《師説心語》中国のテノール・石倚潔(Shi Yijie)さん
《師説心語》中国のテノール・石倚潔(Shi Yijie)さんの、質問への返答&アドバイス動画。石さんのおっしゃる内容に感銘受けたので訳してみました。
<内容>
・大学の勉強で一番大切な事は?
・大学ではどのような人材を育てようとしているの?
・テノールはhigh Cを出せないとダメ?
・どうしたら高音が出せますか?
・発声練習場所について、要望はありますか?
■大学の勉強で一番大切な事は?
石倚潔:大学の勉強で一番大切なことは、「勉強しなさい」から「勉強したい」になることです。小さい頃から家の人に、お父さんお母さんから「勉強しなさい」と言われ、大学に入学すると、皆さん感じていると思いますがそう言う人はいなくなる。それは大人になったからで、今までは高校の担任の先生や両親から勉強しなさいと言われ、大学入試のプレッシャーもあった、そんな状況が大学入学後は一変し、今度は「勉強したい」になる。どんな専門分野を勉強したいのか、自分の目標は何なのか、何に興味があるのか。そうすれば上達も速くなると思います。
■大学ではどのような人材を育てようとしているの?
石倚潔:大学が育てたいのは、社会や職業として必要とされる人材。例えば声楽家の場合、歌だけの人は就職にちょっと弱いでしょうし、求人数もそんなに多くありません。歌がとてもとても上手で、特に素晴らしい歌手であれば歌の仕事だけでやっていけますが、一般的に歌手の職業需要はそんなに多くなく、需要があるのは小中学校の音楽の先生や音楽教育に携わる先生です。楽器演奏が出来て、歌えて、理論的知識があって、いろんなことが出来る人材は必要とされますし、声楽について言うと、合唱も指揮も出来れば社会的な競争力も更にアップします。
■テノールはhigh Cを出せないとダメ?
石倚潔:テノール、頭に一言付け加えなければですね、リリックテノールにはこの音が必要です。何故かというと高音を出した後、達成感があって自分がカッコよく思えるから、ではなく、いろんな作曲家がオペラの中で、例を挙げると皆さんよくご存じのプッチーニ《ラ・ボエーム》のアリア「冷たい手を」では、この音が楽譜に描かれているから、だからリリックテノールがこのオペラを歌う時この音を出さなければいけない、そういうことです。どれだけ高い音を出せるのかが大切な訳ではなく、体育競技のどれだけ早く走れるか、ジャンプできるかとは違って、人が「美しい」と感じるポイントはそこではありません。作曲家が楽譜に描いた音を、自らの技術を用いて音にして表現するだけなんです。先ほどリリックテノールにはhigh Cが必要と申しましたが、ヘルデンテノールやリリコ・スピント、ドラマティコは声に重さがあり、更に中声部よりの方、その場合high Cが出なくても問題ありません。例えばカラフ役のテノールが最後の「Vince~rò~!(B)」を歌い、彼にとってそれが限界だとしても問題ありません。タイプが異なれば、求められる内容も異なります。私のようなレッジェーロ寄りのテノールには時としてhigh C以上の高音が求められます。ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティには楽譜にD♭やDがあり、特にドニゼッティはhighE♭も出てきます。曲によって求められることが違う事と、そして皆さんに覚えておいて欲しいのは、高音は自慢するためのものではないということです。見せびらかすためではなく、作曲家が楽譜に記した世界や音符をただ再現しているだけなんです、いいですね。確かに歌は2つに分けられる。これまでずっと学生達に言ってますが、1つはこの技術で、ロッシーニはコロラトゥーラのアリアを沢山作曲し、まるで雑技のように技術見せびらかしの要素があります。歌声による雑技を披露しているような、そんなアリアや歌がある。でも私はもっと心のある、魂のある歌い手になりたいと思っています。技術は音楽・言語・感情を表現するためのもので、それでこそ歌は人の心の奥底に届き、感動するものだと。自分の心にある感情を、どう言葉に乗せて歌えば聴いている人の心に届くのか。人の心の中には特に繊細な部分があり、それは人それぞれ異なります。心を、魂を打つ歌、聴いている人の心の琴線に触れられるかどうかは、歌い手次第なのです。
■どうしたら高音が出せますか?
石倚潔:どうやったら高音を出せるのか。皆さん私に高音を出すための秘訣があると思っていらっしゃるようですが、先にハッキリ申し上げます、それはありません。歌を学び始めた時はf2までしか歌えず、練習に練習を重ねました。多くの方から、自然に、生まれつき高音が出せるんでしょ、とよく言われますが、生まれつきではなく練習して出せるようになったんです。それも長い時間をかけてね。先生から教わり絶えず勉強・練習することで、漸く一定の高音が出せるようになる。高音を歌えるようになるとは断言できませんが、正しい指導を受け、正しくアプローチしすれば、一定の音域内で誰でも歌えるようになります。
■発声練習場所について、要望はありますか?
石倚潔:皆さん練習室で歌っている時に、部屋が狭いため自分の声がわんわん響き、自分の声って大きいなと思ったりしてませんか?その後、試験の時にホールへ行って歌うと、パニック状態になる。「うわっ、なんでいつもと違うんだ!なんで自分の声が聞こえないんだ!」って。そんな時、先生はこう言います「練習室で歌ったように、ホールでも歌いなさい。」ホールでは自分の声があまり聞こえてこないけど、客席へ届く声量が減っている訳ではありません。座っているお客さんは皆あなたの歌を聴いている。だから自分の声が聞こえなくなった時、くれぐれもいつも以上に力んで歌ったりしないように。力むほど声は出ないし、力まない声だけが遠くまで届んですよ。なので皆さんドキドキした気持ちを抑えてホールでは平常心、いつもの調子で歌って下さい。謝々。