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新日本保険新聞社【生保版】2021年7月5日号「法人保険の流儀」

※本稿を執筆している時点では、名義変更プランに関する所得税基本通達改定については、意見公募の結果が発表されている状態で、新通達の発遣ならびにFAQ等の追加情報はありませんので、本改定に関しては次号以降に書きたいと思います。


令和元年の法人税基本通達改定により、生命保険を活用した課税繰延効果は完全に封じ込められたのはご存知の通りです。

ただ課税繰延は法人における生命保険活用法の1つに過ぎず、この改定により法人での生命保険活用が出来なくなった訳ではありません。

今号では、課税繰延以外の法人における主な生命保険活用法について書きます。


〇役員退職慰労金引当金を活用した積立


令和元年の法基通改定前は、支払保険料の全額または大半を損金計上して役員退職金のための積立をおこなうことが一般的でした。

ただ前述の通達改定により、損金算入割合が高くかつ解約返戻率も高いという活用法が使えなくなりましたので、これからは終身保険等の単純返戻率が高い商品により役員退職金積立を検討することが一般的になります。

この際に問題となるのが、保険料経理処理と退職金支給時の経理処理です。

支払保険料が全額損金の場合には解約時(退職時)に解約返戻金を全額益金として計上し、そのまま役員退職金として損金計上(役員退職金の全額が損金に認定されると仮定)をすれば、解約時に課税所得が増えることはありませんでした。

これが支払保険料を全額資産計上するタイプの商品の場合には、解約時は資産計上の取崩となって益金が出ず、役員退職金の損金だけが計上されることになります。

法人によっては、役員退職金の支給事業年度に多額の赤字を出せないケースもあるため、支払保険料を全額資産計上するタイプで役員退職金積立を行う場合には、役員退職慰労金引当金を計上する必要があります。

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役員退職慰労金引当金は会計上の経費であって税法上の損金には該当しませんから、引当金計上は損益計算書上には費用として計上しますが、法人税申告書の別表四にて加算をする処理が必要になります。

なお引当金については、企業会計原則においては

①将来の特定の費用又は損失であること

②その費用又は損失が当期以前の事象に起因して発生するものであること

③発生の可能性が高いこと

④その金額を合理的に見積ることができること

の4要件に該当する場合には「計上出来る」のではなく「計上すべき」とされています。

この役員退職慰労金引当金を活用することにより、退職金支給時における決算書上の赤字を回避出来るために、金融機関や取引先に決算書を提出しなければならない法人や、公共工事に必要な経営事項審査制度を受けている建設会社などにおいては非常に重要な処理となります。

なお経営者には、「今までの法人保険で入口(保険料支払時)に損金を取って来ましたが、これからは出口(退職金支給時)に損金が取れるので、期間通算すれば同じです。ただ出口損金の方が返戻率は高く取れることと、この繰越欠損金を後継者へ継承出来るので、後継者は法人税負担が減りますのでかなり楽になりますよ」という説明をすれば、会計に明るい経営者はほぼ理解されます。

なお小規模法人等で経営者の勇退=退職金支給、その後に事業停止という場合には繰越欠損金のメリットが活かせない可能性がありますのでその点はご注意下さい。


〇変換権の行使

前述の役員退職金積立に活用する保険商品は、退職金支給予定時に単純返戻率が100%を超えるような保険会社の商品を活用することが中心になりますが、ここで押さえておくべき活用法としては、他保険への変換についてです。

退職金支給時に保険契約を解約または減額をしますが、その際に他保険へ変換出来る保険会社の商品にしておけば、保険料負担は発生しますが保障は継続することが出来ますので、個人での生命保険金非課税枠の活用や相続税納税資金の準備、保障が必要な他法人での付保ならびに分掌変更時であれば死亡退職金の支給による死亡退職金の非課税枠の活用など、退職金支給後の保障ニーズに対応することが可能になります。

特に代表取締役・理事長から、取締役・理事への分掌変更による退職金支給は、損金算入要件をキチンとクリアーする必要があることと、さらには分掌変更後の死亡退職金支給が損金算入できない可能性はありますが、受け取る相続人側からみれば相続税法12条1項5号の生命保険金の非課税枠と同項6号の死亡退職金の非課税枠の両方が活用出来るので、納税資金対策としては有効な手段になります。さらに夫婦で役員・理事をしていた様なケースで、2次相続発生時には、配偶者の税額軽減が活用出来ないので、さらに威力を発揮するケースも想定されます。

このように考えますと、一度契約した生命保険契約を最後の最後まで活用するようなケースを想定して、目先の保険料や返戻率だけでなく、先々に活用が出来る保険会社ならびに保険商品を選定しておくことは非常に重要な活用法と言えるでしょう。

さらに変換権の行使を上手く活用すれば解約返戻金がない、いわゆる「掛捨て」の生命保険を掛捨てにさせないことも可能です。

「掛捨て」とは保険期間終了時に満期金や返戻金がないために発生する事態ですから、最終的には保険期間を終身に変換することでコストを抑えて保障を確保することが可能です。

例えば法人の役員在任中は定期保険でコストを抑えて保障を確保しておき、勇退後にその保険を個人で引き継いで保障を確保することが出来ます。

その後は保険会社によって規定は異なりますが、終身保険に変換が出来る最長年齢まで定期保険を継続させて変換が可能な最後のタイミングで必要な保障額分だけを終身保険へコンバージョンさせれば「掛捨て」だった定期保険が掛捨てではなくなります。

このような活用法も想定した場合に、入口で契約する定期保険は保険期間・解約返戻金の有無・変換権行使・保険期間短縮の可否を踏まえて、どの保険会社の何を選択するか?は保険営業パーソンの腕の見せ所と言っても過言ではないでしょうか?

なお今回のテーマはTwitterで募集したアンケートを基に書きました(笑)

アンケートにご協力を頂いた皆さま、ありがとうございました。

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奥田雅也
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