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「高学歴男女のおかしな恋愛~蛙化した彼とのその後~」第19話
祥太郎が美那子と結婚すると言ったとき、新藤は落胆はしたが、どこかほっとした。
だから、祥太郎にも笑顔でおめでとうと返すことができた。
祥太郎は美那子に恋してはいない。
人生のパートナーとしてちょうどいいと思ったから選んだのだ。
そのことが痛いほどわかった。
祥太郎が好きだった女を新藤は知っている。
会ったことも見たこともないけど、その女は祥太郎の大学の同級生で、東京で研究職に就いた女だと祥太郎から聞いていた。
その女のことを話すとき、祥太郎は夢中だった。
女への祥太郎の気持ちは、手に取るようにわかった。自分でなくてもわかっただろう。それぐらい祥太郎の強い気持ちがダダ洩れだった。
自分はそれを壊した。
祥太郎が好きだったからだ。単なる焼きもちだ。
自分がそのポジションに収まりたかったわけではない。ただ無性に壊したかっただけだ。我慢がならなかっただけだ。
祥太郎のことは諦めるつもりで、彼女との別れと引き換えに会社に入るかと声をかけた。
当然ことわってくると思っていた。祥太郎は長い付き合いを経ても彼女への熱は冷めてなかったからだ。
「俺、おかしいと思うんですけど、いまだにカノジョのことで頭がいっぱいなんです。仕事中でも。こんなに好きなのってちょっとおかしいですよね」
祥太郎は真顔で相談してきたことがある。
それほど、祥太郎は香月里奈という女を愛していた。
しかし、意外にも祥太郎は自分を、仕事を選んだ。
理由はわからない。
いや、今ならわかる。彼は選択を間違ったのだ。魔がさしたとしかいいようがない。
ハードに働くことに疲れていたからだと思う。
厳しい業界で死ぬ思いで働いたものは、いつしか早い「あがり」を求めるようになる。
自分だって同じだ。だから、投資の会社を立ち上げた。
事業を生み出してみたい、次世代のアップル、マイクロソフトを育ててみたい・・・言い訳はいくらでもある。
しかし、本音はたっぷり稼いで安心を手にしたいのだ。余裕を持って働く権利を手にいれたい、できるだけ早く。
その思いが悪くなかったこと、間違ってなかったことを新藤は、この仕事をはじめて思い知る。
投資される側の起業家たちも全く同じ心境のものが少なくないからだ。
成功すれば、皆、インタビューでは夢を語るが、実際はそんなにきれいな話ではない。
投資の世界は、投資する側も投資される側も、とにかく金、金、金の世界だ。
そんな世界の水に自分は合ったが、祥太郎はそうではないみたいだ。
自分もそうだが、彼も十二分な金を手にした。
いつでも仕事からは離れられる状態だ。
新藤は秘かに祥太郎が仕事を辞めると言い出すことを恐れていた。
そんな矢先に、聡子から思いがけない情報がもたらされたのだった。