ラーメンとパンケーキ
週末のお昼、さあ何を食べようと
話してる時の、彼と私、それぞれの頭の中。
彼「(ラーメン...)」
私「(パンケーキ...)」
インスタントラーメン。
『マ◯ちゃん正麺』
365日中、土日含めたおそらく325日以上、
規則正しいリズムで生活をしている彼が、
好んで食べていた昼食。ラーメン。
今日、初めて
「お昼はラーメンがいいな」
と私は言った。
麺を茹でている間に、
野菜とお肉を別のフライパンで炒める。
火が通った頃、
スープの素、茹で汁、麺の入った器に、
炒めた野菜を乗せて、
テーブルまで運んで来てくれた。
自信満々の表情だった。
本当に美味しいと思った。
これまで、
「ラーメンは嫌かな」
「ラーメン以外なら何でもいいよ」と、
シャットアウトしていた事が、
申し訳ないと思った。
「美味しい?良かった。また作るね。お腹いっぱいになったら残していいからね。」
そう言って、
録画していた『チコちゃん』を観ながら
無心で食べる彼を横目で感じ、
なんて愛おしいんだろ...と、
私も豚骨スープによく絡んだ細麺をすすった。
実家にいた頃、土日の昼食どき、
ドヤ顔でインスタント麺を
嬉しそうに作っていた父と、
思わず重ねてしまった。
ラーメンとカレーは、父の得意料理だ。
2つに限っては、正直、
母よりも美味しいと思っている。
父も、野菜はよく炒めて
最後に麺に乗せるスタイルだ。
考えたら、それが世間では普通なのか。
とも一瞬思うが、
洗い物が増える工程には間違いない。
やっぱり、そこまでこだわる人(男性)は
少ないのではと、私は思う。
彼はいつも、
私のしたい事、食べたいもの、
気分を優先してくれる。
先週は、「桜を見に行きたいな」と、
「お昼はパンケーキが食べたい」と、
30分以上の行列に付き合ってくれた。
カフェご飯では物足りなさそうで、
少し申し訳ない気持ちになった。
私のパンケーキも半分あげると、
「そんなにくれるの?
優しいね、ありがとう。」と言って、
あっという間に完食した。
優しいのは、断然彼の方だ。
明日は日曜。彼は休日出勤。
その上、タクシーか朝帰りになるかも
と聞いていた。
つまり、彼が1週間で休めるのは、
土曜の今日だけだ。
先週のパンケーキのこともあり、
今日は彼の好きなように過ごそうと、
心に決めていた。
(日曜は1人でゴロゴロするつもりだ。)
規則正しい彼が
来週分の作り置きが出来るのも、
その買い出しも、
出来るのは今日だけ。
期日前投票にも行かなければならない。
そんな詰め詰めな休日くらい、
彼が好きな昼食を、それが例え、
パンケーキでなくラーメンだとしても、
一緒に食べるのもいいかな、と思った。
朝食を終えて、
彼はゲーム、
私は軽く化粧をし、
近くの投票会場に向かった。
途中、あちらこちらで満開の桜が、
静かな住宅街で暖かく咲いていた。
お花見は今週にすべきだったと、
先週の5分咲き桜を思い返し、
少し残念に思った。
少し悪い気もしたが、諦めきれず
「やっぱり、公園の桜見に行きたいな。
疲れちゃうかな?」
「そうだね、4時間のゲーム時間が
確保されるならどこにでも行くよ。
散歩ついでに見に行こうか?」
私の頭の中はあっという間に、
満開であろう公園の桜でいっぱいになった。
実を言うと、25歳にもなり、
人生で初の選挙だった。
私1人投票なんか行かなくてもと、
これまで無関心だったからだ。
世間知らずでいた自分を
少し恥ずかしく思う気持ちと、
彼に嫌われるのではないかと
若干の不安を感じた。
「お恥ずかしながら、私、人生で初めて。」
「うん、知ってるよ。」
到着し、列に並ぶと彼は、
「これが今回の候補者でね、
これが政策でね...」
