肌色 → (より具体的な色)
美白、ホワイトニング → ブライトニング
1-4. 宗教への配慮
メリークリスマス → ハッピーホリデーズ
個人的な見解
ここからは私の個人の見解と意見を記します。
誰一人社会から取り残さないために、私はポリコレは必要だと思います。
一方で、ポリコレ上の不適切な表現をしている人たちに対する批判的な声に関しては、現代における過激な批判ではなく、より寄り添ったコミュニケーションを取る必要があります。生まれてから、一人一人異なる環境で教育を受けてきたため、価値観や理解の違いが生まれるのは当然です。また、どちらの方が価値観として正しいという絶対的な答えはないため、それぞれの価値観や意見を共有して、最適な解を導いていけるといいなと思います。
最後に、自分が大切にするべきだと考える考えが2つあります。
常に前提として、多様な価値観や背景を持った人がいることを「意識」すること。
多様な価値観や背景に触れて、相手が不快に感じない言動を取れるように他者理解と合理的配慮の「努力」をすること(そして、自分自身を大切にする努力もすること)。
2. インクルーシブなIT用語
アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけに始まった人種差別抗議運動であるBLM(Black Lives Matter、ブラック・ライブズ・マター)をきっかけとして、様々な言葉の表現がITの分野で見直されました。例えば、エンジニアがソースコードを管理するためのサービスであるGithubでは、以下のようにサービス内の用語が改定されました。
master → main
slave → replica
これ以外にも、Django、Railsなどの他のOSSにおいても変更が動き出しました。具体的に、他の用語での代表的な変更例を下記に示します。
Whitelist → Allowlist
Blacklist → Denylist
Man hours → Person hours
Sanity check → Quick check, Confidence check
Dummy value → Placeholder value, Sample value
Master / Slave → Leader / Follower, Primary / Standby
より詳しく知りたい方は、インクルーシブ活動としてIBMが公表している"IBM Inclusive IT Language"という文書をご覧ください。
3. 個性ではなくダイバーシティ
2021年の日本発達神経科学会では、タイトルが「発達障害からニューロダイバーシティへ」という題目でした。
実際に、私が学会に参加して、このタイトルの趣旨の説明を聞いたところ、「個性ではなく、ニューロダイバーシティ」という言葉を選択したことを知りました。
「個性」という言葉からは、ポジティブな才能を期待する印象を持たれてしまうため、「ニューロダイバーシティ」という単語が適切だと考え、選択したそうです。この話を聞いた際、普段「個性」と何気なく使っていた自分に対する反省をしました。
個性 → ダイバーシティ
4. 色覚多様性
人によって、色の見え方や感じ方は異なり、このことを「色覚多様性」と言います。かつては「色盲」や「色弱」と言われていましたが、こちらは人によってはネガティブに受け止める可能性があるため、推奨されていません。
色盲、色弱 → 色覚多様性
5. その他の差別用語
上記の他に、日常生活の中で知らず知らず刷り込まれている可能性のある差別用語を兵庫県が以下のドキュメントを公開しています。
こちらも一度を目を通すことを推奨します。
https://www.city.takarazuka.hyogo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/021/755/sassi19.pdf
6. 漢字の表記
漢字の表記に関しても配慮が必要なものがあります。
障害を持つ → 障がいのある
子供 → 子ども
県下 → 県内
特に、上記の中で「障がい」に関して補足すると、障がいは持たされるものではなく、あるかないかというものであるため、「持つ」という表現ではなく「ある」と表現する方が良いという考えがあります。また、害があると誤解されないため、「がい」をひらがなにする方が良いと考える人もいます。
しかし、ホームページなどで「障がい者」と書くと、音声で再生した時に「さわりがいしゃ」と読み上げられる場合があるため、表記に関して明言した上で、「障害者」と使う場合もあります。
終わりに
いかがだったでしょうか?
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
もしも表現に対して共感していただくことができましたら、ぜひ明日から表現を変えてみていただけますと、著者としては非常に嬉しいです!
「言葉のUniversal Design」は時代や地域によって刻々と変化する考えています。この記事にも網羅できていない適切な言葉の表現(著者もまだ知らない表現)もまだまだあります。
社会が変革していく中でも「他者理解と合理的配慮」は普遍的に大切にすべきだと考えています。言葉を相手に投げた時「相手はそれを不快に思わないか?」ということを投げる前に吟味するだけで社会はきっと素敵なものになっていくと私は信じています。
そして、著者は「他者理解と合理的配慮」が世界により広まればいいと考えているため、もしも共感できた方はぜひ周りの方々にもシェアしていただけますと大変嬉しいです🌟
補足①:自己紹介
「障がいのない社会」の実現に向けて、「研究者 / 開発者 / 教育者」の立場として、多岐に渡り活動中(twitter)。
補足②:Advent Calendarについて
この記事は「LITALICO Engineers Advent Calendar 2021」の23日目の記事になります!明日は、@kamesenninさんの記事が投稿予定です👍
去年の「LITALICO Engineers Advent Calendar 2020」で書いた記事も、興味のある方はぜひご一読くださいm(_ _)m
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