おもい
徐々に記憶が消えていく。美しい走馬灯は人生の引退パレードだったらしく、記憶は私より先に雲の上に消えようとしている。残っているのは、感情のようなあやふやなもの。
天国へ行けるものだと思っていたら、一向に景色が変わらない。見慣れた景色を少し高いところから見下ろしている状況が、思いの外長く続いている。体は土に還ったにも関わらず、未だに現世にいる奇妙な状況に、私は戸惑っていた。
街中を飛び回って、心(心は消える気配がなかった)を落ち着かせる。
彼を見つけた時、すぐに憑いた。意志とは別の力で引き寄せられて、私もそうするべきだと思ったから、何も迷いはなかった。
彼からは認識されないけど、間近にいられるのが幸せだった。
次第に、なぜ成仏できないのかを考えるようになった。
未だに彼のことを愛しているからだと思った。
嫌いなところを探した。どんなことにもケチを付けようとがんばった。
でも、嫌いになれなかった。
別れが訪れてから数日後の夜、彼が私の名前を呼びながら泣いているのを見た。未だに私のことを愛してくれている人を、嫌いになれないし、嫌いになって良いわけがなかった。
別の日に「さびしい」と呟くのを聞いた。
その時にやっとわかった。
ただ愛しているからじゃない。
私だってさびしい。二人がさびしいと思っているから、その想いが私をここに留まらせているのだろう。
あなたと共に行く。
その日までずっと、透明なまま、あなたの側であなたを守る。
(NOMELON NOLEMON「ゴーストキッス」を元に書いてみました)
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