まるで自分の娘に教えるような口調で
手取り足取り教えてくれた。
自分の番になり、緊張していたのか、
私は、投票用紙の折り目を無視して、
横折にし投函した。
もちろん、彼は見逃さなかった。
期日前投票の帰り、買い物を済ませた。
一度部屋に寄った。
空腹回避のため、シュークリームを
半分こして向かうことにした。
彼は生クリームが好きなので、
私がカスタード部分を少し食べて渡すと、
「ありがとう。カスタード好きだもんね。
僕は生クリームの方が好きだ。」
と、喜んで食べた。
私は甘党。本当は両方好き。
再出発、
他愛もない話で笑いながら歩き、
30分程で公園に着いた。
敷地内をしばらく進むと、
満開に咲いた桜のアーチが出来ていた。
広場や池周辺は、家族ずれなどで
程よく賑わっていた。
本当に、『程よく』だ。
「ここは穴場だね」と
2人共、若干誇らしくさえ思った。
彼は2人で写真を撮りたがる。
でも、正直、彼との身長差で、
カメラの角度が思うようにいかず、
あまり盛れない。
だから、個人的には納得がいかない。
これは女子的には大問題だ。
もちろん、このことは秘密だ。
「来年も桜見に来ようね」
「じゃあ、来年は、
お弁当を作ってお花見しようね」
自然と出た言葉だった。
いつもは、真面目な話を除いて、
未来のことを夢のように話すことが苦手。
(自分の気持ちを声に出して表現することも
劣っていると思う。)
『そんなこと、分からないじゃない?』
心のどこかで疑っている自分を
隠しきれないからだ。
でも、この瞬間だけは少し違っていた気がした。
お弁当の中身は、彼の好きな
『唐揚げと卵焼き』を
たくさん入れてあげよう、とさえ思った。
社会人になり、一眼レフカメラも始めた。
インスタもやっている。
周りと同じような話題の場所に行き、
写真を撮り、アップもする。
ただ、彼と見る桜は、
iPhone やカメラのレンズ越しでなくて、
同じ目線で、
同じ桜を見て、
同じ気持ちになりたいと思っている。
「僕との写真は載せないんだね。」
彼が冗談っぽく言った。
いつものように、「えへ?そうかな。」と、
とぼけて返した。
もう少し、自分の中で温めたい思い出。
誰かに共感してもらうのではなく、
私だけが知っている、幸福の時間。
あと少しだけ。ごめんね。と、
心の中で小さく謝った。
桜は一瞬、
その儚さが日本人は好き。
今、日本観光している外国人は
なんてラッキーなんだ。
ふと、高校時代からの友人の言葉を思い出した。
飾らず、いつもキラキラしていて真っ直ぐな、
彼女らしい言葉だ。
今日、その空間が、
なんて幸せで満ち溢れたものなんだろう
とも思った。
彼は帰宅後、着替え半ばに
直ぐ、お湯を沸かし始めた。
空腹で気分が落ちかけている私を察した。笑
と、後で笑って言っていた。
そんな風に一生懸命に作ってくれた
『ラーメン』
美味しいに決まってる。
私は甘い物が好きだ。
もっと言うと、ご飯を食べずに
甘い物だけで過ごすことも
おそらく平気だと思う。
インスタで見るパンケーキ情報は
常にチェックしてる。
大抵のお店なら知っているし、
季節限定メニューも把握済みだ。
そんな私が、
これまで意味無く避け、
選択してこなかったラーメン。
今日、彼の好きなラーメンが、
彼が作ってくれたラーメンが、
こんなに美味しかったんだ、
と気付いた。
彼が全力で作ってくれたインスタント麺は、
これまで、長時間並んでまで食べていた
ふわふわ溶けるパンケーキのように、
感動出来るものだと知った。
幸せと愛と、初めてが詰まった、
とても穏やかな、春の土曜日だった。
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