一匹狼は、きっともう月を見ない
「好きな動物と天気の組み合わせ」でchaoさんにTwitterのアンケートを募集してもらい、
1番投票が多かったものをテーマにしました。
同じテーマで書くのどきどきしながら、楽しませていただきました。
テーマ:月と狼 です。
※念のためにですが、自作発言や転載は控えてほしくて…(大丈夫とは思いますが!)
もし、読んでくださる場合は読みやすいように改変など歓迎です。
イメージは男性ですが、改変などして女性が読んでくださっても嬉しいです。
もし楽しんでいただけたら、とても嬉しいです!
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「知ってる?狼って愛情深い生き物なんだよ」
そんな風に笑う君のことを、思い出す。
一匹狼、だなんて僕は自分を思っていたけど、思えば君に惹かれていた。
自分は昔、魔女に呪われ、満月の晩には狼になるようになってしまった。
それ以来、人と関わるのを避けてきた自分の懐に、君はひょいっと入ってきた。
君は、少し変だけど、優しい人だった。
君と初めて会ったのは森の中だった。
一人静かに暮らしていたら、ふらふらと君が来て、そしてどさっと倒れた。
真夏に森に来て、なんなんだと思いながらも急いで涼しい木陰に連れていき、休ませていた。
君は、ごめんなさい…と謝り、ありがとうございますと焦りながらお礼を言った。
そして、少し時間が経ち、落ち着くと…ここ、素敵ですね…空気が気持ちよさそうで…一度、来てみたかったんですと言った。
来るのは良いけれど、この季節は止めときなよと言う僕に、君はすみませんと少し笑う。
君は、花が綺麗とか水辺が綺麗とか色々言ってから、ここに住んでいるんですかと聞いた。
そうだと答えると、そうですか…と何を思ってるかわからないような、そんな返しをした。
「また、これたらいいですか?これなかったら…すみませんが…」
そう言う君を変なやつだと思いながらも、悪い気はしなくて…いいよと答えてから、良く来るようになり、話すようになった。
君は何も否定しないような、不思議な人だった。
暑い日差しを、眩しくて夏って感じでいいと言い、雨が降って天気が悪くても、いつもと違う景色が見れて嬉しいと言った。
馬鹿だなぁと思いながらも、いつもなんだか嬉しそうな君を見ているのは楽しかった。
いつも君は昼に来て、夕方くらいには帰る。
それまでの時間がとても楽しかった。
だから、油断していた…君が夜にも来るなんて。
満月の晩、僕はいつも狼になる。
月の周期は大体把握しているが、多少ずれることもある。
なんだか眠れなくて、外を歩いていたら、自分の様子がおかしくなり…あっ、今日か…と気づいた。
変わり果てた自分の姿に、嫌気がさし…思わず自分から目をそらしたその時、ガサッと草の音が鳴り、そこに君が居た。
どうして…と、もうだめだ…が頭に同時に走った時、
君が「うわぁ、かっこいい…」と言った。
呆気にとられて、怖くないのかと聞く僕に、よく分かんなそうな顔で、私、狼好きなんだよねと話しだした。
「狼ってまるで一匹でも大丈夫みたいなイメージがあるけど実は愛情深くて、つがいが先に亡くなると残された方は、餌を食べなくなっちゃったり、餓死しちゃうんだって」と言って、「君も怖そうに見せてるけど、実は優しい」と笑った。
何言ってるんだ、と返事しながらも初めて言われた言葉が心に明かりをともした。
長い間 森で暮らした僕はいつだって、怖がられることに、傷つけることに怯えていた。
だけど、この人は…と初めて人と居たいと思った。
もう、これで何も気にせず、一緒にいられる…そう思ったのに、君といられる時間は長くなかった。
君は病弱で、元々長くはなくて…それでこの森に来たのだという。
小さい頃に、きれいな森だと思った記憶があったから、もう一度行ってみようかと思ったのだと。
そして、「あのね、もし、もし…人の血や肉をあなたが欲したとしても…私、あげてもいいよ。それでもあなたが好きよ」と言った。
馬鹿言うなよと言ったが、君はてへへと笑う。
僕はお返しに、「僕がなにかしようとしたら、銀の弾丸で打っていいよ。君が生きて幸せなら、ね」と言った。
君は不機嫌な顔をしたが、今は何とか自我を保てるが、いつか襲ってしまうんじゃないかと内心、僕は不安だった。
僕は君を傷つけないか、傷つけるなら死んだほうがと思ったし…君は僕を狼男のまま、愛そうとしていた。
うぉーんと小さく鳴いた、それが静かな空間に響いた。
…僕は一匹狼だ。
優しい君は、もういない。
君は病気でしんでしまった。
僕が血肉を食べたわけじゃない。
それでも、あっけなくしんでしまった。
うぉーんとまた、鳴いてみた。
狼の僕と居てくれる君は、もういない。
「狼って、愛情深くて…つがいが先に亡くなると、
餌を食べなくなっちゃったり、餓死しちゃうんだって」
君の声が聞こえた。
困ったなぁと僕は弱々しく笑う。
なんだか おなかだろうか…どこかが、空いている気がした。
満月が僕を照らした。
君くらいしか好いてくれなかった、弱く愛情深い、一匹の狼を…。