とびしょくミーム

「とびしょくの男性が…」テレビのニュースを見ながら朝ごはんを食べていた当時中学生の娘は「とびしょくって何?」と訊いてきた。「なんだと思う?ほら名前から想像してみ」と言っても、「ええー、わからない」と言う。「いや、ちょっとはわかるでしょ」なんて言いながら、わたしは自信満々に説明をしはじめて……、途中で道に迷うことになるのだった。

ほら、とびしょくっていうくらいだから、飛ぶんよ。ん?飛んではないか。飛んだら落ちちゃうもんな。飛ばないんだけど、高いところにいて…、やっぱりちょっとだけ飛ぶの。足場の間をちょっと飛ぶのかな。あれ?!とびしょくって、足場をちょびっと飛ぶところをフィーチャーして命名してんのか?そんなわけないよな…足場の間を飛ぶなんて危ないか…。そもそも足場に隙間ってあるのか?!ってことは、飛ばないや。ごめん!わかんない。なんでとびしょくって言うんだろ。ってか、わたしが思ってるとびしょくってとびしょくであってるんか?!

娘はすでに呆れている。そんなに真剣に訊いたわけでもないしっていう顔。わたしはもう気になってしょうがなくなり、スマホで検索した。

あ、「飛び職」じゃなくて「鳶職」なんて。
とんびなんだわ。とんびみたいに動くんやな。いや、違う。とんびのクチバシの形に似た道具を持ってるからだ。へえー。

「ほんで何をする人なんよ?」と。
あ、ひとりで夢中になっててまだこたえてなかった。「建設現場の高いところで作業する人だって」

二転三転する説明に「この朝の貴重な2〜3分をムダにしよって、どうしてくれるよ」と娘。
それ以来、娘とわたしの間では「自信満々で言い切ったものの、あっているかあやふやなことがら。結局間違っていたりする。」のことを「とびしょく」と言うようになった。

たとえば「あ、この役者さん、あの映画にも出てる!……とびしょくだけど」とか。 思いついたことはすぐ口にしたい。でも断言した途端に「……」がやってきちゃう。そんなとき「とびしょく」は便利。言ってることがあっててもあってなくてもよくなるから。「とびしょくなんだけどさ、」って感じで前置きにも便利。相手がモゴモゴし出したら「ん?とびしょくなん?」ってなツッコミもいける。これってもしかしてミームってやつか?!……ミームであってるかどうか…「とびしょく」だけど。

そういう、なんかの状態を表す新しいことばってすごく便利でおもしろい。若者ことば、日本語の乱れなんて言われるものも、なかなかうまい表現があったりして実におもしろい。

そしてつい先日。
わたしは関節リウマチに罹患していると知った。わたしの免疫がはりきってわたしの関節を攻撃しているらしい。おいおい免疫くん、なにしとんのよ。これからなのよ、わたし。子育て終わりが見えてきて、第2の人生がこれかいな……。

この「はりきって矛先を間違えてる」っていうのは、なにか使える場面がありそうな気がするから一言で表したくなる。なんて言おうか。「リウマチ」んー、なんだかひねりが足りないような…。

リウマチはわたしにとって未知の世界。未知の闘病生活がいまから、しかもずっとずーっと続く。きっとはじめての体験をいっぱいするんだな。ってことは、新しいことばを生むヒントもゴロゴロ転がってるんだろうな。じゃあ、その…病気とはいえ…、たのしい?!けっこうたのしめる?!と、気持ちを高めてみる。

そんないまの気持ちを表すことばも新たに作んなきゃ?!
いや、この気持ちは「強がり」だな。もうあることばだな。

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