『職人訪問録』 王耀慶×沈洋 存在しない音を探して
俳優・王耀慶さんと、バスバリトン歌手・沈洋さんの対談動画
沈さんの音楽に対する深い考え、王さんの的確で鋭い質問、おふたりのユーモアセンスも👍✨
https://www.youtube.com/watch?v=WuPg7jmemn8
王耀慶:舞台俳優
沈洋:オペラ歌手
北京初秋 初めての邂逅
沈洋:私たちは趣味を仕事としていますが、そうではない人は沢山いて、運転が好きだから運転手になる、というのはあまり関係ないように思えるけど、演技が好きなら俳優になれるし、歌が好きなら、音楽が好きならミュージシャンになれます
王耀慶:そうですね
沈洋:でも多くの人は私たちのように幸運ではない
王耀慶:さきほど、16歳まで声楽を専門的に学んでいなかった、と仰いましたね。それはそういう教育を受けて無かったのか、どうやって歌うようになったのでしょうか
沈洋:当時は流行曲を歌ってました。初めて舞台に立ったのは、確か…8歳かな《我終於失去了你(貴方はいなくなった)》(曲名)
王耀慶:趙伝(歌手名)
沈洋:年齢がバレますね笑。2曲目は《讓我一次愛個夠(一度だけ愛して)》(曲名)
王耀慶:庚澄慶(歌手名)
沈洋:そう、これは当時とてもいい歌でしたし、今でもとてもいい歌だと思っています
王耀慶:わかります
1:16 中国歌曲《聴雨》
我来北地将半年 北の地に来て半年
今日初听一宵雨 今日初めて夜雨を聴く
若移此雨在江南 もしこの雨が江南に降ったなら
故园新笋添几许 故郷でどれほど竹の子が生えるのだろうか
王耀慶:沈洋さんこんにちは、王耀慶です。(ピアノの張さんへ)こんにちは、お逢い出来て光栄です
沈洋:オペラの演技については私も以前考えたことがあります。オペラの演技を一言でいうと“ゆっくり”でしょうか。オペラの舞台は他の舞台より大振りな演技をする必要があり、まず音楽があるので、演じる人物の表情・会話や舞台上の状態に関わらず、全てがより大きく見えるんです
~メトロポリタン歌劇場 ヘンデル作曲 歌劇《ロデリンダ》の映像
沈洋:だから舞台では多くの場合、アクションシーンでもゆっくり対応する必要があります。以前メトロポリタンオペラでヘンデルの歌劇《ロデリンダ》をやったことがありますが、初めて稽古に行った時に2つの事をしました。ひとつはフェンシングの練習、もうひとつは稽古後にニューヨークの厩舎に行き、乗馬の練習をすることでした。 だって、舞台の上には本物の馬がいるんですからね
王耀慶:わぁ、大きなプロダクションですね
沈洋:でもそのアクションのコーチは、舞台は映画やテレビとは違うと言って、一番最初に話した事は「アイコンタクト」。必ず相手を見る。剣を振り出す時は常に相手の目を見る。速くなくていいから必ず正確にと。本番でNGはダメですから、もし間違えたらそこで一巻の終わり
王耀慶:ええ
沈洋:演技以外で、歌はもっとそうかと思うけど、私に言わせるとオペラは感情の塊ではないかと思うのです。限られた時間の中に感情が存在し、その感情は複雑過ぎてはいけない
《失われた歌声を求めて》と《黄自記念音楽会》の映像
沈洋:例えば2分間の歌の中で感情がコロコロと変わっていったら、聴いている人はその気持ちに付いてこられないし、それでは感情は伝わらない。あるときコーチから「微妙な表情が多くなりすぎないように、お客さんから見えないけど」と言われ、後で解ったのですが、メトロポリタンオペラのハイビジョン映像、このカメラでアップすると表情が良く見えるんですよ
王耀慶:そうですね
沈洋:本当に驚きました。技術の発展や進化は昔からのルールを変え、演じる私たちの考えすら変えたのです。テレビや映画に近づいたので、顔をもっと良くしないと(笑)そして表情はもっと良くしないと。そういうことをしっかりとやって行かないと
5:22(階段で発声練習シーン)
王耀慶:オ~
沈洋:そう、その力。身体全体で、全身が大きくなるような、全体の筋肉から力を出すような、そんな感覚。身体の底から、いわゆる「気」というのかな、全ての人の根源にある力。
王耀慶:ア~
沈洋:ア!!
(王さん驚いて飛びのく、沈さん爆笑)
王耀慶:「気」感じますね
沈洋:そう、爆発、中から外への
王耀慶:ア!
沈洋:そう!
王耀慶:以前は手紙、それがメールになって、今ではウェイボー、更にウェイシン(注:共に中国のSNS)と、どんどん加速する時代かと思いますが、「ゆっくり」やることで、何か困ったことや問題は起きてませんか?
沈洋:突然に思いついたことですが、今は誰でも写真が撮れるので、上演後のカーテンコールで写真を撮ればその写真は残ります。でも、もしそのスマホを無くしてしまったら?私たちの頭や意識だけが芸術を認識し、聴いた人だけが、芸術に触れて感じた気持ちこそが真に残っていくものであって、これは誰にも盗まれることが無い。業界に従事する者の責任として思うのは、この永遠の美しさを残すことで、それは心の中にあり、盗むことも奪われることがない
王耀慶:私がここに来た時に歌曲を歌ってらっしゃいましたが、これは自分が好きだからか、それとも仕事だから、歌われるようになったのでしょうか
沈洋:私にとって中国歌曲を歌うことは、文化的なアイデンティティー見つけることでもあり、自信やルーツを見出すことは成長していく上で欠かせないものです
《黄自記念音楽会》の映像
王耀慶:自信と大きく関係しているんですか
沈洋:しています。なぜかと言うと、ベートーヴェン、ブラームスなどを歌う1人の中国人として、仕事として西洋音楽を歌いますが、一体何が自分のルーツなのだろうとよく考えます。西洋音楽は自身の文化でもないし、自分とは何の関係もないし、自分がやる必要もない。ただそれが仕事だから。いつもそう思ってます、自分に何が出来るのかと?
