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「高学歴男女のおかしな恋愛~蛙化した彼とのその後~」第24話(最終回)

 祥太郎の妻に不倫がバレたときは、どうなることかと思った。
 里奈は祥太郎と別れるつもりがなかったし、祥太郎もそうだろうと思っていたから、祥太郎が妻にたくさんの金を払い、別れるのだと思った。 
 奥さんとはどうせ愛のない結婚なんだろうし(金目当ての女なのだろうし)、カネの切れ目が縁の切れ目になるのだろう。
 しかし、妻は祥太郎とは別れないという。
 これは意外だった。お金をもぎ取ればそれで気が済むだろうと思っていたからだ。
 そして、女はおかしな条件を出してきた。紹介する男と結婚しろというのだ。
 里奈は面白半分で話にのるフリをした。
 しかし、紹介された男、新藤はなかなかに魅力的なおもしろい男で、思わぬことを口にした。
 あなたと結婚することで、ずっと祥太郎につながっていたい。
 祥太郎の妻も知らない新藤の気持ちだ。里奈はそれにのってみることにした。
 なぜこんなおかしな関係に身を投じようと思ったのか? このままではあまりにも自分の立場が弱すぎて、損だと思ったからだ。
 愛人には何の権利もない。世間に示すことのできる肩書きもない。
 幸い自分には仕事があるが、それだって一生続けられるかどうかわからない。
 会社に切られることもあるかもしれないし(リーマンショックのような不況は何十年かに一度は必ずまわってくるだろう)、病気になるかもしれない。
 今回のおかしなごたごたをきっかけに先を考えると、自分の体や能力だけに頼った生き方にふと自信がなくなったのだ(「若さ」や「順調」は永遠ではない)。
 それは祥太郎の妻と自分を対比したからかもしれない。そう思ったから、新藤の申し出を受けることにしたのだ。 
 それに、新藤を夫としたなら、祥太郎と続けることができて(祥太郎の妻の条件をのみ込んだといえば、祥太郎は納得するはずだ。彼にはそういう合理的なところがある)、子供だって設けることができる。
 新藤のことを愛せるとは思えないが、ただパートナーとしては十分な相手だと思えた。
 祥太郎と再会しなければ、こういった相手と自分は結婚しただろう。そう思えたのだ。なら結婚して子供を作ってもいい(祥太郎もこんな気持ちで今の妻と結婚したのだろうか)。
 自分はただ祥太郎の妻の理不尽でおかしな提案に屈するのではない。
 このまま流れに身を任せれば、何も失わずに、新しい幸福が手にはいるのだ。
 できるならそうしたい。
 女と生まれたからには、やはり子供は産んでみたいのだった。
 お金だってないよりあったほうがいい。
 新藤と子供をもうければ、どんなことだって子供にしてやれる。
 望むなら、どんな教育だって受けさせることができる。
 そんな生活も悪くない。
 祥太郎とは不倫だったので、子供のことはハナから諦めていた。
 妻にバレたのでますます無理だろう。そう思った。
 しかし、新藤が相手なら話は違うのだ。
 里奈の人生はまたいちだんと大きく膨らむ。
 そう考えると、祥太郎との不倫がいかに自分に不利に働いていたかにも気づかされ、ますます新藤がいい男に見えるのだった。 
 それに、新藤と子供を作ることも嫌ではない。新藤は見た目の整った男だし、優しさもあり、頭もよい。
 気持ちは祥太郎に向いているが、それを里奈は不思議と嫌とも気持ち悪いとも思わないのだった。
 後で知ればこうはいかなかったのかもしれないが、二人はいいスタートをきれたのだろう。
 運も味方しているのだ。
 それにしても・・・里奈は首をひねって考える。
 自分は新藤をかなり信頼しているのかもしれない。
 新藤をパートナーとして実践するこんなおかしな話にのってみる気になったのだから。
 どうしてそう思ったのか、正直わからない。同じ人間を好きになったからか。秘密を共有しているからか。実は現状に耐えられなかったのか。
 そのあたりは今後の付き合いでわかっていくことだろう。
 あせることはない。
 新藤と結婚したら仕事を辞めるのもいいかもしれない。
 祥太郎の妻と同じ位置に座るのだ。
 そうなったとき、あの女は私にどんな口をきくのだろうか。
 祥太郎の愛人として接し続けるのだろうか。新藤の、夫の上司の妻として接するのだろうか。
 どうなるんだろう。
 里奈は武者震いがする。
 祥太郎との再会がもたらした新しい生活は、退屈な里奈の人生をエキサイティングなものにしてくれた。
「今井君、連絡先交換しよ」
 大学生のとき、祥太郎にそうやって話しかけた自分を思い出す。
 実はあの頃から自分は人生に退屈していたのかもしれない。
 私は祥太郎を選んだのではなく、退屈ではない人生を選んだのだ。
 その結末がどのようなものになるか、私はこれからもしっかりと見ていくつもりだ。自分のこの目で。

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