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今いる場所に、見える世界に陽が差した

今朝は早く目が覚めた

洗面所に行くと
窓から朝日が差し込んでいた

今日こそはシーツを洗おうと思った



彼の家に引っ越す前
独身の頃使っていたシングル用のシーツ
晴れる週末を待っていた

待っていたら苗字が変わった

彼と家族になって1か月が経とうとしていた


休日の朝食に
お決まりの卵焼きを2人で食べる
その瞬間が何よりも幸せだ



「大変、雨降ってきたよ」


出かける用意をしていると
彼が突然ベランダへ走り出した

子供みたいに楽しそうにして
干してあったシーツを手に取って戻ってきた


あっという間に梅雨空に戻った
朝見た太陽は
いつのまにか雲の中に消えてしまった



キッチンの周りを片付けることにした


「必要なモノは教えてね」
私が彼に言うと

「僕に必要なものは、***ちゃん」
彼は自然にそう言った

当たり前ですよって
今日の天気も雨ですよって

いつものようにさらっと答えた



「もしかして、ご両親は
アメリカ人だったりするかな」

「本当はマイケルとかって名前なんじゃない」


いつだったか
そう彼に尋ねたことがあった

これまで会った人で
そんな言葉をくれる人はいなかった

自分ががそんな存在に値することを
私は知らなかった

もちろん
お義母さんお義父さんは日本人だった

奥ゆかしい静かで穏やかな佇まいの
都会のご夫婦だった



全ての言葉は
彼自身の中から自然に出てきていた

そして
その言葉は間違いなく
私をキラキラとさせてくれた

価値を与えてくれた



片付けを進めると
床が2人のもので溢れていた

食器
タッパー
グラス

彼のモノで知らなかったものが
思った以上に多かった

私は、ただひたすら分別した
ほとんどがゴミ袋だと思った



「これはどうする」

半分捨てる気持ちが固まっていたが
一応彼に聞いた

「捨てていいよ、
僕のやつ、沢山使って汚れてるから」

彼は時々俯くようになった
横顔が少し寂しそうだった

申し訳ない気持ちで
胸の奥が少しきゅっとなった



「***ちゃんの好きなようにしていいからね」


寂しそうに笑って
彼はそう言った


自分じゃない他人に簡単に
「必要なし」に決められる

一体彼は
どんな気持ちだっただろうか

私達はもう他人ではない

だけど
私に決める権利はあったのだろうか

「ごめんね」と思いながら
私は続けるしかなかった



部屋の中が想像以上にスッキリした

こんなに広かったんだと
少し心が弾んだ

彼も喜んでいたのがわかった

表情が
子供みたいな無邪気なものに戻った

外の雨もすっかり上がっていた

「お散歩行けたね」
彼は笑ってそう言った



空は色々な表情をする


彼も色々な表情をする
その全てを愛おしく思う

自分もきっと
色々な表情をしている




「この前言ってたマンション、
 あそこじゃないかな」

散歩のついでに
新居を探すことが増えていた


「思ったより、結構遠いね」

最寄り駅から12、3分は歩いた
家賃はなるべく抑えたいが
でもさすがに遠すぎた

今回もまたいつものように
条件と家賃が折り合わずに終わったと思った



家族としてスタートする部屋は

綺麗で白い
木目調の温かい部屋が理想だった


理想だけが大きくなって
どんどん私から遠ざかっていった

新居への期待
このまま引っ越さずに終わる諦め

行ったり来たりの毎日だった


今回の片付けをきっかけに
これまでの気持ちがすっと軽くなった

本当に一瞬にして見方が変わった

そして、あっという間に
新しい期待でいっぱいになった


彼も同じようだった

「ダイニングテーブル置くとしたら
この辺じゃないかな」

自分の立っている場所を見渡して

少し興奮気味に
彼は嬉しそうにそう言った


「ソファはダイニングテーブルの前
その前にソファ用のテーブル
今のコタツじゃ少し大きいかもね」

彼もまた
期待でいっぱいになったようだった



今私達がいるこの場所で
2人で新たにスタートする

考えてもいなかった

正直新しくスタートすること自体
諦めていた

このまま

結婚する前とした後

変わらない生活なんだろうと
少し投げやりにすらなっていた


キッチン周りがスッキリした
テレビの周りも片付いた

部屋の中に
これまで無かった道が出来た

私達の中にも
新しい道が出来た

ふんわりと光が差した


「ダイニングテーブルにはお花を飾りたいな
ドライフラワーもいいよね」

興奮気味に言う私を
彼は笑顔で頷きながら聞いていた

新しいものに価値があると思っていた
新しいものに変えることで
スタートが出来るんじやないかと


今あるモノに目を向け
2人ど一緒に
丁寧に暮らしていく

充分、幸せなんじゃないか



見方を変えたら気持ちが明るくなった
頭の中の部屋に
色とりどりの花を飾ってみた

とても幸せに感じた


彼と始まった人生
スタートする喜びでいっぱいになった









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