王耀慶:私の方でもそう思う事がありますね
沈洋:今日は張佳佳先生にお越しいただいてますから、よければ1曲いかがですか
王耀慶:いいですねぇ
沈洋:では《教我如何不想她》を
王耀慶:いいですね
音楽会 中国歌曲《教我如何不想她》
(歌詞)月光恋爱着海洋 海洋恋爱着月光 啊 西天还有些儿残霞 教我如何不想她
(歌詞対訳)月の光は海に恋し、海は月の光に恋をする あぁ西の空にはまだ夕霞 彼女を思わずにいられない (※注:上記は曲中の歌詞を抜粋)
王耀慶:ありがとう、ありがとうございました。1曲880元、2曲で1,760元、儲かりますね!(注:2023年5月現在 1元=約20円)
沈洋:(爆笑)
9:22 ビーフステーキ
沈洋:ここよく来ているんですよ、昨日と一昨日も来て、何度も来てます。ビーフステーキ好きなんですよ、アメリカで学校に通っていた時や、仕事でニューヨークに住んでいた時にいつも食べてました。ウォール街って言ったら「牛」でしょ、強さの象徴でもあります。(注:「牛」は中国語で“牛”の他にも“凄い!”という意味もある) いつもご飯は自分で作ってます
王耀慶:自分で作ってるの?
沈洋:何でも作れますよ
王耀慶:いつから始めたの?
沈洋:海外で暮らしてるから、しょっちゅう作ってます。魯肉飯(ルーローファン)が好き。すごく美味しいから。でもすぐ太っちゃう
王耀慶:でも現状維持は必要ですよね
沈洋:太り続けるのもできなくて、最近ちょっと痩せたけど、太りすぎてもいけないですね
王耀慶:玄学みたいに、どのくらいをキープすれば良いかは難しい?(注:玄学とは昔の中国哲学思想)
沈洋:あまり痩せたことないから、どうなのか解らないなぁ
王耀慶:長く歌えるのか、長く演技できるのか、例え上手くいかなくても決して悪いことではない、それはまた新しい事をする始まりってことかな
沈洋:そう、だから自分は人生に常に変化を求めているし、一夜で、一瞬にして変化したりもする。どんな変化に対しても積極的に向き合うことが、相対的に見て正しい姿勢ではないかと
王耀慶:その前に十分心構えと準備をしなくてはですね
沈洋:ですね。強い人はどの方面でも強いですから、王さんも商売をしたらきっと上手くいくかと
王耀慶:わぁ、悪徳商人になりたいかも!
沈洋:(爆笑)
11:20 北京の胡同(裏通り)散策
王耀慶:どのくらい干してます?
お姉さん:1日よ
王耀慶:1日で乾きます?
お姉さん:乾くわよ
沈洋:写真は私の趣味で、視覚的に音楽の延長線上にあるのかも。撮りますよ、はいOK
王耀慶:点滅しているけどこれは
沈洋:露出オーバー
王耀慶:私が幸せだなって思うのは、沈さんは好きなことをずっとできる、ということです
沈洋:そう、人生で何か別のことをやってみようかなって思う時があります。何か新しいことにチャレンジしてみたいなと。でも何か新しいことをやって、本業への集中力を失ってしまう時があるんです。人生は短い。おっしゃるように、一つのことに集中しているうちに、30年、40年が過ぎてしまいます。美しいものを探求するのに時間が足りない
王耀慶:全然時間が足りないですね
沈洋:実は1人1人にその責務があるのかもしれません。「天陣大任幹斯人也」(注:「天は人に大きな事を任せるとき、必ず苦しい状況に陥らせる」)という言葉がありますが、1つのことを信じれてやれば、それが出来るからです。張耀慶、劉耀慶を探してやらせればよい、というのではなく、王耀慶しかできないことがある
王耀慶:でも考えたことあるでしょう、自分はなぜここにいるのか、そしてどこにいくのか
沈洋:それは運命に任せてます
王耀慶:運命に?
沈洋:ええ、確かに努力すれば何かを成し遂げることができるかもしれない。でもその成し遂げたものは自然界からの贈り物でもあります。その道に終わりはないのかもしれないけど、私たちの人生には終わりがある
王耀慶:弾丸が飛んでいるような
沈洋:そうです
我来北地将半年 北の地に来て半年
今日初听一宵雨 今日初めて夜雨を聴く
若移此雨在江南 もしこの雨が江南に降ったなら
故园新笋添几许 故郷でどれほど竹の子が生えるのだろうか
13:39 職人訪問録
王耀慶:今日初めてお目にかかった訳ですが、いかがでしたか?
沈洋:深い話ができました、心は遠い昔に逢ったことがあるんじゃないかと
王耀慶:今日は体的に初めての出逢いでした
沈洋:(爆笑)
王耀慶:喜劇?それとも悲劇?
沈洋:悲劇
王耀慶:喜劇…なんで悲劇を選ぶの?
沈洋:喜劇は悲劇の始まりだから
沈洋:北京初秋 初めての邂逅
王耀慶:もう1回、北京初秋 初めての邂逅
沈洋:(爆笑) 北京初秋 初めての邂逅
王耀慶、沈洋:(爆笑)
王耀慶:共演できるといいですね
沈洋:ですね
王耀慶:(爆笑)
おわり